жマグナム・オーシャンж

 

シーン@ プロローグ

シーン@ 大地が悩むシーン

シーン@ 俺たちの10

シーン@ フットサル

シーン@ 交流試合

シーン@ ももの夢のシーン

シーン@ 亀裂発生

シーン@ 陸上部年引退

シーン吾郎のビデオを見るシーン

シーン@ 浩太の気持ちを知るシーン

シーンももにお願いするシーン

シーン@ 自主練には参加せずももと練習するシーン

シーン@ ももがなぜ夕日の海で振り向かないのかという問題

シーンすべてを教える決意をするシーン

シーン@ お前の目は節穴かの答え

シーン@ チームの戦略

シーン@ 最後の大会開始

シーン準決勝

シーン@ 決勝

シーン@ 前半開始

シーン@ ハーフタイム

シーン@ 後半

シーンラストシーン

 

シーン@ プロローグ

 

 夕日はすでに海の中に沈んでいる

それでも、海はまだ茜色にキラキラ輝いている

 

風と波の音しかしない浜辺で

大の字になって寝転んで

まだまだ明るい夜空を見ている

強い光を放つ星だけが輝いている

 

髪の毛を頭のてっぺんで結んで

おでこを丸出しにしている男の子のような小学3年生の女の子

 

ももはお気に入りの流行歌を歌っている

 

もも「誰だーてー、傷を持ってーるー

   「おもーいでのー青いページにー

 

大地「お前その歌好きだな」

 

もも「青いページって何?」

 

大地「知らね」

 

ももは続けて歌う

  「誰だーてー、夢を持ってーるー

もも・大地 「たそーがれとー同じ色のページにー

 

もも「黄昏と同じ色のページってなに?」

 

大地「知らね」

 

もも「ららーらららーららーらららーら

 

 

   「らららってなに?」

 

大地「知らね」

 

もも「お前は何にも知らないんだなー」

大地「おめーもだろ!」

 

もも「あたしは、なんとなくわかるもん」

 

大地「せこっ!」

   「なんとなくなら俺も分かる」

 

   「「ららら」なんて思いつかなかったから

    「ららら」なんじゃね?」

 

もも「ぶー!はずれー」

   「だって2番は違う歌詞だもん」

 

大地「そっかー」

 

もも・大地「ららーらららーららーらららーら

 

 

ももは、歌を歌いながら星をいくつか選んで空の大きなキャンパスに絵を描いている

 

大地「何してんの?」

 

もも「ん?」

  「あれ」

ももはそう言いながら一番強く輝く星を指さしている

 

大地「どれ?」

 

もも「一番明るい星」

 

大地「どれ?」

 

もも「あれだよ、あれ!」

 

大地は見ている場所が違うのでわからない

だから、ももの顔の方に顔を近づけ同じ方から見ようとしている

 

もも「わあああ」

大地「あ?」

もも「暑苦しい、近寄るな」そう言いながら顔を真っ赤にしている

大地「だって、どれかわかんねーじゃん」

もも「あれだよあれ!」

大地はやっとその星がどれかわかり

 

大地「ああ、あれね」

 

もも「あれがあたし」

 

   「その横にもう一個明るいのがあるでしょ」

 

大地「ん?・・うん」

 

もも「あれが大地」

 

大地「え?」

   「あの星しょぼくね?」

 

もも「あははははは」

   「お似合いだ」

 

大地「ももちゃ、せこっ!」

 

もも「その2つの下に4つお椀みたいに並んだ星があるでしょ?」

 

大地「あ〜、なんか暗くね?」

 

もも「あははははは」

  「お似合いよ」

大地「へ?」

 

もも「一番左〜、左サイドバックしゅうへい〜」

   「二番目左〜センターバック雄治〜」

   「3番目〜センターバック浩太〜」

 

大地「浩太ボランチだし」

 

もも「も〜!いいの!」

   「浩太はどこでもできるんだから〜」

   「おとといセンターバックやってたでしょー」

 

大地「あ・・ああ・・・テキトーだな」

 

もも「細かいなお前」

 

大地「お前、言うな!」

 

もも「お前お前お前お前」

 

大地「あのな〜〜〜」

 

もも「んで、一番右、右サイドバック景山〜」

 

大地「ふ〜ん」

 

   「で?」

   「それが何?」

 

もも「6つの星、全部いっぺんに見て!」

 

大地「ん〜?」

 

もも「ほら、ニコちゃんマークみたい」

 

大地「・・・・・・なにそれ・・・・」

 

もも「かわいーでしょー」

 

大地「全然」

 

   「そんなんだったら、何でも作れるだろ」

   「じゃあ、俺はライオンを作るぞ」

 

もも「獅子座は、あるでしょ?」

 

大地「え?そうなの?」

   「じゃあ、トラ」

 

   「トラはある?」

 

もも「知らない」

 

大地「じゃあ、作ろう」

もも「うん、作ろう」

 

二人は、あーだこうだ言いながら星座を作った

二人の並べられた頭の上には

ボロボロのサッカーボールが2つ

二人の頭と同じように並べられていた

シーン@ 大地が悩むシーン

 

高校総体県大会 準々決勝

 

大地は玉之浦高校のTOP下として10番を背負い戦っていた

 

敵チーム「10番さえ押さえておけば後はたいしたことねー」

     「絶対にマークを外すなー!」

 

大地は3人に囲まれながらもなんとかボールを保持するが

前にボールを進めることができない

 

大地「くっそう!」

 

観客席では、ももやクラスメートたちが応援している

 

クラスメイト達「大地へのマークがきついね」

        「かわいそう」

もも「ばかな」

   「あのポジションは、あれで当然」

   「あれを何とかしてこそ10番でしょ」

 

   「あーーーーー!」

    「バックパスしやがった!」

    「だいちぃいいいいいいいい!」

    「ぼけーーーーー!」

     「かすーーーーーー!」

 

クラスメイト達「ももちゃ・・・ひどい」

 

試合は互角のまま進みお互いシュートまで何本か行っている

玉高GKのまことは持ち前の反射神経で

きわどいコースに撃たれるシュートをことごとく

弾き返していた

 

後半になり0-0のまま時間が過ぎてゆく

得点をとるために前がかりになった玉高の

一瞬のすきを突きカウンターで相手チームに得点され

1-0で、敗戦してしまった

 

クラスメイト達「あああああああ」

もも「・・・・・・・」

 

 

観客たち「玉高っていつもベスト4に残るのにな」

     「今年は弱いな」

     「決定力が全然ない」

 

クラスメイト達「・・・・・・・・」

 

大地たちは肩を落としながらコートを後にする

 

玉高センターバック雄治とボランチの浩太は大地の小学生からのチームメイト

 

大地と雄治・浩太は帰り支度をしながら話をしている

 

雄治「大地!そんなにへこむなよ」

大地「え?」

   「ああ・・・」

浩太「今日は特にマークがきつかったね」

雄治「2回戦で点取りまくるから」

   「マークがきつくなったんだろ」

   「ほどほどにしとかんとな」

 

 

浩太「あのきついマークの中よくもててたと思うよ」

 

大地「・・・・駄目だ・・・」

   「マークされて、それを何とかしてこそのポジションだ・・・」

 

   「マークされることによってせっかく空いた

    スペースをいかせないと・・・負けたのと同じだ」

 

雄治「まぁまぁ、へこむなへこむな」

浩太「そうそう」

そのあと、大地はずっとぼんやりした顔をして

みんなとの帰り道もずっと気のない返事をしていた

 

 

 

大会が終わり、玉之浦高校サッカー部では、再びポジション・レギュラーの

見直しを行うため実践を前提としたA・Bチーム混合シャッフルでの

紅白試合が行われていた。

普段Bチームのエースである拓真から大地へと鋭いスルーパスが放たれる

しかし、その速い球を大地は拾いきれずに、ボールはエリアの外に出てしまった

 

左サイドハーフ:拓真「しぇんぱい・・・すいません」

   「ちょっと前過ぎました〜」

大地「ああ、いや俺の出だしが遅かった」

   「あれでいい」

拓真「あざーす」

   「次こそ決めましょうね!」

拓真はそういいながら目をキラキラさせている

 

トップ下のポジションに入っている大地がボールを持つと

警戒している相手のボランチ二人に囲まれてしまった

しかし、それは大地の特徴であり、そのことによって周りの選手がフリーになる

いつもなら、上手くかわしフリーになった選手を見つけパスを出すのだろうが

今日の大地は違った

 

大地「ちっ!」

 

レフリーの笛が鳴る

大地はファールを受けフリーキックのチャンスを得ていた

距離は30

大地なら直接狙える距離だ

 

拓真「しぇんぱい!ばっちり決めてくだしゃい!」

そういいながら、目をキラキラさせている

 

ゴール前ではシュートコースを切るための壁が作られている

 

大地「拓真、蹴ってみるか?」

拓真「へ?」

   「と・・・とんでもない!」

 

大地「蹴りたくないのか?」

拓真は目をキラキラ輝かせながら

   「け・・・蹴りたいです!」と答えた

 

大地は「じゃあ、頼んだ」と言いながらセカンドボールを決めるために壁の中へと消えていった

 

大地の親友、雄治は今回は敵チームのセンターバックを勤めているが

大地がキックを蹴らないことに驚いている

 

雄治「大地!何で壁のほう来てんだ」

   「絶好の位置だろ、おめーが蹴れ!」

大地「だっべってねーで、集中しろ、タコ」

 

レフリーの笛が鳴り

拓真がボールに対して深く踏み込む

踏み込んだ足は沈み込み、けり足が鋭く振りぬかれた

 

雄治「曲がるぞ!」

 

GKまこと「!!!!!」

 

拓真のフリーキックは鮮やかなコウを描きながらゴール左隅に吸い込まれていった

 

チームメイト「おおおおおおおおお!」

        「やったーーーーーー!!!!」

        「拓真!かっけー!」

 

雄治「ちっ!」

 

拓真「やったー!」

   「やったー!」

   「わーい!」

   「わーい!」

 

大地はゆっくり拓真のほうに近寄っていく

拓真「しぇんぱい!ありがとうございます!!!」

 

大地は何も答えず、ただ優しく拓真の頭をなでてあげた

 

紅白試合は大地たちのチームが1-0で勝利し終了した

 

負けチームになってしまった雄治は悔しくてイライラしているようだ

雄治「ちっくしょー!」

   「あー、腹立つ!!」

 

そこに、県選抜の練習を終え、浩太が遅れて練習にやってきた

 

みんな「おおーーーこーちゃん!」

    「おせーよ」

 

浩太「あー、ごめんごめん」

 

雄治「おっす、浩太。残念ながら紅白試合今終わったし!」

   「おめーの出番なし!」

 

浩太「え〜〜〜、、終わっちゃったの??」

   「で、・・・雄治どうだった?」

雄治「聞くなーーーー!」

   「あほーーーー!」

浩太「あはは・・・」

   「そう・・・」

   「大体分かったよ・・」

 

雄治は「くやしーーーー!」と叫びながら頭をかきむしっている

 

浩太「そっかー、紅白が終わったって事は、後は自主練だけ?」

雄治「おうよ!」

   「浩太!特訓だ!」

浩太「え?」

雄治「早く着替えろ!」

   「県選抜ボランチのおめーを、この俺様が、びっしゃっびしゃにのしてやるから!」

 

浩太は困った顔をしながら

   「あ・・・そう・・・」

   「お手柔らかに・・・」と返事をしながら、その場で着替え始めていた

 

そこに大地がやってきて

 

大地「おお、浩太お疲れさん」と声を掛けてきた

 

その大地の姿は制服を着ていて、もう帰る準備が整っているようだ

 

浩太「大地・・・帰っちゃうの?」

雄治「ああ〜〜〜〜?????!」

   「なにやってんだ?」

 

大地「今日は・・・帰るわ・・・・」

 

浩太「そうなんだ・・・・」と残念そうな顔をしている

 

雄治「大地、おめーふぬけてんじゃねーぞ!」

大地「別にそういうわけじゃない」

   「自主練は・・・自主だろ」

浩太「う・・・うん・・・」

 

雄治「おまえ!ちょっと最近、気合がたんねーぞ!」

大地「・・・・・・・」

   「そうか?」と気のない返事をする

 

雄治「なんでさっき拓真にフリーキックゆずったんだよ!」

 

大地「・・・・・」

   「あいつは来年のエースだからな」

   「経験もさせてやらんとダメだろ?」

雄治「はぁ〜?」

   「来年なんかどうでもいいから!」

 

大地「おいおい、どうでもよくねーだろ」

   「多分来年の玉高はいいとこまで行くぜ」

 

雄治「おまえ!」

 

大地「わりぃー、電車に遅れる・・・もう行くぜ」

そういいながら足早に駅のほうに向かって歩き始めた

 

雄治「おい!待てよ!」

浩太「雄治!」

 

浩太は雄治を制止し優しく

   「そういう時もあるよ」と諭した

雄治「・・・・・・・・・」

   「あ・・・あんなやつ、ほっといて、さっさとやるぞ浩太」

浩太「はいはい、お手柔らかに!」

 

部員の大半は、グラウンドに残り自主練習を続けている

暗くなるまで

グラウンドの使用が禁止になるまで

毎日毎日

 

 その中でも3年生である雄治と浩太の気合の入りようは群を抜いている

雄治は、センターバックの右側(4バック) 背番号は3番。

チーム内最大の体格を持つ身長は187cm、背が高いだけではなく

全体的に一回り大きい印象だ

 

浩太は2ボランチの右側 背番号は6番

細身で体も大きくないがとても頭がよく攻守ともに優れたバランス感覚で

試合を落ち着かす。

疲れを知らず縦横無尽に走り回る。

チーム内唯一の県選抜に選ばれてる選手だ

 

二人は考えていた

二人は気づいていた

 

  『あの時からだ』

  『伊藤がイタリアに行ったとき』

 

  『吾郎が日本代表に選ばれたとき』

 

  『そう・・・あの時からだ』

 

  『大地の中で、張り詰めていた糸が切れてしまった・・・』

 

  『小学生の頃、共に戦ったライバル達が』

 

  『遠くに羽ばたいていく』

 

  『それは、俺達も感じていた』

 

  『勘違いしていた』

  『いつか俺達も、スーパースターのようにプレイできる』

 

  『そう、思っていた』

 

  『だけど違った』

 

  『年齢なんか関係なかった』

  『その時々のスターがいる』

 

 

  『俺達はそれとは違ったんだ』

 

  『大人になったら、どうにかなるってモンじゃなかった』

 

  『気づいてしまった!!!!』

『大地は夢の中から、引きずりだされてしまった』

 

雄治『だけど!』

浩太『だからと言って』

 

浩太は、雄治にドリブルを仕掛けていく

雄治はどちらに動かれても対応できるように、上手く足を使いながら対応している

 

浩太『あきらめてしまったら、本当に終わってしまう』

 

そう考えながら効き足じゃない左足にボールを持ちかえ

雄治の体がそれに釣られてそちらに傾いた瞬間

高速でフックを掛け雄治を抜きにかかった

 

浩太は雄治を半身ほど抜くと、さらにフックを掛け雄治の背中に入ってきた

雄治「く!!!うまい!」

浩太『抜いた!』

雄治「まだまだじゃいーーー!」

 

雄治はすばやく反転し浩太を追いかける

浩太がキックフォームに入ろうとした瞬間に

雄治は浩太の前に体を起こしたまま飛び込んできた

雄治「ケツケツボーン!!!」

 

雄治は浩太をお尻で吹き飛ばす事に成功した

 

雄治「えへへーん」

   「今のが俺の必殺ケツケツボーンだ」

   「参ったか!」

 

浩太「いたたたた」

   「それ・・・ファールじゃない?」

 

雄治「チゲーよ!」

   「なー、みんなー!」

   「今のファールじゃねーよなー?」

 

みんな「び・・・・微妙・・・」

 

雄治「あんだとー!!」

   「拓真ーーー!今のはファールかー?」

 

拓真「レッド一発退場っす〜〜〜〜!」

雄治「なにーーーーー!!!!」

   「死ねー!」

   「死ねー!」

   「死ねー!」

 

拓真「監督〜〜〜、死ねとか言う人がいます〜」

 

雄治「ごっるぁ!ちくんな!!!」

 

拓真「告発ですぅ〜、僕は権力に屈しましぇーん」

 

雄治「おのれーーーー」

そんな馬鹿なことを言っていると、遠くから変な声が聞こえてくる

 

「だだだだだだだだっだ」

 

拓真「あ?」

 

「だだだだだだだだ」

 

浩太「あ」

 

「だだだだだだだだだだだだ」

どんどんその声は大きくなってくる

 

雄治「まもれーーーー!」

 

拓真「はい!」

浩太「ほい」

 

雄治「今日は絶対に死守しろーー!」

 

もも「だだだだだだだだだだだだ」

 

猛烈なすスピードでコートの中に乱入してくる女の子がいる

 

もも「だだだだだだだだだだだだだだ」

 

監督・コーチ「こらーーーーーー!」

        「ももーーーーー!」

        「勝手にグラウンドに入るなって何べん言ったらわかんだー!」

 

ももはコーチや監督のほうをしっかりと見ながら白い歯を見せ握り締めた手の親指を突きたて

「だだだだだだだだ!!」とさらにい大きな声で言いながら、笑顔を見せている

監督「な・・・何の合図だあれは?」

 

コーチ「グッジョブ」

 

監督「はぁ?」

    「なんじゃそら!」

コーチ「いや・・・深い意味はないでしょう」

    「あいつ、あほなんで」

 

ももはたくさんあるボールの中のひとつを力強く指差し

  「イン」と大きな声で言う

 

するとグラウンドにいるサッカー部員達全員がそのボールに目をやり

そのボールを守ろうと動き始める

 

もも「ターーーーー」

 

そのボールを一番に足元に置いた選手のほうにももが迫ってくる

 

もも「「セプトー!!!」

 

ももがそう叫ぶと、ボールはもうももの足元についていた

 

ボールを取られた選手「はぅ!」

              「へこむーーー!」

 

ももにどんどん選手が襲い掛かってくる

しかし誰も止められない

上手に膝下を使いながらかわしていく

かわされた選手達の多くはその場にばたばた転んでいく

 

コーチと監督はあきれた顔をしながらその様子を見ている

 

コーチ「こけてんじゃねーよ!」

    「このもやしっこ!」

 

監督「渦のように回転しながら、人を巻き込んで倒してく」

コーチ「マグナム・ヴォルテックスって・・やつですか」

 

監督「誰が、そう呼んだのか」

   「マグナム・ヴォルテックス」

   「その渦はやがて大きなうねりとなり、海になる」

   「マグナム・オーシャン」

コーチ「全員がももの動きに影響され

    確かに大きな波のようになりますね」

 

監督「ほしーーーーーーー!」

   「お前が、欲しいぞーー!ももーーーー!」

と声高らかに雄たけびを上げた

 

コーチはあきれながら「いや、むりっす!」

   「つか、微妙にキモイっす」

   「犯罪スレスレっす」

 

ももはどんどんゴールに迫ってくる

そこに浩太と雄治が立ちはだかる

 

ももは浩太と雄治を見て

もも「めんどくさー」

 

  「ももちゃんスペサル顔面〜〜」

 

雄治「え!やめろ!」

雄治は完全にビビッている

 

もも「シューーーーート!!!!!」

 

ももの蹴ったシュートは雄治の顔面めがけて飛んでくる

 

雄治「ひえーーーーーー!」

そう叫びながら頭を抱えボールを避けた

浩太「避けた???」

もも「トラウマーーーーーーーー」

 

もものシュートはそのまま、ゴールに突き刺さった

 

もも「よけてんじゃーねーぞ、玉高センターバック〜〜〜」

雄治は頭を抱えしゃがみこんだまま「だってーだってー」と駄々っ子のように言っている

 

ももは「はははははははは」と笑いながらグラウンドから出て行った

そして、元の場所である陸上部のジョギングの群れの中に消えていった

 

浩太「あ・・・ももちゃ・・」

雄治は頭を抱えたまま「俺、ももきらーい」「死ね死ね」と駄々をこねている

 

     『俺達の10番』

 

真っ黒に日焼けした少女

 

 

シーン@ 俺たちの10番

 

 もものおかあさん「これーーーー、おとなしくしなさい」

お母さんはももを押さえつけ、ももの髪の毛をてっぺんで束ねて

ゴムで止めようとしているようだ

 

もも「いたーーーーい!」

   「もー、やだーーーー」と言いながら、大暴れしている

 

それでもかまわずお母さんは、強引にももの髪の毛を束ね終えていた

 

お母さん「よーし、これでよし!」

もも「もーーーー!」

  「こんな髪の毛いらないから!切ってよー!」

お母さん「だーめ!」

     「女の子なんだから!」

もも「やだーーーー!」そう言いながらも

自分の顔と同じ位の大きさのサッカーボールを抱きかかえ

走りだし家を飛び出していく

 

お母さん「ももーーー!暗くなるまでに帰ってくるのよー!」

もも「やだーーー!」

 

ももは一目散に近所の友達である大地の家にかけていく

大地の家につくと庭の方に回り込み大地の部屋に向かって

元気にこう叫んだ

 

もも「大ちゃん、あそぼっ!」

 

大地はその声に気付き、窓から顔をだし「おうよ!」と返事をし

バタバタ大きな音を立てながら外に出てくる

 

大地「インターーーーー」

大地はそう叫びながらももに迫ってくる

 

大地「セプトー!!!」

そう言いももからボールを奪い取り、足を使って上手にボールを転がし走り出した

 

もも「あーーーーー、返してよーーーー!」

 

大地「とってみろーーーー」

   「あははははは」

   「公園までダッスだ!」

 

もも「もーーーー!」

 

大地「車に気を付け、俺を追うがいいさ」

   「あははははははは」

 

   

 

ももは真っ黒に日焼けしている

髪の毛を頭のてっぺんでくくり、おでこを丸出しにしながら

髪をなびかせている

 

大地「がんばれ!がんばれ!ももちゃ」

   「がんばれ!がんばれ!ももちゃ」

もも「わわわわわ」

自転車の補助輪を外し玉無しで走る練習をしているももを

大地は応援している

 

もも「わわわわわ」

ももは、自転車ごとその場にひっくりかえる

 

大地「ももー、大丈夫―?」

 

もも「大地!ちゃんと後ろもっててって言ったでしょ!」

 

大地「いや・・・乗れてたから放しちゃった」

 

もも「ぼけー!」

 

大地「てかさ、砂浜で練習って無理じゃね?」

 

もも「なんで?」

   「こけても痛くないじゃん」

 

大地「いや・・・砂にめり込んで余計走りにくくね?」

 

もも「自転車も傷つかないからここでいい」

   「うしろ」

   「もって」

 

大地「うん」

 

もも「いくよー」

 

もも「わわわわわわ」

 

大地「がんばれ!がんばれ!ももちゃ」

   「がんばれ!がんばれ!ももちゃ」

 

もも「つぎー、大地―」

大地「おういえ」

   「いっくぜー」

もも「がんばれ!がんばれ!大地」

   「がんばれ!がんばれ!大地」

 

大地「うわわあわわ」

大地は自転車ごとその場に倒れる

 

もも「ははははははは」

   「ざっま!」

大地「おまえなー」

大地は顔を砂まみれにしながら

怒っていが、ももは腹を抱えて笑っている

 

『俺たちの10番』

 

大地「あーーーー、ももまた髪の毛ほどいたのー?」

   「また、おばさんに怒られんぞ!」

もも「いーの!」

   「いらない!痛いもん」

 

大地「ダメダメ」

   「おまえこの間こっぴどく叱られて泣いてただろ?」

 

もも「はぁ?」

   「泣いてないから」

 

大地「いや、泣いてたから」

 

もも「いやいや、泣いてないから」

   「爆笑してたから」

大地「なんじゃそら」と笑う

 

   「まぁいいからゴムを貸せよ」

    「結ってやるから」

 

もも「いらないから」

   「こら!触んな!このエロおやじ」

大地「はぁ?」

   「貸せ!」

   「この泣き虫が!」

 

もも「あー!」

   「もう!痛くするなよ!」

 

大地「へいへい」

 

ももは大地に髪を結ってもらい、嬉しそう

 

もも「上手になったな」

 

大地「まぁな、しょっちゅうやってるからな」

 

もも「キモイな、おまえ」

 

大地「うっせー」

 

『真っ黒に日焼けした少女』

 

 

ももが振り向くと、白い歯を見せながら

大きな笑顔を見せてくれる

 

活発で元気な女の子

そのおでこが印象的だ 

     

 

その子はこう言う

真っ黒で小さな顔

自分の顔と同じくらいのボールを抱きかかえ

 

「あそぼ!」

 

 

 

大地

 

大地

 

「だーいーちぃーーーーーーー!」

 

大地「!!!!」

 

もも「・・・・・・」

 

大地「・・・・KY

 

もも「お目覚めかい」

大地「KY

 

大地の目前には、大きな海が広がっている

今にも日が沈みそうで、とてもきれいな色をしながら輝いている

風の音

波の音

不思議な気持ちになる

 

ももが砂浜を踏みしめ歩く音がする

ぎゅっぎゅっと、音を立てゆっくり近づいてくる

 

もも「きれいだね」

大地「KY

 

もも「っていってるばやいか!」

  「時間がない!」

そういいながら大地のエナメルバックのチャックを開けだす

 

大地「こら!何してんだ」

 

もも「もうすぐ日が落ちる!」

 

大地「あーーー?」

 

ももは大地のエナメルバックからボールを取出し

宙に放り投げ

それを、いつもの真っ黒なおでこで大地めがけてヘディングし

 

もも「ロマンチックか!」と言い放った

そのボールは大地の頭に軽く当たり

大地は面倒くさそうに「いてなー」と言った

 

もも「早く立て!」

 

大地「あー?今日はいいわ」

 

ももはゆっくり歩きボールを拾い上げ

そのボールを胸に抱きこう言った

 

もも「あそぼっ」

 

先ほど子供のころの夢を見ていたせいもあってか

子供のころのももの顔とオーバーラップする

 

大地は頭をかきながら「しゃーねーなー」と渋々立ち上がった

 

もも「時間がない」

  「もうすぐ日が暮れる」

 

ももはふたたびボールを宙に放り投げ

  「さぁ、とってみろ!」といい、白い歯をこぼして大きく微笑んだ

 

二人のボールの取り合いが続く

日が暮れていく

 

茜色の光を受けた二人のシルエット

それはまるでダンスをしているかのように美しかった

 

大地「ももはKY−−−!!!!」

 

もも「ロマンチックかーーーーー!!!」

 

大地「くっそー、すばしっこい野郎だーーー」 

   「こけろーーーー」

 

大地はももに懸命に当たりに行くが

するするとかわされていく

それでも何度も何度も、ももを追いかける

 

もも「吾郎の試合を見た」

 

大地「あん?」

 

もも「お前の目は節穴か」

 

大地「??」

 

もも「こらっ!早く取れ」

   「当たらないと取れないぞ」

 

大地は動かない

 

もも「おーい、日が暮れるぞー」

 

大地「どういう意味だ?」と真剣な顔をしてももに問う

 

もも「さぁねー」

   「なんだろうねぇ〜〜」

大地「おい!もも」

 

もも「さ!かえろ!」

そういいながらももはヘディングでリフティングをしながら、家に向かって歩き始めた

 

大地「おーい、ももー」

 

ももは上手にリフティングを続けながら歩いている

 

もも「話しかけんな、気が散る」

 

大地「おーい、ももちゃ〜〜〜〜」

 

ももは「落としたらジュースおごり」と言いながら

ボールを宙に挙げ大地の方にパスをした

 

大地「おおおお」

   「急に言うな!」と焦りながらもなんとか、ボールを収め

インステップで、リフティングしながら歩きももを追う

 

大地は「おりゃー」と言いながらももに空中のパスを出す

ももはその球をヘディングでダイレクトで大地に返す

もも「うりゃー」

 

大地はそれを胸で受け止め、柔らかく吸収し再びインステップで

リフティングしながら歩き続ける

 

大地「せこっ!」

   「せっこいせこいですやん、ももちゃ」

 

シーン@ フットサル

日が暮れ始めているある日

  グラウンドには照明がともりサッカー部員のほとんどは

自主練に参加していた

 

大地が一息いれるためにエナメルバックからタオルをとろうとしていると

大地の携帯電話に着信の跡がある

大地「あ〜?おかんかな?」

   「ぴ・ぴ・ぴ・っと〜」

 

浩太「どうしたの〜?大地」

大地「ちと、着信アリ」

雄治「おお、こえーな」

 

大地「武蔵先輩からだ」

   「・・・・・・」

 

   「無視する?」

 

浩太「いや、それはまずいでしょ」

雄治「俺あの人嫌い〜」

   「怖いもん」

 

大地「そうか?」

   「面倒くさい人だけどな」

と言いながらコールする

 

雄治「お前、俺に絶対ふるなよ!」

大地「了解了解!」

   「それはふれってことだろ?」

雄治「ちげーし!」

 

大地『あ、もしもし先輩』

   『すいませんね、出れなくて』

雄治「自主練中の時間だってことくらい知ってんだろ」

   「あのおっさん」

 

大地『ええ、みんな周りにいますよ』

その言葉を聞くと雄治は手でバッテンを作りながらその場を離れて行った

 

大地『2・3人ですか?』

   『うーん、まぁ俺は行きますけど』

   『女でもいいですか?』

 

   『はーい、了解でーす』

そう言い終わると携帯電話を切りカバンの中にしまった

浩太「なんだって?」

 

大地「フットサルだって」

   「浩太いく?」

   「土曜日の晩8時からだけど」

 

浩太「あー、僕、今週は無理なんだ」

大地「ゆーじー」と少し離れたところにいる雄治に声をかけるが

用件を聞く前から雄治は手でバッテンマークを作っている

 

大地「・・・・・・」

   「まいったな・・・」

          

そして土曜日の日の暮れ時

 

雄治「で、なんで俺が自主練切り上げてまで

    フットサルに行くことに???」

 

大地「あきらめろ」と笑いながら答える

 

   「雄治は武蔵先輩のお気に入りだからな」

 

雄治「どこが!」

   「あのおっさん、顔見るのもやだわ」

 

大地「あれで、あの人面倒見のいい人だぞ」

 

雄治「いや・・・それが面倒くさい」

 

そう言いながらも観念したのか帰り支度を進め

駅に向かって大地と一緒に歩いて行った

 

フットサルのコートに向かうため電車に乗り

雄治はまだ文句を言っている

 

雄治「なんで金払ってんの俺」

大地「電車にただで乗れるわけねーだろ」

 

雄治「いやいやいやいや」

   「おかしいおかしい」

   「行きたくないのに有料なんて」

    「おかしいおかしい」

 

大地「おごんねーぞ」

 

雄治「せこいなお前」

大地「おまえもな!」

 

雄治「んで・・・・ももくんの?」

大地「ああ、遠征帰りにそのままくるって」

 

雄治「バカだな」

   「多分脳内の大切な部品が2・3個欠落してるな」

 

大地「それ・・・」

   「そのまま、ももちゃに言っていい?」

 

雄治「駄目!」

   「狂暴すぎる」

   「グレート・マウンテン・ゴリラ」

   「通称:グレマゴだからな」

 

大地「おれ・・・・言ってねーからな」

 

雄治「遅れてでもくるって正気の沙汰じゃない」

   「クレイジー!!」

 

大地「あいつはサッカーが好きなんだよ」

 

そんな話をしているうちにフットサルコートにつき

武蔵先輩を探している

大地は先輩を見つけると大きな声で声をかける

 

大地「せんぱーい!」

雄治「おいっ!」

   「よばんで良い!」

武蔵「おー、大地〜、こっちこい〜」

大地「呼ばないとはじまんないだろ」そう言いながら武蔵がいる方に歩いていく

雄治「スルーだスルー」

   「気づかんフリをし続けよう」

大地「無理だろ」と笑う

 

武蔵も大地と雄治の方に歩み寄り

 

武蔵「久しぶりだなー!後輩〜〜〜!」

と言いながら大きな手で雄治の背中を思いっきり叩いた

 

雄治「いてーーーー!」

 

雄治が悲鳴を上げると武蔵は

 

武蔵「バカヤロー!」

   「そんなことで、センターバックがつとまるのかー!」

   「がはははははは」

 

雄治は大地の腕をつかみ

大地にだけ聞こえるような声で

 

雄治「勤まるだろ!」

   「なあ?」

   「今の全然かんけーねーだろ?」

   「なぁ?」

   「勤まるよな」

   「センターバック」

 

大地は呆れながら「本人に言ってくれ」と答える

 

武蔵「なんだお前ら腕を組んで」

   「仲がいいんだなー」

   「微妙にキモイぞ」

   「がはははははは」

 

雄治は大地にだけ聞こえる声で続ける

   「先輩じゃなかったらぶん殴ってんだけどな」

   「先輩でも殴ってもいいっていう法律とかしらねーか?」

   「なあ?なあ?」

大地はまた呆れながら「しらねーよ」と答える

 

武蔵「じゃあ、早速だがうちのチームメイトを紹介する」

そういうとコートの壁のあたりでお茶を飲んでいる

大人しそうな2人を指さしながら

 

武蔵「あいつらだー」

   「紹介おわりー」

   「がははははは」

 

雄治「なんで笑ってんのこの人」

   「なあ、なあ」

   「教えて大地ぃ〜」

大地「しらねーよ」

 

武蔵「今日は俺たちの他に5つのチームが来る〜」

   「だけど、こいつらはみんな仲良しクラブ」

   「元気っ子クラブみたいなもんだ〜」

   「がはははは」

   「だから、現役女子高生のお前らは

    本気でやるな〜」

   「本気でやったら殺すぞ〜」

   「がはははははは」

 

雄治「なんだなんだなんだ今のは!?」

   「どっから突っ込んでいいのかわからんほど」

   「突っ込みどころ満載だぞ!」

   「なぁあ大地どうすんだこれ?」

   「どおすんだぁあああああ?」

大地「本人に言え」

   「俺は我慢できる」

雄治「すんごいね大地君」

大地「おうよ!」

 

武蔵「それから、接触プレー禁止ー!」

   「みんなが楽しくがモットー!

         優勝チームにカップラーメン1ケース進呈の

    ラーメンカップだ!」

    「がははははは」

 

    「ワンマンプレーしたら殺すぞー!」

 

    「あ、そうだ大地」

    「女の子くるっていってなかったか?」

 

大地「ああ・・・遅れ来るみたいですが」

   「間に合うかなぁ〜?」

 

武蔵「間に合わさせろー!」

   「大会参加全6チーム」

   「全員が女子高生の太ももを見るのを楽しみにしてるんだぞー!」

 

大地「はい??」

 

雄治「あ、武蔵先輩、女子高生って言っても」

   「グレート・マウンテン・ゴリラみたいなやつなんで」

 

武蔵「そうなのか?」

   「でも、メスなんだろ?」

 

雄治「はあ」

 

武蔵「ならOKだ」

   「俺は寛大だからな」

 

そう言いながら続いて雄治を指さし

武蔵「お前、ゴールキーパーやりたそうだな!」

   「ゴールキーパー決定ー!」

雄治「ええええええええ!」

 

大地「ははははははは」

 

雄治「大地ーーー!」

   「次の試合は、お前なー!」

 

大地「はぁ?なんでだよ」

 

雄治「運命共同体だからだー!」

   「それに、キーパーを体験することで

    どこに蹴られたら嫌かわかる

    つー効果もある!」

   「あーーーーー!だから全部お前がやれ!」

 

大地「それ、俺知ってるし!」

 

雄治「そんな上っ面の情報あてになるかー!」

   「体感しろ!体感をーーー!」

 

大地「わかった!わかったよ!」

   「代わりべんたんな!」

 

そんなことを話しているうちに第一試合目が始まった

相手チームには二人ほどサッカー経験者がいるようだが

女の子もまじえていて、さほど強そうではない

 

武蔵はキックオフが済むとゴール前まで駆けていき

武蔵「俺、ここー」

   「うちのチームはダイヤモンド型なー」

   「大地は一番底ー!」

 

ゴールキーパー:雄治「をいっ!」

    「一番楽しそうなとこ行ってんじゃねーか」

    「あのおっさん!」

 

大地「狭いんだな・・・、こんなんならどこだって一緒だろ?」

 

ボールを持った相手チームは経験者二人が上手にパスを回しながら進んでくる

ゴールの近くには女の子が待ち構えている

 

味方チームのおとなしい二人は、敵をのろのろ追いかけるが

ただ追いかけているだけだ

 

雄治「こらー!コースきれー!」

と二人に雄治が指示を与えると

 

武蔵「こらー!!!」

   「年上に「こら」とか言うなー!」

   「ないちゃうだろー!」

   「そういうのなしなー!」

 

雄治「え〜〜〜〜」

 

大地は雄治の方を見ながら

   「まぁ、気楽にいこうや」と優しく言う

 

雄治「シュートうたれたら、俺は止められん!」

   「大地早く取れ!」

 

大地「おいよー」

 

大地はいつものようにパスコースを切りながら

ボールを持っている相手の方に向かう

 

味方の一人と相手を挟むつもりで走っていたが

大地が取りに行くのを見ると味方の一人は走って追いかけるのをやめた

 

大地「え?」

 

   「はさめねーじゃん」

 

接触プレー禁止なため大地はずるずる下がるしかない

 

雄治「こら!さがんな!ボケ!」

 

大地「どうすんだよ!これ」と苦笑いしている

するとボールを持った敵は急加速し

大地をボール一個分だけ抜くと

ゴール前にいる女の子にパスを出した

 

雄治「こらーーーー!」

 

大地「接触禁止ってむりーーーー!」

 

女の子は大きく振りかぶりシュート態勢に入っている

 

雄治「おっしゃーーー!とめたるー!」

 

女の子のフリ足が振りぬかれる

 

振られた足の方向からコースを予測し雄治が飛ぶ

 

雄治「をりゃぁぁあああああ!」

 

しかし、女の子の蹴った球はあたりぞこないで

フリ足の勢いからは予想できないような、緩い球で雄治が飛んだ方向と逆の方に

転がっていく

 

雄治「なんだとぅ!」

雄治は地面にへばりつきながら、足元をゆっくり転がる球を見ている

 

コロコロコロコロ

 

コロコロコロ

 

ボールはゴールの中にコロコロ転がりながら入っていった

 

雄治「はぅっ!」

 

大地「何やってんだお前!」と笑う

 

相手チームは女の子を中心にして大喜びしている

 

武蔵「罰金なー」

 

雄治「ありえねー」

   「ありえねー」

   「ある意味最強のフェイントだわ!」

 

    「大地!あの技お前にやる!」

   「今度の交流試合でやれ!」

 

大地「無理!」

 

大地は苦戦していた

いつもの調子でパスを出しても

素人二人は触ることすらできない

 

ドリブルで進もうにも

敵の経験者二人がうまくコースを切ってくる

 

大地『なんだこれは!?』

   『めちゃくちゃ不利じゃないか!?』

   『接触不可なんて・・・難しすぎる!!!』

 

   『てか武蔵先輩はボールもらいに来てくれねーのかよ』

そんなことを考えながら武蔵を見ると

白い歯をこぼしながらニコニコし腰に手を当て仁王立ちしている

 

大地『だめだこりゃ〜〜』と呆れている

 

   『ま、この距離からなら直接先輩に届くかー』

そう思い先輩の方に向かってボールを蹴りあげる

 

しかし、そのボールは思いのほか高く上がらず

相手にとられてしまった

 

大地「あらら〜〜〜〜〜????」

 

武蔵は微動だにせず、白い歯をこぼしながら仁王立ちしている

 

雄治「どこ蹴ってんだバーカ!」

 

大地「いや、なんか違うぞこのボール!」

 

雄治「あたりめーだろ!」

大地「いや、フットサルのボールは小さいのは知ってたけど」

   「飛ばないぞこれ」

 

雄治「あたりめーだろ!」

 

大地「いや、それも知ってたけど」

   「思っていた以上に飛ばないんだよ!」

 

雄治「ざっま!」

 

大地「きっさまー!」

 

大地はボールの跳ね方の違いや

タッチの違い味方の動けなさ

蹴り上げるときの感覚の違いに苦戦していたが

それでも楽しく試合を終えた

 

大地は汗を拭きながら武蔵にこう言った

 

大地「かー、難しいっすねー」

武蔵「そうだろう、そうだろう」

   「フットサル初心者の諸君」

 

大地『てか、あんたが動かねーからなんだけど』

 

大地がゴールキーパーをするとボコボコ点を取られている

雄治は接触プレーなしではダメダメで

大地はキーパーの時でも手でボール触っていいことを忘れてしまう

 

武蔵「つかえねーなー、おまえらー」

   「がははははははは」

 

雄治「大地おめーはザルか!」

   「何点取られてんだ!」

 

大地「いや・・・おまえも全然ボールに絡めてねーし」

 

雄治「うっ・・・まぁ・・・」

   「おれは・・あれだ」

   「接触プレーだけが取り柄だからな・・・」

 

大地「駄目駄目だな、おれら」

雄治「だな」

 

大地・雄治「はははははは」

       「仁王立ちしてるおっさんよりましだけどなー」

       「はははははは」

 

試合はどんどんすすむ

大地たちのチームの最後の試合が今始まろうとしている時

 

「だだだだだだだだ」

 

大地「あ」

 

雄治「あん?」

 

「だだだだだだだだ」

もも「ごるぅぁあ!大地ーーー!」

  「電話でんかーーーー!」

   「だだだだだだだだだだ!」

 

武蔵「ん?グレート・マウンテン・ゴリラか?」

 

ももは試合開始のためならんでいる武蔵たちの方に突進しながら

もも「誰が!グレート・マウンテン・ゴリラじゃい!」と言い

武蔵にとび蹴りを食らわした

 

武蔵「ぐはぁっ!」

 

大地「わわわわわわ!」

雄治「いやいやいや!それはダメでしょ、ももちゃ!」

 

武蔵は蹴られた脇腹を押さえながらうめき

   「き・・・きみ・・・それは・・・」

 

もも「黙れ!」

 

武蔵「はい!」

武蔵はその迫力に完全にビビっている

 

武蔵は雄治にだけ聞こえるような声で

   「なんなんだこの子は?」と尋ねる

雄治「あ・・・こいつ合気道の達人なんで、逆らわない方が良いっす」

   「言ったとおりグレート・マウンテン・ゴリラっしょ?」

武蔵「はぅっ!女子高生とキャピキャピする夢は?」

 

もも「こら!お前ら聞こえてんぞ!」

 

雄治・武蔵「はい!」

 

もも「だいちー!お前は見学!」

  「ももちゃん応援団団長だ!」

   「コートから出ろ!」

 

大地「はぁ?」

   「俺、さっきまでキーパーだったから」

   「出たいんだけど」

 

もも「知ったことか!」

   「電話に出なかったことは罪深い!」

   「コートの外で正座して私を応援しとけ!」

 

大地「あ・・・・あぅ・・・・」

 

大地はしぶしぶコートから出てももにポジションを譲った

そして試合が開始される

 

今回は雄治がGKを務め武蔵は相変わらず相手ゴール前で仁王立ちしている

 

もも「いんたー・せぷとー!」

ももは接触することなく高速でボールをかっさらい

ドリブルで二人かわしシュートを放ち早速1点をとった

 

もも「ヒィーーーーーーーーーーッ!」

 

   「ハァーーーーーーーーーーーーっ!」

 

ももはそう雄たけびをあげながらジャンプしガッツポーズをしている

 

大地は呆れながら「あ・・・ももちゃ・・・・KY

 

相手は点を取られキックオフの準備をしている

ボールをセットし後ろに下がっていく

どうやらキックオフシュートを狙っているようだ

 

経験者らしき男が「当たると痛いぞー!」そう言いながら

思いっきり踏込みインステップで弾丸シュートを打ってきた

 

ももはその球を胸でこすりあげるように当て

うまく威力を吸収し足元20pのところに落とす

 

相手チーム「ええええええ!!!!」

 

見ている他チームの人たち「はぁ?????」

                 「なんでボール止まったの?」

 

ももはその球をすくい上げるように拾い

高速でドリブルを開始する

 

いつもの細かいステップを入れたタイミングをずらすドリブル

さらにターン

 

あっという間に3人の敵をかわし

 

もも「むききききーーーーー!!!」

とわめきながらシュートを放つ

 

そのシュートは、ゴールネットに鮮やかに突き刺さった

 

ももは振り返り両掌を口の上にあて

そのあと天に向かって両手を広げる

 

もも「ひぃーーーーーーーーーー!」

と言ったあと少しためを作って

 

もも「ハァーーーーッ!」と大きな声で叫んだ

 

雄治「なんだそれは・・・・・・」

   「意味わかんね」

 

再び、試合が再開されると武蔵はももに

 

武蔵「あのおじょうさん、ワンマンプレー厳禁

    みんなで楽しくがモットーの大会なので・・・」と注意した

 

ももはまた相手からボールを上手に奪い取り

  「そんなルールあり得るか!」

  「あるんなら、この場で規約でも

   唱和しくされ!このすっとこどっこいがー!」

 

そう叫びながら高速でドリブルを開始する

 

武蔵「はぅ!」

   「さーせん!ほんま、さーせん!」

 

上半身が全くぶれない美しいフォームから繰り出される

高速で鮮やかなステップに

見ている者たちは度肝を抜かれている

 

見ているみんな「ありえねー!」

          「うますぎんだろ、あいつ!」

 

もも「だいちーーーーー!」

   「応援が聞こえないーーーー!」

 

大地「え?」

   「めんどくせ」

 

もも「大地ーーーー!」

 

大地「へいへい・・・」

   「がんばれ!がんばれ!ももちゃ〜」

 

ももは大きく手を上げながら「はい〜〜〜!」と返事をする

 

大地「な・・・なんだ、これ」と苦笑いしている

ももはまたもやシュートを決め

大地の方に飛行機の羽のように手を広げ走ってくる

 

もも「ももちゃ、ハットトリックたっせーい!」

 

そう言いながら大地に抱きつく

 

大地「わあ!」と大地は驚いている

 

もも「早くお姫様抱っこしろ!」

  「空気読め!」

 

大地「え?」

大地は困惑しながらも、ももをお姫様抱っこする

 

もも「凱旋だ、このまま一周まわれ!」

 

大地「へ?」

 

もも「さっさとしろ!空気読め」

 

大地はしぶしぶももをお姫様抱っこしながら

コートの周りを一周し始めた

 

ももは観ている人たちに手を振りながら

  「どーも」

  「どーも」と笑顔を振りまく

 

みんなは笑いながらももに声援を送っている

 

もも「どーも」

  「どーも」

 

大地「なんだ?これ」と苦笑いしている

 

ももは3点取ると満足したのか次から素人でもできるようなことを

正確に明確に指示しながら仲間をつかい

自分がたくさん走ることでフォローし

武蔵にも得点を演出し試合を終えた

 

先に試合を終えていた別コートの人たちも

もものプレーにくぎ付けになっていた

 

みんな「おおおおー、すごかったよー」

    「君うまいねー」

 

そんなことを言われながらももは大勢の人に囲まれていた

 

大地と雄治は顔を見合わせ

 

雄治「全部もってかれたな・・・・」

   「なんだあいつ」

   「くそつまんねー」とふてくされている

 

大地は素人の仲間も上手に生かしてプレーしていたももに感心していた

ボールの違いやコートの狭さにもさほど違和感を感じている様子がなかったこと

たった1試合でみんなの注目の的になっていること

 

大地「あいつはなんか・・・やっぱ・・・」

   「ちがうんだな・・・」

雄治「ああ、あほなんだよ、あほ」

   「無神経なの」

 

大地「・・・・・・」

 

シーン@ 交流試合

      

 大地達の隣県全国大会常連校 東條大付属高校

 

大地たち玉高は東條大付属のサッカー部専用のグラウンドに来ていた

監督が苦労の末、練習試合を組んでくれたらしく

大地たちサッカー部員全員、今日はやる気満々の様だ

 

東條学園サッカー部員たち「え?今日Aチームがやるの?」

                  「マジで?」

        「俺ら出れると思ってたのにー!」

        「つまんねー」

 

        「てか、玉高って聞いたことなくね?」

東條学園サッカー部マネージャー「ああ、県大会ベスト4くらいらしいですよ」

 

サッカー部員「あー、あっちの全国常連は堂源志高校だからな・・・」

        「堂源志って日本代表の吾郎がいるとこだよなー」

        「あっこには勝てんわなー」

 

マネージャー「えー、私の調べでは玉高には小学生の時に

         全国大会に出てる人が3人いて、そこそこ強いみたいです」

 

サッカー部員「小学生って・・・いつの話だよ」と笑う

 

         「ポジションとかわかるの?」

マネージャー「ふふふ、ちゃんと調べてあります」 

        「10番、トップ下なのかトップなのか

        「微妙なポジションをとる人」

        「あとセンターバック3番」

        「この人は大男」

        「イノシシみたいな人、フィジカルではなかなか勝てないでしょう」

        「一番厄介なのは県選抜にも選ばれてる

         6番のボランチの子らしいです」

 

そんな話をしているところにAチームのWボランチ鈴木兄弟がやってきて

 

鈴木兄(6番)「へぇ〜」

鈴木弟(7番)「そういう情報は俺らにくれよ」と笑いながら近寄ってくる

 

マネージャー「は!はいっ!すいません!」

        「もちろん後でお伝えするつもりだした!」

 

鈴木兄「あー、冗談冗談」

鈴木弟「1063ね」

     「了解・了解、気をつけとくよ」

 

この双子の鈴木兄弟もまた雄治に負けないほどの大男

それでいて、足元の技術もしっかりしていて

双子ならでわの常人には理解できないような

息の合った連係を武器としている

 

一方、玉高側では東條大付属に用意してもらっているテントの中で

今日のメンバーが発表された

 

玉高には、残念ながら決定的な仕事ができるフォワードはおらず

1TOP

背の高いものを入れるもしくは、足の速いものを入れる

トップ下に入った大地が1TOPをうまく使い点を取るという

パターンが一番多い

 

いわば大地はシャドウ

トップ下にしてフォワードだ

 

両サイドハーフにダブルボランチ

4バック

 

今日は足の速いTOPを入れ左サイドハーフには

Bチームエースの拓真(20番)が起用された

 

GKは3年生のまこと(1番) 背は高くないが類稀なる反射神経を持っている

 

背番号1 まこと(GK

背番号2 森(左センターバック)

背番号3 雄治(右センターバック)

背番号4 左サイドバック

背番号5 右サイドバック

背番号6 浩太(右ボランチ)

背番号7 幸彦(左ボランチ)キャプテン

背番号8 右サイドハーフ

背番号20 拓真(左サイドハーフ)2年生

背番号10 大地(トップ下・シャドー)

背番号11 坂口(FW

 

主なサブ 

 

背番号9 長身FW

背番号23 桂(GK

 

 

監督「このチームの特徴を説明する」

   「まず長身のWボランチ」

   「こいつらは双子で息の合い方が尋常じゃない」

   「まこと(GK)ゴールキックするときは、真中は避けろ」

   「状況をみてサイドハーフのどちらかに蹴る」

   「もしくは、バックラインから丁寧にパスを回しながらあげていく」

 

まこと「はい」

 

監督「大地、今日お前はかなり苦戦するだろう」

   「相手Wボランチが持っている時はよほど高い位置じゃない限り

    ほっておけ、体力が持たない」

   「取りどころとしてはこちらのボランチのところまでボールが来た時だ」

   「そのあたりに来たとき、きつめにプレスをかける」

   「これは徹底してくれ」

 

みんな「はい!」

 

監督「しかしこれには問題がある」

   「早めに前線にボールを放り込むと言う対策をとられるかもしれん」

   「向こうの2TOPは一人は185ほどある

    さらにもう一人はかなり足が速くミドルを持っている」

 

   「雄治おまえが背が高い方を見て」

    「森(背番号2:左センターバック)お前が速い方の奴を見ろ」

    「ただ、基本的にはってことだポジションをいろいろ変えながら来るだろうから」

    「マークの受け渡しをしっかりと」

   

    「センターバックふたりのフォローを両サイドバック・と幸彦(背番号7:左ボランチ)で」

 

浩太・雄治達「はい」

 

監督「サイドの守備はサイドバックとサイドハーフで」

   「可能であれば浩太と幸彦(左ボランチ)も行ってくれ」

 

   「逆側のサイドバックはきちんと戻って

    センターバックをスライドさせて3バックを作れ」

バック陣「はい!」

 

 

 

監督「これを徹底していれば、大きく崩れることはないだろう」

 

   「バックがクリアしたボールは何とかして

    大地か浩太で取れ」

   「これが取れなければ話にならん」

 

   「この二人がボールをとることを信じ」

   「両サイドハーフは駆け上がれ」

 

   「坂口(俊足1TOP)は、相手バックラインギリギリで

    駆け引きを続け、ゴールキーパーがキャッチできないシュート

    を狙え!」

 

 

みんな「はい」

 

監督「まぁ・・・こんなもんか」

   「以上!」

   「あとは各自の判断・コーチングに任せる!」

   「状況は刻一刻変わる」

   「しっかり考えてやれー」

 

コーチ「あと、相手チームは見ての通り

    全国から集められた猛者ぞろいだ」

    「全員速く・高い!」

    「そしてバテたりしない」

    「それをよく覚えとけ」

 

みんな「はい!」

 

監督「いったん解散!」

   「トイレにいっといれ」

 

みんな「・・・・・」

 

コーチ含め全員で監督を無視し各自散って行った

 

大地は適当な場所を見つけ180度開脚しながら

体をほぐし呼吸を整えている

 

そこに雄治がやってきて足で大地の足をさらに広げようとする

 

大地「いててててて!」

 

雄治「あ?360度開けよ」

 

大地「あほか」

 

浩太「ははは、しかし監督のあのハートの強さにはびっくりするね」

 

雄治「あ?」

 

浩太「トイレにいっといれ」

   「あれだけ毎日全員に無視され続けながら」

   「平然とした顔をしているよね」

 

大地「あれは、ひでーな・・・」

   「ああはなりたくないと強く思ったぜ」

 

浩太「すごい人だよ監督は」

 

大地・雄治「はぁ?」

 

浩太は遠くを見つめながら拳を強く握りしめ

   「尊敬するよ」と言う

 

大地・雄治「お・・・おまえ・・・かわってんな・・・」

 

しばらく、すると試合開始のホイッスルがグラウンドに鳴り響いていた

 

大地『なんだこいつら!コーチが言っていた通り

    一回り体がでかい!』

   『スゲー圧迫感だ』

 

   『くっ!』

大地は真中でボールを持ち相手にガツンガツン体をぶつけられながらも

なんとか耐えているが前を向けない

 

大地は浩太にパスをだし高速でターンをしてリターンパスをもらおうとするが

複数人いる大きな相手選手の間を前に上手に進んでいけず

パスはカットされてしまう

 

大地はカットされてしまったボールを追いかける

 

大地も足は速い方だが、横に並んだ相手に軽く肩で押され

バランスを崩し倒れてしまう

 

大地『くっそ!すっげー力だな!』

   『審判からはそんなに押したようには見えないんだろうが

   『ちっ!』

そう思いながらもすぐに立ち上がり追いかける

 

浩太「大地あまり君は下がっちゃだめだ!」

   「まかせて!」

 

危険を察知した雄治がポジションから外れ

ドリブルを仕掛けてくる選手にタックルをかまして

なんとかボールを外に出した

 

浩太「ナイス!雄治!」

 

大地「サンキュー!」

 

雄治「おうよ!」

 

前半、相手チームに再三シュートを撃たれたが

雄治とまことのファインセーブにより失点なく終わることができた

しかし、中盤真中エリアは完全に制圧されているという感じだ

時折、ゴールキックを拓真が受けドリブルで駆け上がり

ゴール前に走りこんだ大地と坂口(俊足1TOP)にいいボールが入ったが

相手の大きなDFに阻まれシュートには一度も及ばなかった

 

後半10分、得点がないことにしびれを切らした強烈なミドルを持つ相手FW

強引にミドルを撃ってきた、

まことは類稀なる反射神経で、ゴールバーギリギリのコースに来た高速なボールを

手で何とかかい出すことに成功した

 

俊足ミドルFW「くそ!」

長身FW「ナイスナイス、コーナーコーナー」

俊足FW「コーナーはお前がおいしいだけだから、つまんねー」

長身FW「あのキーパーさ」

     「確かに反射神経いいけど」

     「チビだから上の方は全部キャッチできねーんじゃねーか?」

俊足FW「ほぅ・・・」

      「そうかも」

 

長身FW「コーナー取りまくれよ」

俊足FW「いや、はじいた球俺がもう一度押し込む」

長身FW「いや、俺が入れるから」

俊足FW「いやいやいやいや、俺が入れるから」

 

コーナーキックが蹴られボールは長身FWのところに綺麗なコウを描きながら

飛んでくる

 

雄治「うっりゃーーーーーー!」

雄治は長身FWが飛んだ後にワザと少しだけ遅れて飛び

ファールをとられないように緩めに長身FW5cmほど横にずれるように

押そうとする

 

しかし、長身FWはびくともせず、ヘディングに至った

 

雄治「うおぅ!」

 

しかし、そのヘディングは威力をかき

まことがキャッチし、事なきを得た

 

まこと「サンキュー雄治!」

雄治「いや、すまん、撃たれてしまった」

 

まこと「いや、コースが限定されてたからOKOK

 

雄治「むむ・・・想像以上にパワフルだぞあいつら」

   「しかしあれ以上強く押すとファールになりかねん」

   「微妙な力加減とか俺できねーんだけど」

 

 

まこと「思いっきりいかんと、びくともしないぜ多分」

 

雄治「おう!PKになったら、おめーが何とかしろ」

まこと「それはダメ!」

 

雄治「なんだとぅ!」

 

前半同様中盤ではボールを支配できず

相手、俊足FWにバシバシキャッチできないミドルを撃たれ

何度もコーナーキックを与えてしまう

 

なんとかまことと雄治がボールを弾き返すが

 

セカンドボールをまた拾われてまた撃たれるということを

何度も繰り返している

 

まこと『くっそ!』

    『俺がもうチョイ身長があれば…・』

 

    『ワザとコーナー狙いで高いところに蹴ってきやがる』

     『・・・・・く・・・そ・・・・』

 

 

雄治「大地!幸彦!なんとか拾え!」

   「いつまでも、ふせぎきれん!!!」

 

そう言いながら懸命にクリアをする

 

大地はボールをトラップするところまでは何度か行くが

どうやら、相手ボランチは二人がかりでその次の動きを封じる

作戦のようだ

 

大地『さっきから、トラップがちょっとでも大きかったら

    すぐにかっさらわれてしまう!』

   『ダイレクトでパスするしかないか!?』

 

   「坂口走れ!」

そう言いダイレクトでオーバヘッド気味で前線へとボールを送った

 

坂口と相手センタバックーバック二人がボールを追う

 

雄治「でかした!」

   「ちょっくら休憩!」

 

大地はパスを出すとすかさずターンをし坂口を追をうとする

しかし、走るコースをうまく鈴木弟にふさがれ

大地は鈴木弟の背中に激突しそうになりそれをよけながら

その場に転がった

 

鈴木弟は「大丈夫?」ときょとんとした顔をしながら

上から大地を見ている

 

大地は肩を強く打ち肩を押さえ下から鈴木弟を見ている

大地は立ち上がり前線へと駆けていく

 

大地「坂口ー!拓真が上がってる!」

 

拓真は全速力で左サイドを駆け上がっている

 

坂口はセンターバックに追いつかれそうになりながらもスライディングで

何とかボールを左サイドに転がすことに成功した

 

拓真はスピードを落とすことなく上手にそのボールを拾い

そのままドリブルでゴールに迫る

 

センターバック二人もゴールに迫る

 

大地は少し遅れながらもゴールに迫る

 

大地「撃てーーーーー!」

 

拓真は得意の左足を振りぬいた

 

地面を這うようなボールが弾丸のように放たれる

 

相手のゴールキーパーは体を投げ出しなんとかそのボールを弾き返した

 

そのボールは戻ってきたセンターバックの頭上を越える

 

大地の後ろから相手ボランチが走ってきている

 

大地はそのこぼれ球に一番に到達した

前から迫るセンターバック・後ろから迫るボランチ

 

大地「拓真ー!」

大地はシュートではなくパスを選択し

拓真にやさしいパスを出した

 

前から迫るセンターバックとボランチが大地を挟むようにぶつかる

 

大地「ぐはっ!」

 

大地はパスを出した後、その場に回転しながら転がる

 

拓真がもう一度ボールを持ちドリブルでさらに

ゴールにち近づき、じれて飛び込んだセンターバックをいなすようにかわし

 

冷静に膝をついたまままだ起き上れていないゴールキーパーが

絶対届かない高さのループシュートを放ち

先制ゴールを決めた

 

雄治「うおおおおおおお!」

   「やりよったー!!!」

   「おれのおかげー!」

 

まこと「おっしゃーーーーーー!」

 

鈴木弟は大地に近寄り上から大地を見ている

    「大丈夫?」

 

大地は下から鈴木弟を見ている「ああ」

 

鈴木弟に手を借り大地は起き上がった

 

拓真「しぇんぱーい!」

 

大地「ナイス拓真」そう言い拓真の頭を撫でてあげた

 

得点したことで気が緩んでしまったのであろうか

すぐに相手に得点を許し先ほどと同じように

 

コーナーキック地獄に陥りさらに2点を失ってしまった

 

雄治「しっかり引き締めなおせ!」

   「大地!坂口!浩太!頼む!なんとか拾ってくれ!」

 

大地・坂口・浩太「ああ!」

 

大地と坂口・浩太はどこに飛んでいくともわからないボールを

何度も何度も追いかけ、複数の敵にぶつかられては転がりまわっていた

 

大地「くっそう!」

   「でかいやつらだ・・・・」

 

    「こんなにボールを持てなかったのは初めてだ」

 

    『このダブルボランチはマジで厄介だぜ』

    『でかいだけじゃなくて足も速い』

 

    『二人でパスを上手に回す』

    『いくら追いかけても取れない』

    『まるで鳥かごの中にいるようだ!』

 

大地はその中でもいい場所にクリアされてきたボールを

なんとか足もとに収め

上がりを待つように7分のスピード8分のスピードで変化をつけながら

ドリブルしWボランチに挟まれながらもなんとかキープしながら

進んでいく

 

大地『はやくこい!浩太!拓真!』

   

大地が相手陣内深くまで入ると

ついにWボランチは激しめにチャージを加えてくる

ガツンガツン当たられ体を反転し後ろを向かされたが

なんとかキープしている

 

大地『はやく!もたない!』

 

大地は鈴木弟のショルダーを受け吹き飛ぶ

審判の笛が鳴りファールをもらった

鈴木弟「えー!今のファールじゃないでしょ!」

    「よく見ててね!」

鈴木兄「やめとけ!」

鈴木弟「うーい」そう言いながら痛そうに足首を押さえて倒れている大地を

上から見ている

 

大地は下から鈴木弟を見る

 

距離は30M大地なら直接狙える距離だ

フリーキックに備え身長が一番高い雄治がゴール前に向かって上がってくる

 

雄治「大地ー、だいじょうぶかー?」と軽く声をかける

 

大地「今のはファールじゃない・・・」とうつむきながら言う

 

雄治「はぁ?」

 

大地「今のはファールじゃないんだ・・・・」と誰に言うわけでもなく

小さな声でつぶやいた

 

雄治「?」

そこに、拓真もやってくる「大丈夫ですかー?」

 

大地「大したことないが、ちょっと足首をやった・・」

   「拓真蹴ってくれ」

 

拓真「え?」

 

大地「ベストな状態のお前の方が良いに決まってるだろ」

   「大丈夫だ」

   「自信を持って」

そう言いながら立ち上がり、少しだけびっこを引きながら

壁の方に入っていった

 

雄治「あ?お前けらねーのかよ!」

大地「足をぐぎったんだよ・・・無茶言うな」

 

雄治「あ・・そ・・・じゃあ、しゃーねーか」

 

拓真はいつも以上に真剣な顔をし目を瞑り胸に手を当て

体をほぐすようにぴょんぴょんその場で跳ねている

 

審判のフリーキック開始の笛が鳴る

 

拓真はいつも以上に大きく振りかぶり

いつも以上に軸足を沈み込ませる

 

蹴り足が鋭く振りぬかれた

 

相手チームの壁たちがジャンプをする

 

相手チーム「!!!」

 

拓真の蹴ったボールは唯一GKが取れないであろう

ボール一つ分の場所に美しいコウを描きながら吸い込まれていった

 

雄治「うっひゃーーーーー!」

 

相手GK「くっそうぅ!」

 

雄治「でかしたぞーーー!拓真ーーーー!」

雄治は拓真に駆け寄り拓真をもみくしゃにしている

 

拓真はもみくしゃにされながら大地の方を見て

   「しぇんぱーい!」とうれしそうに叫んでいる

 

大地は優しく微笑み握りしめた拳の親指を立てて拓真に見せた

 

歓喜の中でもみくしゃにされている拓真を遠くから見ながら

上から見ている鈴木弟の顔を思い浮かべていた

 

試合はその後、防戦一方だったが気を引き締めなおした

DF陣・GKによってすべて弾き返し

東條大付属 3 - 2 玉之浦高校 で終了した

 

試合が終わり片付けをしていると

鈴木弟が大地のところにやってきて

身長の高い鈴木弟は上から大地を見ながら

 

鈴木弟「足大丈夫だったか?ごめんな」と言った

 

大地「大丈夫だ」

   「あれは、ファールじゃなかった」

   「いちいち謝んな」

 

鈴木弟「ふぅ〜ん」そう言いながら上から大地を見ている

 

     「おまえ」

 

大地「あ?」大地は下から鈴木弟を見ている

 

鈴木弟「・・・・・・」

     「まぁいいや」

 

大地「あ?」

 

鈴木弟は背を向けチームメイトの方に戻りながら大地に軽く手を振った

    『おまえ、めっちゃうざかったぜ!』

そう思いながら

 

大地は考えていた

 

   『フットサルの時と同じだ』

   『何もできなかった』

 

   『俺は断言できる』

   『ももが、俺のポジションに入っていたら』

   『絶対勝っていた』

 

   『ももならうまくやったんだろうな

 

   『ももちゃ』

 

   『本物の俺たちの10番』

 

シーン@ ももの夢のシーン

一人でとぼとぼと登校中     

 

大地 「ももならうまくできたんだろう・・・」

    「ももならどうした?」

    

     「節穴か?」

 

     「お前の目は節穴か〜〜〜〜」

 

     「なんだろうねぇ〜」

     「なんだろうねぇ〜」

 

グラウンドでは、制服の姿のままゴールキパーの二人が練習をしているのが見える

 

一人がボールをいろいろなところに投げ

もう一人がそれをキャッチし地面に上手に倒れ

ボールを投げ返し

起き上がる

 

それを何度も何度も繰り返している

 

それを金網越しに見ながら歩き

声が届くであろうところまで来ると大地は、こう声をかけた

 

大地「お〜い、朝練禁止だぞー」

 

まこと「おぅ、大地!固いこと言うなよ」

後輩:桂「先輩すいません」

まこと「これは、遊んでるだけ」

    「あさ、グラウンドでドッチボールして遊んでるのと同じさ」

 

大地「ははは、そうだな」

   「だから制服のまま・・ってか」

 

まこと「おうよ」

 

大地「ドロドロだぞ」

    「はは、まぁ、がんばれや」

そう言いながら手を振り通り過ぎていく

 

後輩:桂「はい!」

 

大地「お前の目は節穴か〜」

 

   「なんだろうねぇ〜」

   「なんだろうねぇ〜」

 

   「さぁねぇ〜」

 

   「なんだろうねぇ〜」

   「なんだろうねぇ〜」

 

   「ももちゃ、お前にはいったい何が見えている?」

 

   「なんだろうねぇ〜」

   「なんだろうねぇ〜」

 

教室につくと大地はカバンを自分の机に置き

いつもならみんなとたわいもないことを話ながら過ごすのだが

エナメルバックからボールを取出し

そのまま教室から出て行った

 

雄治とももは他の複数の生徒と一緒に雑談をしていたが

大地が出て行ったことに気が付いていた

 

雄治「もも」

もも「ん?」

雄治「いけよ」

もも「え?なんだっけ?」

みんな「ん〜?なに〜?」

雄治「なんでもねーよ、バーカ!」

みんな「何それ!」

     「どこに行くって?」

もも「・・・・」

雄治「行きたいところに行っちまえ〜」

   「バーカバーカ」

 

みんな「?????」

     

大地は一人で中庭にあるベンチに腰掛け

人差し指の上でボールを上手にクルクル回している

 

大地「なんだろうねぇ〜」

   「なんだろうねぇ〜」

 

すると後ろから

 

もも「それは、なんのおまじない?」

 

大地「KY

   「ももはKY〜〜」

もも「ロマンチックか〜」

そう言いながら、ももは大地の前に回り込む

 

大地「ももはKY~

 

大地の真正面に立つとももはこう言った

 

もも「今日、部活が終わったら私はいつもの浜辺に行く」

 

大地「なんだろうねぇ〜」

   「なんだろうねぇ〜」

 

もも「それを伝えに来た」

そう言い終わるとももは再び教室に戻っていった

 

大地「なんだろうねぇ〜」

   「なんだろうねぇ〜」

 

 

大きな海の中に太陽が沈もうとしている

ももは、髪をなびかせながらずっと海を見ている

 

とても広い砂浜で道路を走る車の音さえ聞こえやしない

 

風の音と波の音だけが心地よく鳴り響いている

 

海は茜色に染まりながらキラキラ輝いている

湿り気を含んだ砂浜を踏みしめる音が聞こえる

ぎゅっぎゅっという音をさせながら大地は歩いてくる

 

ももは、ずっと海を見ている

大地も海を見ながら歩いている

 

ももに声が届くであろうところまで来ると

エナメルバックからボールを取出し

その場にカバンをおろし

ボールを丁寧にセットする

 

ボールの左後ろに立ち目を瞑り

精神を統一し

 

ボールに対して強く踏み込み

 

大地「ロマンチックか〜〜〜〜!」

そう言いながら、ももに向かってフリーキックを放った

ボールをけり終わるとすぐに大地はももに向かってダッシュを始めた

 

ももは「ロマンチックじゃい!」と言いながら振り返る

 

大地「インター」

大地はももの目前まで迫っていた

 

大地「セプトぉおおおおお」

 

ももに向かって大地が蹴ったボールが鋭くこうを描きながら

曲がり落ちてくる

それをももは大地が来る方向とは逆の方向に胸で上手にトラップし

大地を一気にかわした

 

大地「まだまだーーー!!」

 

二人は何度も何度も1対1のボールの取り合いを続ける

何度も何度も

くたくたになるまで

 

太陽はもう完全に海の下に沈んでしまった

それでもまだ、微かに茜色を残していた

 

二人はくたくたになりその場に倒れこんで息を荒げていた

大の字になって寝転んで空を見ていた

 

強い光を放つ星だけがまだ暗くない夜空に輝いている

 

大地「ももちゃ・・・」

 

もも「はぁ・・はぁ・・・」

 

大地「おまえ、やっぱサッカー続けろよ」

 

もも「はぁはぁ・・・・」

 

大地「お前ほどうまいやつは見たことがない」

 

もも「はぁ・・・はぁ・・・」

 

大地「もったいない」

      

      もも「また・・・・・はぁ・・・・その話?」

         「サッカーは今でもやってるよ」

         「今こうしてここで大地と」

      大地「・・・・」

   

      もも「サッカー部の練習に乱入とか」

         「私はそれでいいの」

 

      大地「駄目だ!」

 

      もも「なぜ?」

      大地「おめー、うまいんだから」

         「もっとちゃんとしたところで」

 

      もも「それはどこ?」

 

      大地「え・・あ・・・まぁ、どっかあんだろ」

 

      もも「今私がこの学校に来てこうしているのは」

         「私の夢をかなえるためにベストな方法だと以前にも言ったはず」

 

      大地「???」

         「だからさ・・・その夢って・・なんだっけ?」

 

      もも「・・・・・・・・」

         「大地にだけは、それを伝えたことがある」

         「何度も言うことじゃない」

         「だからもういわない」

 

      大地「えーーー!」

 

      もも「さぁ、もうこの話はやめましょう」

         「もう済んだ話だ」

         「正直面倒くさい」

 

      大地「ももちゃ〜」

 

      もも「きれいな星」

 

      大地「う〜ん、ちょっとしか出てないな・・」

         「まだ明るい・・・大きな星しか輝かない」

 

      もも「そうだね」

 

      大地「俺たちみたいだ」

 

      もも「・・・・・・」

 

         「お前の目は節穴か」

 

       大地「あ〜ん?」

 

       もも「なんだろうねぇ〜」

 

       大地・もも「なんだろうねぇ〜」

              「なんだろうねぇ〜」

 

       二人は、おかしくなって大きな声で笑った

 

      大地「てかさ!なんなの???」

 

      もも「なんだろうねぇ〜」

 

      大地「お〜〜〜〜〜〜い」

       

 

 

シーン@ 亀裂発生

 

今日もまた大地がとぼとぼと歩きながら登校していると

また、ゴールキーパーの二人が制服のまま練習している

何度も転がり朝から制服をドロドロにしている

 

大地「・・・・・」

   「あんなんじゃ、お母んに怒られんだろ?」

   「よくやるぜ・・・・」

 

そんなことを呟きながら、歩き

金網越しにずっとその練習を見ている

 

大地「なんだろうねぇ〜」

   「なんだろうねぇ〜」

   「てか!」

 

ゴールキーパーの二人に近づくと大地は

 

大地「がんばるなー」

後輩:桂「おはようございます」

まこと「うーっす」

大地「制服そんなに汚して大丈夫なのか?」

まこと「ははは、これは練習用の制服なのだ」

大地「はぁ?」

後輩:桂「実はですね・・・もう一着持ってきてるんですよ」

   「内緒ですよ」

大地「ああ・・・・そこまでするか・・・・」

 

後輩:桂「あ、まこと先輩」

まこと「ん?」

後輩:桂「大地先輩が来たってことは、もうチャイムが鳴りますね」

大地は目を細めながら

   「桂それは、どういう意味だ」

   「まるでそれじゃあ、俺がいつも遅刻すれすれみたいじゃねーか」

 

まこと「お!やっべ!」

   「俺行くわ!」

後輩:桂「では僕も」

そう言い軽く会釈をして二人は去って行った

大地「こらーかつら〜〜〜〜!」

 

大地は再びとぼとぼ歩きながら

   「ま・・・実際そうかー」

 

   「なんだろうねぇ〜」

   「なんだろうね〜」

 

   「吾郎の試合を見た」

 

   「吾郎の試合」

 

大地は何かを思い出したのか部室に向かって走り始めた

 

大地「そうか!」

   「吾郎の試合」

 

   「あいつの試合のビデオがあるかもしれん!」

 

   「なんだろうねぇ〜〜〜〜!」

 

   「マネージャーいるかなー」

 

部室の前に到着すると、ちょうど部室からマネージャーが書類を持って

出てくるところだった

 

大地「おおおおお!ラッキー」

   「良子!」

良子「ああ、先輩」

   「なんでしょう?」

大地「吾郎の試合」

良子「へ?」

大地「吾郎の試合を撮影したビデオとかねーか?」

良子「はぁ、当然ながら」

大地「ん〜?」

良子「あります」

大地「おおおおおおおおお、でかしたぞー」

   「ちょっと貸してくれるか?」

良子「ええ、かまいませんが大地先輩珍しいですね」

大地「ん〜?」

 

良子「浩太先輩や拓真君くらいですよ、ああいうの見るの」

大地「うっ!」

   「そ・・そうなんだ・・・」

良子「では、いつの奴が良いですか?」

   「放課後にそろえておきますんで」

 

大地「いつって・・・・そんなにいっぱいあんの?」

良子の目が怪しげに輝き

自信満々の顔をしながら

良子「ええ!網羅しています」

   「私の人脈で、そりゃーもう!」

 

大地「そ・・・そうだな、とりあえず一番最近の奴で」

 

良子は敬礼しながら

   「了解しました」と答えた

大地が部室に入ろうとすると

良子「あーーーーーー!」

大地「あ?なんだ?」

良子「今は入らない方が良いですぅ〜」

大地「あ?」

良子「では、私はこれで!」と言いながらその場を去り

さらに振り向きながら「入らない方が良いですよぉお」と付け加えた

 

大地は目を細めながら少し考え

部室のドアに手をかけた

すると中から何やら話し声が聞こえてくる

 

監督「おまえ、それでいいのか?」

コーチ「やっぱ、みんなお前に出てほしいと思ってると思うんだがな」

まこと「だからそれが嫌なんです」

コーチ「いやって・・・」

    「チームっていうのはそう言うもんだろ」

まこと「そうですけど」

    「3年だからレギュラーとか、そんなのでは満足できません」

    「実際、桂の方が背が高いし」

    「その分、手もでかい」

    「キーパーとして間違いなく僕より格上です」

そんな声が聞こえてくる

 

しかし、ドアにかけた手を止めるのに間に合わず

大地はドアを開けてしまっていた

 

大地「!!!!!!!!」

 

監督・コーチ「大地!」

 

大地「どういうことだ!」

まこと「・・・・・」

 

まことは何も言わず、部屋から出て行ってしまった

 

大地「まこと!」

 

まことは返事をせずそのまま教室に向かって足早に進み消えて行った

 

監督「あー、大地」

   「お前は気にするな」

コーチ「まことは、自分が3年だからレギュラーだっていうのが嫌だと言っただけだ」

    「公平に見ろと」

大地「・・・・・・・」

 

監督「そういうこと」

 

大地「・・・・・・・・」

 

コーチ「その気持ちもわかるだろ?」

 

大地「・・・・・・・・」

 

大地は監督とコーチの顔をしっかりと見ながら

   「わかりません」と答え、足早にその場を去って行った

 

大地「誰だ!」

   「誰が桂にキーパーのことを教えた!」

   「誰が桂の面倒を毎日毎日見ていたんだ!」

 

   「納得いかねー!」

大地は、そう言い怒りを抑えながらズンズン教室に向かって歩いていく

 

大地の教室の前には、雑巾がかけられた空っぽのバケツが置いてある

チャイムは既になり終わり、みんな先生が来るのを待つために自分の席についているようだ

 

大地『まことが!』

   『まことが、毎朝毎朝教えていたんだろうがぁああ!』

 

大地はそのバケツを力いっぱい蹴り飛ばした

静かな教室にその音が鳴り響き

みんな驚いている

 

そして、教室の戸をあけ大地が入ってくる

教室は静まり返っている

 

その大きな音を立てた犯人が大地であることは

誰の目にも明らかだった

 

大地は真剣な顔をしたまま席につき

どこともわからない場所を睨みつけていた

 

雄治とももは顔を見合わせ、眉をしかめている

 

雄治「・・・・・」

もも「・・・・・・」

 

一時間目が終わり、様子がおかしい大地を心配し

ももが、大地の方に行こうとすると

雄治「もも!」

ももは名前を呼ばれ、雄治の方を見る

雄治「やめとけ」

もも「いや」

ももは、そう答え大地のもとへと向かった

 

もも「大地ー」

大地は窓の外を見ている

 

もも「チャイムなり終わってたぞー」

   「ありゃー、完全に遅刻だ」

大地「そんなことはどうだっていい!」

 

もも「えらく機嫌が悪いのね」

大地はももの方に向き直り「うるせー!」と強く言った

もも「!」

   「・・・・・」

しばらく沈黙が続く

 

もも「ごめん・・」そう謝りその場から自分の席へと戻って行った

 

大地はいつもならつかかってくるももの意外な反応に少し驚き

我に返っていた

 

自分の席に戻っていくももに雄治は「だからやめとけって言ったろ」と言う

ももの瞳には涙がにじんでいるのが雄治にはわかった

 

雄治「ちっ!」

 

雄治は大地の方に胸を張りながら歩いてゆき大地の胸ぐらをつかみ

 

雄治「おい!大地!」

   「八つ当たりとか!上等じゃねーか!」と言い放った

 

大地は先ほどまでとは違う力の抜けた顔をしており

   「すまん」

   「ももに、あやまらなくっちゃ・・・」と力なく答えた

 

雄治「なんだ!張り合いのないやつだな!」そう言いながら、つかんでいた手を離し

大地の前の席の椅子を180度回転させ、その椅子をまたぐように座り

机に肘をつき手の上に頬を乗せ「なんかあったのか?」と尋ねた

 

大地「あ・・・ああ・・・」

 

雄治「言ってみろ!」

 

大地「ああ・・・いや・・・」

   「言いふらしたようになるから・・・」

   「やめとく」

 

雄治「・・・・・・」

 

大地「別に隠すようなことじゃない・・んだ・・けど」そう言いうつむいた

 

雄治「そっか」

   「なら、しょうがねーか」

   

お昼休みになると大地は恥ずかしそうに頭を掻きながら

ももに話しかける

 

大地「もも、朝はごめんな」

 

もも「・・・・・」

  「いいの・・・」

   「私みんなにも言われるんだ」

 

大地「?」

もも「無神経だって」

 

大地「あ・・いや・・・」

 

もも「雄治もやめとけって言ってくれてたの」

そう言いながらお弁当を手に取り

いつも一緒にお弁当を食べているみんな方へと歩いて行ってしまった

いつものような元気のないももをみんなが気遣い盛り上げようとしているのが

遠目に見てもよくわかる

その中で、ももの無理やり作った笑顔が痛々しく思えてならなかった

それでも大地は頭を掻きながらどうしたらいいかわからず

自分も席に戻り弁当をカバンから取り出し

外の景色を眺めながら、昼食をとった

 

午後からの授業中大地は上の空だった

 

雄治『来年なんてどうでもいいだろ!』

大地『どうでもよくねーだろ!』

 

   『拓真……

 

良子『浩太先輩と拓真くんくらいですよ』

 

   『拓真・・・・・』

   『あいつは、かわいいね・・・・』

   『いつも目をキラキラさせている』

 

   『ビデオとか見て研究してるんだ・・・・・』

 

   『まこと』

   『桂』

 

   『毎日毎日・・ドロドロになって』

 

   『毎日毎日・・・』

 

   『なんだ・・・・』

 

   『なんだ俺は・・・』

 

   『鈴木兄弟』

   『身長は生まれつきだとしても』

   『あの体格』

   『きっと毎日苦しい筋トレをしている』

 

   『いや・・・東條学園全員だ』

 

   『なんだ俺は・・・』

 

   『ただボールを蹴り』

   『喜んだり』

   『悔しがったりしてるだけじゃねーか』

 

   『なんなんだ!』

 

   『それで、ちょっと頭に来ることがあれば』

 

   『八つ当たりか』

 

   『みっともない』

 

   『そうだ・・・・』

 

   『あのバケツは・・・』

 

   『誰が元に戻してくれたんだろう』

 

   『雑巾が、そこらじゅうに転がったはずだ』

 

   『誰が拾ってくれた?』

 

   『あの小汚い雑巾を』

 

   『・・・・・・・・・・・・・』

 

   『ああ・・・・・』

   『情けねーなぁあ』

 

 

放課後になり部活が始まった

大地はコーチ・監督に拓真をトップ下に入れてみては?と提案する

大地はトップ下の心得などいろいろなことを拓真に一生懸命伝えようとしている

 

大地「違う違う拓真!」

   「大丈夫だ!」

   「もうちょっとひきつけた方が良い」

   「お前ならかわせるし」

   

   「そんなに早く出したらDFに戻られてしまう、FWも反応しづらい」

 

拓真「は!はいっ!」

   「やってみます!」

 

大地「おほほほほ」

   「いい返事だ拓真」

   「お前」

拓真「はい?」

 

大地「いいな!」

 

拓真「へ?」

 

大地「いいぞ!」

   「お前はまだまだ伸びる!」

 

拓真「あざーっす!」

 

雄治は時折その様子を見てイライラしているようだ

雄治「なんなんだあれは!」

浩太「雄治、イライラしすぎ」

   「ハートは熱く、頭はクールに・・・だよ」

 

雄治は不機嫌そうな顔をしている

 

雄治「まことー!」

   「もうちょっと前まで来い」

   「バックラインとあんまり間をあけんな」

   「何べん言わせんだよ!」

 

   「裏に走りこまれんだろーが!」

 

まこと「うっせー!おめーらが、ミドル打たせるからだろうが!」

    「入ったらどうすんだよ!」

 

雄治「桂はもうチョイ前まででてんぞ!」

   「ビビってんじゃねーよ」

 

まこと「!」

大地「!」

 

大地は拓真を追い越し雄治の左前まで走り込み

雄治の左足の方を指さし

大地「拓真!こっちだ」

と言う

 

どんぴしゃの場所に来たボールを右足のインサイドで左足の裏を通し

雄治から半身ほど左にかわしそのまま左足でミドルシュートを放った

 

雄治「くっ!」

 

そのシュートは低い弾道で鋭く速い

 

まことは、体を大きく倒しながら懸命に止めようとしたが

地面すれすれを走りながらゴールネットに突き刺さった

 

まことは地面に倒れこんだ後、悔しそうに地面を拳でたたいた

 

その時、雄治・大地・まことの3人は思ってしまった

 

『桂なら止めていただろう』と

 

まことは何度も何度も地面をたたいていた

 

雄治「まこと!とめろよ!」

大地「おめーも、うたれてんじゃねーよ!」

 

雄治「くっそぅう!!!」

 

大地は拓真の方に歩み寄り

大地「どんぴしゃだったぜ」と言いながらハイタッチをし

拓真の頭を優しくなでてあげた

 

拓真はうれしそうな顔をしながら瞳をキラキラ輝かせている

 

その光景を雄治は歯を食いしばりながら見ている

 

軽いゲームメニューが終わると

サッカー部伝統の宿題ジョギングが始まる

 

それは、今日の宿題をやりながら40分走るというものだ

コーチや監督は毎日あらかじめそれぞれの生徒にどんな宿題が出ているか

先生たちから情報を得ているようだ

 

雄治はこれがとても苦手で大嫌いだ

雄治と浩太は肩を並べながら走っている

 

浩太はもともと乳酸がたまりにくい体質なのだろうか

無尽蔵に走り続けることができる

それが、ボランチとして県選抜に選ばれている一番の理由なのだろう

そして頭がとてもいい

 

このメニューは浩太にとってはそれほど苦ではなかった

 

雄治「はぁ・・はぁ・・・」

   「数学とか・・・・最悪だぜ」

 

浩太「僕も数学」

 

雄治「こんなことやってる場合じゃねーのに」

浩太「ん?」

   「この練習は、とても合理的だと思うよ」

 

雄治「ど・・・どこがだ」

   「バカバカしい」

   「全部不正解で終わりだ」

 

   「なんせか、手がだりぃー」

 

部員A「はぁはぁ、数学かぁ〜、最悪だな〜雄治」

そう言いながら雄治を追い抜いて行く

 

部員A「俺は音読、揺れて字が読めねーんだけど」

    「やったかどうかばれねーだろ?あはは〜」

 

浩太「ちゃんとやらないとだめだよ!」

 

部員A「無理!」

    「舌3回ほど噛んだし」

 

雄治「ああ、てきとーにやっとけ」

 

浩太「体をブラさないように走る練習になるんだよ」

   「周辺視野に関係があるんだ」

 

雄治「あっそ」

 

浩太「もう!」

   「疲れてきても集中力を切らさず

    頭をはっきりさせるのにも役に立つ」

 

   「ちゃんとやって、雄治!」

 

雄治「ほーい」

 

大地は雄治と浩太の少し前を走っている

浩太の話が聞こえてくる

 

大地『こういうことも・・ずっと浩太は本気でやってたんだろうな』

   『俺なんか雄治と同じ』

   『適当にやってただけ・・・』

 

   『それが、浩太が県選抜であり

    俺が、県選抜じゃない理由なのだろう』

 

   『見てみろよ・・・』

   『拓真もあんなに一生懸命やっている』

 

   『そんなことに、今日まで気付かなかったなんて・・・』

 

   『あ〜あ〜・・・・・・・』

 

   『駄目だこりゃ!』

 

宿題ジョギングが終わり監督たちのチェックが終わったものから解散だ

 

みんな40分間を走り終えグラウンドに倒れこんでいる

そんな中、浩太は平気な顔をしながら監督のところに

宿題を持っていきOKをもらっているようだった

 

その浩太が、グラウンドに倒れこんでいる大地と雄治のところにやってくる

 

浩太「さぁ、早く立ってOKもらってきなよ」

   「混みだすよ」

 

大地はそれを聞き立ち上がり「ああ・・・」と答えた

 

雄治「待て」

 

大地「ん?お前も早く立て」

 

雄治「違う」

 

大地「ん?」

 

雄治「なんなんだお前は!」

 

大地「はぁ?」

雄治「とにかく俺は気にくわねぇ〜」

 

大地「・・・・・・」

 

   「朝のことか・・・」

   「すまん・・・」

 

   「ももはまだ・・・」

   「・・・・・・・・・・・」

 

   「傷つけちゃったな

 

雄治「違う」

 

大地「?」

 

雄治「気にくわねぇ〜」

   「謝られると、もっと気にくわねぇ〜」

 

浩太「雄治。」浩太は雄治を制止しようと声をかけた

 

雄治「謝られるとくいつけねぇ〜」

   「だから気にくわねぇ〜」

 

大地「・・・・・・・」

雄治「腑抜けてんじゃんーぞ!」

 

大地「よくわからんな」

 

雄治「おめー、DFGKの連携が悪い時にワザとシュートを打っただろ!」

 

大地「当たり前だ」

   「俺はいつでもゴールを狙っている」

 

雄治「お前はまことの心を折った」

   「わざとだ!」

 

大地「何言ってんだお前」

雄治「あの時、ゴールしちゃいけなかったんだ!」

   「それくらい分かれ!」

 

大地「ワザととれるところに蹴るべきだったというのか!?」

 

雄治「そうだ!」

   「当たり前だ!」

 

大地「お前正気か!?」

 

   『確かに、まことは自信を無くしかけていた』

   『前に出ることを恐れだしていた』

   『だからと言って!??』

雄治「チームなんだぞ!」

   「自信をつけさせてやることも必要だ!」

 

大地「違う!」

   「まことは、そんなこと望まない」

 

雄治「ああ」

   「知らなければそれで自信になる」

   「結果の問題だ」

   「それが俺たちチームの力になる」

 

大地「それは、絶対に間違っている」

 

浩太「さぁ、混んじゃうよ」

   「早く自主練しよ」

 

雄治「拓真にトップ下やらせて・・・なんなんだ」

   「あれは」

 

   「恥ずかしくねーのか」

   「誰もがほしかった10番をもらいながら、なにやってんだ」

 

大地「前にも言ったはずだ、経験させてやらんとあかんだろ」

 

雄治「おめーは10番なんかじゃねー!」

 

大地・浩太「!」

 

雄治「俺の10番は『もも』だけだ」

   「お前なんかいらない」

   「おっとと帰れ!」

 

浩太「雄治!」

 

大地は立ち上がり雄治と浩太に背を向け

   「そうか・・・そうだな・・確かに・・・」

 

   「俺たちの10番は『もも』だけだ」

 

   「俺も・・・」

   「本気で、そう思うよ」

そう言い監督のところに行きOKをもらい

制服に着替え

グラウンドを後にした

 

雄治「ちくしょーーーーーー!」

雄治は駄々をこねた子供の様に地面を手足でたたきつけ

   「もう!めちゃくちゃだ!」

 

浩太は雄治の横に座り、黙って傍にいてあげることにした

 

雄治「ばらばらになっちまった」

 

浩太「そう?」

 

雄治「あの頃のように無垢ではいられない」

 

浩太「そう?」

 

雄太「絶対的エースももが俺たちをつなぎとめていた」

 

浩太「そう?」

 

雄治「だけどももはもうコートの中にいないんだ」

 

浩太「うん」

 

雄治「だから、バラバラだ・・・」

 

浩太「そう?」

 

浩太と雄治は大地やまことが自分自身のことではなく来年の子たちに

何かを伝えようとし始めていることに複雑な感情を持っていた

 

雄治と大地

どちらが言っていることも間違いとは言いきれない

 

浩太『どうすればいい・・・・』

    『ももちゃ』

 

 

大地が駅に向かって考え事をしながら歩いていると

それを追いかけてくる人がいる

 

良子「せんぱーい」

 

大地「あ?」

 

良子「ひどいですよ!」

   「自主練しないんですか?」

 

大地「自主練は自主だ」

   「みんな勘違いしてんじゃねーか?」

 

良子「はいはい」

   「屁理屈はそれくらいにして」

 

大地「屁理屈じゃねーよ!」

 

良子「ビデオいいんですか?」

 

大地「あ、そうだったな」

 

良子「私がこれを探すのにどれだけ時間がかかったと思っているんですか!」

   「まったく」

 

大地はその言葉を聞き

   『まただ・・・・』

   『サイテーだ』

 

   『俺は・・・・』

 

   『サイテー』

 

大地は真剣な顔をして

   「良子」

良子は真剣な顔をしている大地に違和感を感じ

   「な!なんですか!?」

   「告らないでくださいね!」

   「困ります」

   「私はみんなのアイドルなんですから!」

大地は呆れながら「告るか!バカ!」と答え続けて

   「サンキュー」

   「手間かけたな」と優しく言った

 

良子「は!はい!」

   「マネージャーですから!」

   「当然です」

 

大地「そっか」

   「じゃあ」と言い手を振り良子と別れた

 

渡されたビデオをちらり見てみるとそれはブルーレイディスクだった

 

大地「ぶ!ブルーレイ!!!」

   「うちないんですけど!!!!」

   「どうすっかなー」

 

   「雄治んちならあるんだけどなぁ〜」

 

   「・・・・・・・・・・・」

 

   「雄治」

 

この日を境に大地は自主練には参加しなくなった

 

シーン@ 陸上部3年引退

 

陸上部の3年生は大会が終わり引退

最後の部活

つまり、ももがサッカー部の自主練に乱入してくるのもこれが最後

 

あれから大地と雄治は必要なこと以外はほとんど話していない

 

雄治「大地!」

大地「あ?」

雄治「今日は自主練に来い」

大地は返事をせずに頭を掻いている

雄治「・・・・・・」

雄治はまじめな顔をしながら大地の返事を待っている

 

大地「あ・・・あの・・自主練って自主だろ?」

   「俺のことはほっとけ」

 

雄治「駄目だ!」

 

大地はそっぽを向いている

 

雄治はまじめな顔をしながら大地の返事を待っている

 

大地は呆れながら「なんでだよ」と答えた

 

雄治「ももが乱入してくるのは今日が最後だからだ!」

 

大地「え?」

大地は驚いた顔をしている

 

雄治「陸上部の3年はもう引退なんだよ」

 

大地「!」

 

サッカー部の練習メニューが一通り終わり

自主練習が始まっていた

 

大地は久々に自主練習に参加したものの

みんなとは混じらずに、隅っこでひたすらリフティングをしていた

 

インステップで高く上げ軽くヘディングで受け胸に落とし胸からインステップへ

3点コンビネーションリフティング

 

それに飽きると歩きながらインステップでリフティングをはじめ

どんどんスピードを上げていく、全力に近いスピードで走りながら

リフティングをし、ひたすらももが来るのを待っていた

 

「だだだだだだだ」

 

大地「!」

 

雄治「来た!」

 

監督・コーチ「もも〜〜〜〜〜〜!」

        「勝手にはいんじゃねー!」

        「って・・・もういいか・・・」

 

「だだだだだだだだだだだだ」

 

大地はグラウンドの隅っこから急いでコートの方に向かう

 

もも「だだだだだだだだだだ」

 

ももはたくさんあるボールの中の一つを力強く指差し

 

もも「インターぁああああああ」

 

みんな「今日こそ守れーーーーー!」

 

もも「セプトぉおおおおおおお」

 

そうももが叫ぶと、もうボールはももの足についていた

 

大地「しまった!遠くにいすぎた!!!」

   「くっそ!」

大地は懸命にももを追いかける

 

大地「最後なのに!」

   「最後なのにぃいいいいいいいい!!!」

 

ももはものすごい勢いで部員たちをかわしていく

 

ももはまるで踊っているかのように時折回転しながら

進んでいく

 

その渦に巻き込まれ、部員たちがバタバタ転んでいく

 

コーチ「もやしっこ〜〜〜〜〜〜〜!!」

    「はよ、たて!」

 

大地「なんだこれは!?」

   「はやい!」

 

   『そうか!』

   『初めてだ!』

 

   『もものプレイをこんなに遠くから見るのは!』

 

   『なんだこれは!?』

 

   『異常だろ!』

 

大地は懸命に走る

   『何が起きている????』

 

   『いつも近くで見ていたからわからなかった!』

 

   『なんだこれは?』

 

   『まるで渦じゃないか!』

 

   『これがマグナム・ヴォルテックスか???』

 

   『あのビデオと同じだ!』

   『金魚の動き』

   『あの時ももが見せてくれた』

   『合気道の創始者』

   『植芝盛平!』

 

   『目をキラキラ輝かせながら』

   『ももが俺に見せてくれた』

 

   『ももの宝物』

 

   「なんて速さだ!」

   「間に合わない!」

 

   「雄治〜〜〜〜〜〜!!!」

 

雄治「あ〜???」

  

大地「俺に時間をくれーーーーー!」

   「浩太〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 

浩太「そのつもりだよ!」

雄治「早く来い!こののろまが!」

 

   「そう長くはもたない」

 

大地「おめー、それでもセンターバックか!」

 

雄治「うっせーーー!」

   「俺もも嫌いーーーーーー!!!!!」

   「顔面シュートはやめようね〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

もも「しょうがないわね〜〜〜〜〜」

   「トラウマ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

雄治「今日はとめるぞぉおおおお」

   「ももぉおおおおお」

 

雄治はももにどんどん迫ってくる

もも「バカ!クロスステップ踏んだ時点で

   あんたのまーけー」

雄治がももの体にぶつかろうとした瞬間

ももの体に触れるか触れないかで

ももの姿は消えていた

雄治「あれ?」

   「あああああ」

雄治の目前に地面が迫る

雄治はその場に転んでしまった

 

雄治「あれ?」

   「なんでこけた?」

 

もも「センターバック失格〜〜〜」

  「はい!ざんねーん」

雄治は顔を地面につけたまま

雄治「俺もも嫌い!」と言ってへこんでいる

 

浩太『クロスステップすると抜かれる・・・・』

   『ゴールに向かう方向だけ防げばいい』

   『ももはパスを出す相手がいない』

 

大地「おかしい!?」

   「なんだ?」

   「あんなにももの走りは早いのに」

   「どんどん追いついていく」

 

   「なんだ!?」

大地はももの足を見ている

 

   「あんなに早く足を動かしているのに」

   「そんなに進んでいない????」

   「なんだ????」

 

もも『浩太は面倒・・・・・』

 

  「だいちぃいいいいいいいい!」

 

大地「はぁ?」

 

もも「たすけてぇえええ」

 

大地「はぁ?」

 

浩太「へ?」

 

もも「ワン・ツー」そう言うとももは大地にパスを出した

 

浩太「ええええええええ!!!!」

 

大地はそのパスを受けももを見ると

ももはスペースを指さしている

 

大地は反射的にそのスペースにボールを出した

 

大地「あ」

 

浩太「ももちゃ!ずるい!」

 

ももはそのボールに追いつくがGKの桂とまことが待ち構えている

大地「すまん浩太!」そういいながら大地は全速力でももを追いかける

 

もも「Wキーパーとかせこくね?」

   『シュートコースがない』

ももはスピードを8分から7分くらいに落としながら

いつでも急加速できるようにじわじわと間合いを詰める

 

桂『う・・・・うごけない!』

  『動いたら・・・決められる』

 

  「まこと先輩!どうしよ!?」

まこと「我慢じゃ!我慢!」

 

ももの後ろから大地が迫ってくるのがわかる

 

もも「行くしかないか!」

   「だ・だ・だ・だ・」

 

桂との距離は1M20CM

その1Mほど後ろにまことがいる

ゴールまでは3M

 

大地「あっ!」

   「駄目だ!」

 

   「まこと!桂から離れろ!」

   「ももにはまだ!必殺技がある!」

 

まこと「え?」

もも「手遅れじゃ」

 

ももは左足のインサイドでフックをかけるように足を肩幅ほど開いたまま

斜め右に1M50CMほど横っ飛びをした

 

ボールはももの左足と右足のインサイドの中でピンボールのように

動いている

 

桂「ええええええええ!!!!」

桂は一歩も動けないうちに抜かれてしまっていた

 

まこと「な!!なんだ今の横スライドは!???」

 

雄治「あああああ、久しぶりに見た!!!」

   「実は横スライドはそんなに難しくねーんだよな〜〜〜!」

 

浩太「うん」

   「だけど」

 

大地「まこと!まだだ、さがれ!」

 

浩太「縦スライドができるのは」

   「ももちゃ!だけだぁ〜〜〜〜!」

 

まこと「た・・・・縦スライド?????」

 

もも「おっそいわぁああああ!」

大地はようやく追いつきももの縦スライドのコースに向かって

走りこんでいく

 

ももは右足のインステップでボールを押すようにしながら

右足を後ろ左足を前

そのままの姿で、前方に1M80CMほどスライドした

ボールはももの右足インステップと左足かかとの間を

ピンボールのように動いている

 

みんなはその光景を見て口をあんぐりあけて驚いている

 

みんな「あ・・・・ありえね〜〜〜〜〜!」

 

大地「どんぴしゃじゃ〜〜〜〜〜!」

大地の走りこんだコースは、どんぴしゃだった

大地はももと肩を並べショルダーチャージを仕掛ける

 

もも「あたたたた」

  「そんなに押さないでよ!」

 

大地「うっせー!」

 

もも「いや、もうここゴールの中なんだけど」

 

大地「へ?」

 

そう言い前を見た瞬間

大地はネットに突き刺さった

 

大地「わぁああ」

 

もも「今日も私の勝ち〜〜〜〜!」

  「玉サッカー部完封負け〜〜〜〜」

  「ははははははは」

 

ももは陸上部ののジョギングの群れの中へと向かって走っていく

 

もも「さらばじゃ〜〜〜〜」

  「はははははははは」

 

大地「もも〜〜〜〜〜!」

 

浩太「ももちゃ〜〜〜〜〜〜!」

 

雄治「もも・・・」

 

ももはグラウンドの出口まで笑い続け

出口で振り向きもせず「ありがとー!」と叫んだ

 

その声は涙に震えているようにも聞こえた

 

大地「もも」

 

浩太・雄治「・・・・・」

みんな「・・・・・」

 

大地「ありがとう」

 

浩太・雄治・みんな「ありがとーーーー!」

 

   『俺たちの10番』

 

真っ黒に日焼けした少女

 

シーン@吾郎のビデオを見るシーン

 

大地が教室に入ろうとすると

教室の入り口で良子が仁王立ちで待ち構えている

 

大地「おお」

   「どうした?」

 

良子「先輩ビデオ見ましたか?」

 

大地「あ・・・・」

   「いや、俺ブルーレイなくて」

   「どうしようかな?って思ってるとこ」

 

良子「もーーーー!」

   「浩太先輩や拓真君は観たって言ったでしょうが!」

 

大地「はぁ?」

 

良子「すなわち、浩太先輩や拓真君はブルーレイを持ってるってことです!」

   「そこで見せてもらえばいいじゃないですか!」

 

大地「おおっ!なるほど!」

 

良子「追加です」と言いながらブルーレイディスクを5枚ほど大地に手渡す

 

大地「え?」

   「なにこれ」

 

良子「良子セレクションです!」

   「絶対見てくださいね」と睨み付ける

 

大地「お・・・おう」

大地は良子の迫力に思わず了承してしまった

 

良子「きっと役に立ちますよ〜」そう言いながら手を振り

自分の教室へと戻っていく

その途中もう一度立ち止まり

   「みんなのアイドル良子でした〜」といいながら手を振る

 

大地は苦笑いしながら「はは・・・」乾いた笑い声をだしながら手を振る

 

教室に入ると早速、浩太のもとに行き

 

大地「浩太ー!」

浩太「おはよう大地」

大地「浩太ブルーレイ持ってるだろ」

浩太「うん」

 

大地「ちょっとこのブルーレイが見たいから

    浩太んちで観させてくれない?」

そう言いながら、『バタフライ・ナイフ』という良子の手書きの

タイトル付のブルーレイを見せた

 

浩太「あー、それ僕観たんだ」

大地「ああ、そうらしいけど・・・」

浩太「雄治ーーーーー!」

浩太は雄治を呼ぶ

 

大地は未だに仲直りできてない雄治を呼ばれて

気まずそうな顔をしている

 

雄治は浩太に呼ばれて「なんだ?」と言いながらこちらにやってくる

 

浩太「雄治んちもブルーレイあるよね?」

雄治「あ?」

   「あるけど?」

 

浩太は『バタフライ・ナイフ』と書かれたブルーレイを手に持ちながら

 

浩太「これ見たことある?」

 

雄治「『バタフライ・ナイフ』?なんじゃこら?」

 

浩太「バタフライ・ナイフっていうのは吾郎のディープインステップのことだよ」

 

大地「!」

   「そ・・・そうなの?」

 

雄治「吾郎?」

 

浩太「泉谷吾郎だよ」

   「日本代表の」

 

雄治「ああ・・・あいつか」

   「ディープインステップってなんだ?」

 

浩太「見てないんだね」

 

雄治「ああ」

 

浩太「じゃあ、大地も見たがっているから一緒に見て」

   「大地はブルーレイを持ってないんだって」

 

雄治「はぁ?なんでだよ!」

   「浩太んちでみりゃいいだろ!」

 

浩太「僕はもう見たんだ」

   「雄治、大会で当たるかもしれない

    大会ナンバーワンストライカーだよ」

   「見ておかないと駄目だ」

 

   「ディープインステップが何なのか知らないなら尚更だよ」

   「それが、なぜバタフライナイフと呼ばれているのか」

   「これを見ればきっとわかる」

   「大地より君が見ておくべき相手だと思う」

 

雄治「わかった・・・わーたよ!」

 

大地「すまんな、雄治」

 

雄治はそっぽを向きながら「いちいち謝んな」そう言い続けて

 

雄治「ブルーレイはリビングにしかない」

   「夕飯とかが済んでからじゃないと駄目だ」

   「晩の9時くらいに来い」そう言い自分の席へと戻っていった

 

大地は浩太の方を向き

 

大地「おまえなー!」と言う

浩太「なに?」

   「何か問題あった?」とニコニコしながら言う

 

大地は呆れた顔をしながら自分の席へ戻っていった

 

大地は自分の家から10分とかからない雄治の家へと

ブルーレイを持って歩いて行く

 

少し緊張した面持ちで雄治の家のチャイムを鳴らした

すると、来ることを聞いていたのか雄治の母親が出てきて

 

雄治の母「大ちゃん、久しぶりねー」

      「上がって上がって」とうれしそうに話してくる

 

大地「夜分遅くすいません」

 

雄治の母「おおおお、そんなこと言えるようになったんだ」

      「大ちゃん、えらい!」

 

大地「はは・・・」大地はちょっと困りながら笑顔を作るのに必死だ

雄治の母は大地を招き入れながら

      「雄治ー!」

      「大ちゃん来てくれたよー」と雄治を呼ぶ

 

Fから雄治は「あー」と返事しながら降りてくる

 

雄治はリビングに招き入れられた大地のところまで来ると

 

雄治「突っ立ってねーで座れ」と言い

   「ん」と言いながら手を出す

大地は「ああ」と返事しながらブルーレイを渡した

 

雄治はTVをつけブルーレイを起動する

 

雄治の姉「雄治ー」

      「明子の体拭いてあげて〜」

雄治「今日は無理」

 

明子「雄治はやだー」

   「痛くするもーん」とお風呂場の方からそんな声が聞こえてくる

 

雄治の姉「雄治〜〜〜〜!!!」

 

雄治「わーーー!」

   「分かった分かった」

そう言いながら雄治は立ち上がり

 

雄治「わりー、時間が時間だ見始めててくれ」

大地「明代さん帰ってきてるんだな」

 

雄治「・・・・」

   「出戻りだ」

 

大地「へ?」

 

雄治「離婚したんだ」

 

大地「あ・・・」

 

雄治の姉:明代「雄治!はよせんかい!」

 

雄治「姉貴あんなんだから」

 

すると素っ裸でびしょ濡れの5歳くらいの女の子が目に入ってくる

 

雄治「こら!明子!」

   「お客さんがいるんだぞ!」

 

明子は舌を出しながら「べー」と言い

奥の部屋へと走っていく

 

雄治「こら!お前びちゃびちゃじゃねーか!」そう言いながら

明子のことを追いかけていく

 

雄治「大地ー、気にしないで観ててくれー」

大地「あ・・・ああ」

 

雄治の姉「雄治ー!」

      「次は修斗〜〜〜」

 

雄治「はぁ?」

   「まだ明子が拭けてないっつーの」

 

雄治の姉「はよせんかい!」

      「このぐず!」

 

雄治「うっせー!ボケ!」

 

雄治の姉「はよせんと、こっちがのぼせるやろうが!」

 

雄治「知るか!」

 

明子「痛い痛い痛い!」

   「雄治、いたーーーーい!」

   「雄治きらーい!」

 

雄治「じゃあ、自分で拭け!」

   「このバカ明子」

 

   「あーーーーー!修斗!!」

   「こらー!姉貴!」

   「なんで修斗出したんだよ!」

 

雄治の姉:明代「のぼせるわ!」

 

雄治「姉貴、廊下ふけよー!」

   「俺は知らんぞ!」

 

雄治の姉明代「お前が拭け!」

      「お前がぐずだからだろうが!」

 

雄治「おめーの子供だろ」

 

雄治の姉:明代「そうだ!かわいいだろ」

 

修斗「しゅーとー!」そう言いながら修斗は雄治のお尻をキックした

修斗は明子の弟で4歳児だ

 

雄治「お・・・・・おまえらなぁ〜〜〜〜〜」と怒りをあらわにしている

 

修斗「ゆうじぃ〜、あそぼ〜」

 

雄治「ままて」

   「とりあえず、拭こうな」

 

修斗「しゅーとー」そう言いながら雄治のことをもう一度蹴る

   「あはははははは」

明子「ままー」

   「雄治があたしのお尻触ったー」

雄治の姉:明代「ええ!それは大変」

      「ママが後でぶんなぐっとくねー」

明子「何発ー?」

雄治の姉:明代「2発」

明子「だめー」

   「5発ー」

雄治の姉:明代「はい、わかったわ」

      「5発殴っとくね」

明子「わーい」そう喜び雄治の方を見て

   「ざまあみろ!」といい逃げて行った

 

雄治「なんだこいつら・・・・」

 

   「俺の常識が通用しねー」と、ほとほと困り果てているようだ

 

大地はそんな騒ぎを聞きながらビデオを見ている

 

ビデオの中では吾郎がガンガンドリブルしている

 

大地『ふ〜ん、直線的だな

   『カックンカクン曲がる感じ』

   『予測して止められそうな気がするんだが

   『どんどん抜かれていく・・・・』

   『なんだ・・・?これは・・・?』

 

   『吾郎・・・ずっと口が動いてるな』

   『何を言ってるんだろう?』

   『めっちゃ、テンション高そうなやつだ・・・』

 

   『変なやつ・・・・』

 

ビデオの中で吾郎がミドルシュートを放つ

 

大地「!!!!!」

   「えぐ!」

 

大地は思わず声を上げてしまった

その声を聴いて明子がこちらにやってくる

 

明子「おまえ、誰?」

 

大地「こら、お前とか言っちゃだめだぞ」

 

明子「お前お前お前!」

 

大地「俺は大地だ」

   「君は明子ちゃん」

 

明子「そう」

明子は名前を呼んでもらって嬉しそうにクルクル回りながら

大地の方に近づいてくる

 

明子は大地の前まで来ると大地を指さし「大地ー」と呼ぶ

 

大地は明子が指した手を優しく握り

 

大地「指をさしちゃだめだ」と言う

 

明子は、手を握ってもらって嬉しそうにしながら

   「なんで?」と尋ねる

 

大地「なんでかなー?」と優しく言う

 

明子「お前知らないんだろ!」と言う

大地「ん〜?どうかな?」

   「明子ちゃんは知ってるの?」

明子「あたしは知ってる」

大地「おおお〜」

   「じゃあ、指をさしちゃだめだよね?」

明子「そうだな」

 

そう返事すると明子は大地の膝の上にちょこんと座ってきた

大地は、優しく明子の頭を撫でてあげた

 

明子「大地ー!痛くない!」

大地「ん?」

明子「雄治は痛い」

大地「ははは、そっか」

 

明子「修斗〜〜〜、テレビでサッカーやってるー」

修斗は奥の部屋から「え〜〜〜〜!みる〜〜〜〜!」と言いながら

リビングの方に走ってくる

 

雄治「こらー、ズボンはけー」と言いながら

雄治もリビングに入ってきた

 

修斗「あーーーーー!吾郎だ!」

   「吾郎が出てる!」

 

大地「ほー、修斗は吾郎を知ってるんだ」

 

修斗「当たり前だ!日本代表だぞ!」

   「すんごいんだぞ!」

 

大地「へー」

 

修斗「吾郎のミドウシュートはワーウドクラス」

雄治「ワールドな」

 

修斗「バタフライナイフー」

 

雄治「はぁ?」

 

修斗「吾郎のミドウシュートの名前だ」

 

雄治「ミドルな」

大地「ああ・・・そういうことか・・・・」

雄治「ん?」

 

大地「修斗、吾郎のミドルシュートはなんでバタフライナイフっていうか知ってる?」

 

修斗「格好いいからだ!」

 

大地「う〜ん、それもあるかもしれないけど」

   「靴の紐を結ぶとき蝶々結びするだろ?」

 

修斗「うん」

 

大地「バタフライっていうのは蝶々のことなんだ」

 

修斗「格好わりー」

   「だから違う」

 

大地「その蝶々結びのところでボールを蹴る」

   「ディープインステップってやつだ」

   「すっごく速い球になるんだ」

 

修斗「おおおおお、ディーディー」

 

大地「ディープインステップ」

 

修斗「格好いい!」

 

大地「修斗も今度蝶々結びのところでボールを蹴ってみるといい」

   「とっても難しい」

 

修斗はそれを聞くと立ち上がり「今やってみるー」と言ってボールを取りに行こうとする

 

雄治「こらこら!家の中でボール蹴っちゃダメ」

大地「修斗」

   「ディープインステップで蹴ったら家が壊れちゃうぞ!」

   「それくらいすごいんだ」

 

修斗は目をキラキラさせながら

   「そうなのか!」

   「じゃあ、明日やってみる」と言いその場にまた座った

 

明子は大地に頭を撫でてもらいその場でスースー眠っているようだ

 

ビデオの中の吾郎に、相手選手がスライディングを仕掛けてくる

吾郎はボールを上手に両足の間にはさみ空を飛び回転しながら

かわしていく

 

修斗「空中マウセウウ〜〜〜〜」

雄治「はぁ?」

 

大地「なんだこれ!」

 

修斗「空中マウセウウだー」

   「解説の人がそう言ってたー」

 

大地「空中マルセイユ・ルーレット??」

 

修斗「そうそう」

 

雄治「回る必要なくね?」

 

修斗「ボールをすくい上げるために

   回転するんだって」

   「修斗も練習中だ!」

 

雄治「おめーにできるわけねーだろ!」

 

ビデオの中の吾郎はスライディングをかわした後

先ほどと同じように直線的に進みカクンカクン曲がっていく

ドリブルをしながら敵をかわしていく

 

雄治「あん?下手なドリブルだな」

   「止められるだろ」

 

大地「いや・・・なぜか止められないみたいだ」

   「俺もよくわかんねー」

修斗「3Mドリブルだ吾郎の必殺技だ」

大地「あん?」

   「3Mじゃないだろ?」

 

修斗「しらね!」

 

大地「解説の人なんて言ってた?」

 

修斗「忘れた!」

 

そんな話をしていると雄治の姉が部屋に入ってくる

雄治の姉:明代「しゅーとー、もうねんねー」

 

大地「明代さんお邪魔してます」

 

明代「おー、大地ーでかくなったなー、なまいきだぞー、はははははは」

 

大地は呆れた顔をしながら「はは」と愛想笑いをする

 

明代「お!明子寝てるじゃない」

   「すごい」

   「大地、もうこの子を手なずけたの?」

   「なかなかやるわね、女ったらしめ」

 

大地「はぁ?」

 

明代「雄治、明子を寝室に運んでやって」

 

雄治「あいよー」

明代「修斗ー、ねんねよー」

修斗「えー」

 

明代「ねんねしない子には新しいボール買ってやんない」

 

修斗「えー、やだー」

 

明代「じゃあ、寝なさい」

 

修斗「んー」

 

そう返事すると修斗はお母さんの方に歩いて行った

 

大地はビデオを見終わると

雄治たちの家族にお礼を言って家に帰った

 

雄治は忙しそうで、あまり話すことはできなかった

 

 

シーン@ 浩太の気持ちを知るシーン

 

 次の日の朝、大地は学校に向かってとぼとぼ歩いている

 

大地『吾郎・・・』

 

   『なんか・・・変なやつだったな

 

   『試合中ずっと何かわめいているようだった』

   『チームを鼓舞しているのか?』

 

   『そんな感じでもなかったな

 

そんなことを考えながら歩いていると

浩太が後ろから走ってきて声をかけてくる

 

浩太「大地ー!、おはよう!」

 

大地「ああ、おはよ」

 

浩太「どうだった?」

 

大地「ん?」

 

浩太「ブルーレイだよ」

 

大地「ああ」

   「昨日は大変だった」

   「雄治んち、姉貴の子供がいて」

   「大騒ぎ」

そう言いながら、思い出して笑っているようだ

 

浩太「雄治とは?」

大地「あのなー、いらんことすんな」

   「別に大丈夫だ」

 

浩太「そう」

 

   「で、吾郎の方はどうだった?」

 

大地「あ、そうだ」

   「浩太」

浩太「ん?」

 

大地「浩太は県選抜で吾郎と一緒にやったことあるよな」

 

浩太「ああ、仲いいよ」

大地「あいつ、試合中ずっと何かしゃべってたんだけど」

   「なんだあれは?」

 

浩太「あはははははは」

 

大地「あん?」

 

浩太「よく気づいたね大地」

 

大地「いや、四六時中口が動いてたからな」

 

浩太は「はははははは」と、何かを思い出したかのように笑ってる

 

大地「ん〜?」

 

浩太「副長殿!」

   「任務完了であります!」

 

大地「あ?」

 

浩太「神よ!もしも本当にこの世に神がいるのなら」

   「たった一度でいい」

   「俺の!」

   「俺の左足を動かしてくれー!」

 

大地「おい!どうした???」

   「大丈夫か、お前」

 

浩太「吾郎だよ」

 

大地「え?」

 

浩太「吾郎とサッカーをすると、とても楽しい」

 

そう言いながらわくわくした顔をしている

大地はあんぐりと口をあけて浩太を見ている

 

浩太は続ける

   「あまねく星の神々よ」

   「わが意思に従い怒りの鉄槌となれ!」

   「バタフライナイフーーーーー!」

 

浩太はいつもは見せたことのないような楽しそうな顔をしている

 

浩太「とかね」

 

大地は子供のころ以来一度も見せたことのないような

浩太の笑顔を見て驚いている

 

浩太「吾郎とサッカーをすると本当に楽しいんだ!」

 

大地「・・・・・・・・・」

   「そ・・・そうか・・・・」

 

学校につきチャイムが鳴ると

みんなそれぞれの席に着く

いつもと同じつまらない授業が始まる

大地には先生の声など届いていなかった

 

大地『浩太は・・・・』

 

   『浩太の気持ちは』

   『玉サッカー部から離れてしまっている』

 

   『あんな笑顔はしばらく見たことがなかった・・・』

 

   『浩太の気持ちは・・・もうここにないんだ・・・・』

 

   『吾郎・・・・』

 

   修斗『当たり前だ!』

      『日本代表だぞ!』

      『格好いいからだ!』

 

    『吾郎』

    『サッカー小僧を魅了している』

 

    『吾郎』

 

  修斗『吾郎のミドウシュートはワーウド・クラス!』

 

  浩太『吾郎とサッカーをすると本当に楽しいんだ!』

 

  雄治『お前なんかいらない!』

     『俺の10番はももだけだ!』

 

『バラバラになってしまった』 

 

そんなことを考えながら、一日をぼーっとしたまま過ごした

雄治とは昨日のお礼を言った程度のことしか話さなかった

 

いつものように部活を終え、大地はぼーとしたまま

自主練はせずいつもの海辺に行き一人で練習をした

 

海と空はすぐに茜色に染まる

 

大地はぼんやりとした顔をしながら小さな声で

懐かしい歌を何気なく口ずさんでいた

 

大地「誰だって、傷を持ってる

   「おもーいでの・・・・」

 

   「・・・・・」

   「青いページに・・・・

 

   「誰だって〜・・・・・・」

   「夢を持ってーる」

 

   「黄昏と〜〜・・・・・」

そう歌いながらぼんやりと空を見上げている

 

   「同じ色のページ・・・に・・・・・

 

まだまだ暗くない夜空に強い光を放つ星だけが輝いている

 

大地『吾郎』

   『もも』

 

   『ひときわ強い光を放つ星』

 

   『俺は・・・違う』

 

   『存在しているのに』

   『見えない』

 

   『俺はここにいるのに・・・』

 

大地はずっと考えていた次の日も次の日も

もやもやした気持ち

それが何なのか確かめるために

ずっと考えていた

 

  『いやだ・・・・・』

 

   『いやだ・・・・・』

   『いやだ!』

 

『どうする!』

『何かをしなければこのままバラバラになってしまう』

 

『ももはもうコートの中にはいない』

 

『今俺は10番をつけていても10番じゃない』

 

『しかし、俺以外に10番になりえる奴もいない』

 

『俺がやるしかない』

 

 『いやだ・・・・・』

 

 『このままでは・・・』

 

 『終われない・・・・』

 

 

 

『!!!!!!!!!』

 

『そうか・・・・』

 

『今はっきりとわかった』

 

 

『自分の本当の気持ちが・・・・』

 

放課後になると大地は何かを決意したような顔をして

雄治のもとに向かった

 

大地「雄治」

雄治はそっぽを向きながら「あー?」と気のない返事をする

 

大地「この間は、ありがとうな」

 

雄治はそっぽを向いたまま返事をしない

 

大地「浩太と吾郎の話をした」

 

雄治「・・・・・」

 

大地「浩太の心はこのチームから離れている」

 

雄治「はぁ?」

 

大地「俺は吾郎から浩太を取り戻す!」

 

雄治「なんの話をしてるんだ?」

 

大地「俺はももから10番を奪い取り」

   「吾郎を倒す」

 

雄治は真剣な大地の顔を見て

眉をしかめて大地のことを見ている

 

大地「俺は、今はっきりと気づいた!」

   「俺は一番じゃなきゃ嫌なんだ!」

 

雄治は真剣な顔をして大地を見ている

 

大地「吾郎を倒すためには、お前の力が必要だ」

 

   「なぜなら、お前がこのチーム最強のセンターバックだからだ!」

 

雄治「おお」雄治はいつもより低い声でそう答え、続けて

 

   「で・・・・何をすればいい」と尋ねた

 

大地「お前が子守とかで忙しいのは知っている」

   「でも・・・じっくり、これを見てほしい」

そう言いこの間のBRを雄治に渡した

 

雄治「わかった」

 

大地はさらにカバンから

   「んで、これとこれとこれと」と言いながらBRをどんどん出してくる

 

雄治「あああ????」

   「こんなにいっぱい?」

 

大地「しょうがない!」

   「今までサボってた罰だ!」

 

雄治「ま・・・まじでか・・・」

 

大地「それで・・・実は・・・」

   

   「俺もまだ見てない」

 

雄治「だろうな・・・BRないもんな」

 

大地「というわけで、今日から毎日お前の家に行く」

 

雄治「はぁあああ?????」

   「いや、迷惑だから」

 

大地「迷惑かどうかなんてどうでもいい!」

 

雄治「迷惑だぁかぁらぁあああああああ!!!」

 

 

大地は相変わらず自主練には参加せず一人で

海辺でサッカーの練習をし

晩の9時になると雄治の家でブルーレイを見るといった日々を送っていた

 

明子「大地ー」

大地「明子ー」

 

明子は名前を呼んでもらって嬉しそうにクルクル回りながら

膝の上に座る

 

明子「大地好きー」

そういうと目を瞑り大地の胸に顔を摺り寄せる

大地がしばらく頭をなでると

明子はすやすやと眠ってくれる

 

明代「おー、こりゃあ、楽でいいわ」

 

雄治は修斗を膝の上にのせながら

ビデオにかぶりついている

 

雄治「わかんねー」

    「なんでこんなドリブルが止められないのか」

    「まったくわかんねー」

 

大地「ん〜」

   「その場にいる奴にしかわからん、何かがあるんだろうな」

 

雄治「なんかってなんだ?」

 

大地「迫力とか」

 

修斗もビデオを見て興奮している

修斗「おおおおおおお!」

    「左足ーーーー!」

    「はいったーーーー!」

    「吾郎は両足で強烈なミドウーーーー!」

 

    「右足がバタフライナイフー!」

    「左足がレフティーモンスター」

 

雄治「いや、レフティーじゃねーだろ、こいつ」と苦笑いする

 

修斗「レフティーモンスターはシュートのなまえだ!」

   「吾郎がインタビューの時言ってた」

 

雄治「あっそ!バカ確定だな」

 

修斗は雄治の頭をグーで殴り

   「吾郎はバカじゃない」

   「格好いい!」

 

雄治「へいへい」

    「さーせん」

 

大地「修斗、俺と雄治は吾郎と今度戦うんだぜ」

 

修斗「え?」

 

大地「だからこのビデオを見てるんだ」

 

修斗「えええええええ!」

   「すごい!」

    「すごい!」

   「吾郎とたたかうの!」

 

大地「特に雄治が戦う」

 

修斗「え?」

   「雄治では無理」

    「ボロ負け」

   「雄治格好悪い」

 

   「修斗は吾郎応援する」

 

雄治「おまえなー!」

 

大地「そうか」

   「それならそれでもいい」

 

   「でも、きっと俺たちのことを応援したくなる」

 

修斗「ならないー」

   「修斗は吾郎が一番好き!」

 

大地「ははは。そうかそうか」

   「とりあえず見に来いよな」

 

雄治「おい、大地あたるかわかんねーんだから」

   「あんまりそういうこと言うな」

   「駄々こねるから」

 

大地「・・・・・・」

   「いや、必ず当たる」

 

大地「吾郎のチームはどこにも負けない」

 

   「俺たちも負けない」

 

   「だから必ず当たる」

そう真剣な顔をし、まっすぐ雄治を見て言った

 

雄治「・・・・・・」

   「ああ・・・」

   「そうだったな・・・・」

 

 

雄治は吾郎のドリブルがなぜ止められないのか理解できない

遠目に見た映像の中では簡単に予測でき

止めることができるように見えるからだ

 

 

 

 いつものように自主練を終え雄治と浩太は帰路につく

雄治「あのー、浩太」

 

浩太「ん?」

 

雄治「吾郎のことだけどさ」

   「3Mドリブル」

   「あれって・・・・止めるの簡単じゃね?」

 

浩太「ああ」

   「ビデオで見るとそう感じるね」

   「だけど、誰も止められない」

 

   「見たんでしょ?」

 

雄治「ん〜」

 

   「確かに誰も止められていない」

   「だけど理由がわからん」

 

浩太「実際はどうだかわからないけど」

   「僕が思うには、3M走っていう競技があったら

    吾郎は日本一速いんだと思う」

 

雄治「え?」

 

浩太「目の前で見ないとわからないと思うけど」

    「吾郎の出だしの3Mは予測をはるかに超えたスピードなんだ」

 

    「しかも、つねにMAXのスピードを使うわけじゃないから」

    「どこにかぶせに行ったらいいのかわからない」

 

    「予測して行った場所が当たらない」

 

雄治「・・・・・」

 

浩太「だから、MFは直接当たりに行く気がうせ

    DFと挟もうとする」

   「ずるずる下がる」

 

   「そこで、ミドルの登場というわけ」

 

   「挟まれたらさすがに抜くことは難しくなるからね」

   「抜く前にミドルを打ってくる」

 

   「それがまた強烈なんだ」

   

   「もともと吾郎のドリブルはボールを前に50cm〜3Mの幅で

    そのシーンに合わせて出し、それを追いかけインサイドフックで

    方向を変えるか、そのままボールを蹴るかっていうタイプだから」

 

    「キックフォームがあってないようなものだ」

 

    「キックをしてくるのかインサイドフックをかけてくるのか、わかりにくい」

 

    「インサイドフックも両足でできる」

    「ミドルも両足で打てる」

 

    「吾郎を止めるにはスライディングしてつぶすしかないと

     思うようになるだろう」

 

    「だけどそれは、吾郎にとって織り込み済み」

 

浩太はわくわくしたような顔で吾郎の話をしている

 

雄治「空中マルセイユ・ルーレットか」

 

浩太「そう」

   「吾郎は世界と戦っている」

   「日本一かもしれないといったけれど」

   「ひょっとしたら世界一なのかもしれない」

浩太は興奮した様に話す

 

雄治は浩太の顔を見て驚いている

 

浩太「吾郎は日本代表だからすごいんじゃなくて」

 

   「すごいから、日本代表なんだ」

 

雄治「・・・・・・・」

 

   「あ・・・あの・・・」

   「浩太」

 

浩太「ん?」

 

雄治「でさあ」

   「吾郎を止める方法ってなんかないの?」

 

浩太「ない!」

 

雄治「!!!!」

 

    「おい!お前」

    「お前もボランチなんだから止める方法考えなきゃダメだろ!」

 

浩太「ないものはないんだ!」

 

   「しいて言うなら、我慢する」

 

雄治「なに?」

 

浩太「ずるずる下がらず高い位置で挟み込む」

   「ミドルが打てない高さでね」

 

   「しかし、それをすると後ろのスペースが大きく開く」

   「吾郎は止められても他の選手が自由にボールを受け」

   「シュートまでいくだろう」

 

雄治「・・・いくだろう・・・・」

   「だろう・・・だと?」

 

   『大地の言った通りだ』

   『浩太の心はもうこのチームの中にはない』

 

   「そうか・・・・・」

   「それは・・・・困ったな・・・・」そう、うつむきながら答え

 

そのあとは、大した話もせず浩太と別れた

雄治は何をすればいいのか全く分からなくなり

考え込むようになった

 

シーン@ももにお願いするシーン

 

     

大地は自主練には参加せず一人で浜辺で練習を続けていた

  『ももならどうする!』

そう問いながら

   『お前の目は節穴か!』

 

   『なんだろうねぇ〜』

   『なんだろうねぇ〜』

 

そう問いながら

    『もも、お前にはいったい何が見えている!』

 

そう考え続けている

 

そんな日々が続く中、大地はある決意をしていた

大地は休み時間になるとももの方に向かって歩いていく

ももは、女子のグループで楽しげに話をしている

 

大地「もも」

もも「ん?」

女子たち「?」

大地「あの悪いんだけどさ」

    「放課後に体育館裏にきてくんない?」

女子たち「ええええ????」

 

大地「おまえら!うっさい!」

 

ももは少し困惑した顔をしながら

  「な・・なに?」

 

大地はゆっくりとした口調でもう一度

   「放課後、体育館の裏に来てくれ」と言う

 

女子たちは大きな声で

      「大地が放課後、ももを体育館の裏に呼び出したー」と叫び出す

大地「死ね!おまえら!」と言いながら自分の席に戻っていく

 

ももは真っ赤な顔をしながら下をずっと見ている

 

     周りのみんなは、とうとう大地がももに告るだとか

     果し合いをするだとか好き勝手なことを言っている

     体育館裏に呼び出すというベタさにみんな興味津々だ

 

     ももはなぜ呼び出されたのかよくわからない

     ひょっとしたらと思いドキドキしている

     仲のいい友人からは「とうとうきたねー、ガンバ!」と励まされている

     ももは1日中顔を赤らめていつもと違う様子だ

 

 

     放課後、体育館裏

クラスのみんなは興味津々で大地たちにバレないように体育館裏を覗いている

 

浩太「やめとこうよ〜」

   「みんなもほら!部活部活!」

 

雄治「うっせー!浩太」

   「優等生か!」

 

女子「そうそう!私、部活引退したし、ないもんねー」

雄治「おそらく果し合いだろう」

   「残念だ!」

   「大地!お前ではももに勝てない」

   「さようなら大地」

   「そしてありがとう」

浩太「違うと思う・・・」そう言いながら浩太は呆れている

 

クラス男子「やっぱ告るのかー?」

そんなことを好き勝手言っている

      

      大地は照れ臭そうに頭をかきながら

         「あー」

         「こんなとこによびだして・・すまん」

 

      ももは顔を赤らめて大地の顔をまともに見れないようだ

 

      大地「あー」

         「他の奴らに聞かれると・・まずいというか・・・なんというか」

 

二人の様子を陰から覗いているみんな

 

     みんな「おおおおお!」

          「いおいおだおー」

       雄治「なんだとぅ!、告るのかーーー!」

          「地獄の一丁目だろ!」

          「はやまんな!大地」

 

       女子達「あんた黙ってなさい!」

          「応援しなさいよ!」

          「あんたも幼馴染でしょ!」

 

        雄治「だからこそいう!」

           「地獄の一丁目だっつーの!」

 

 

       大地「あー、それでさ・・言いにくいんだけどさ」

   

       もも「な・・・なに?」

 

       大地はももの手を握り

       大地「もも!」

       ももは顔を真っ赤にしながら驚いている

       もも「は!はい!」

 

       雄治「キターーーーーーーー!」

       みんな「くるぞ!」

           「くるぞ!」

           「誰か携帯で録画しろ!」

           「一生強請ろう!」

        女子「もも!ガンバ!」

 

       大地はももの手を離し一歩後ずさりした後

          「ももちゃ、サッカーおせーてください!」

       と大きな声で言いながらその場に土下座をした

 

      みんな「えええええええええええ!」

          「ぶーーーーーー!」

       雄治「なんじゃそらーーーー!」

       浩太「はぅっ!」

 

      ももの友人はももの顔が少しがっかりしていることに気が付いていた

 

       大地「・・・・・・・」

       もも「・・・・・・・」

 

しばらく沈黙が続く

 

       大地「・・・・・・・」

       もも「・・・・・・・・」

 

     みんな「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

          「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

さらに沈黙が続く

 

      みんな「な・・・なんだこれは・・・」

       雄治「な何とも、いたたまれない空気じゃねーか」

       女子「大地!死ね!」

          「・・・・・」

          「・・・もも・・・・」

 

       もも「男が土下座だなんて」

          「そんなみっともないことするものじゃないわ」

そう言い背を向けその場を去っていく

 

       大地「あ」

          「ももちゃ」

 

ももは振り向かず歩きながら大地に聞こえるギリギリの声で

 

   もも「私は授業が終われば家に帰る」

      「家に帰って・・・・服を着替えて」

      「参考書を持って」

 

 

 

      「あの海に行く」

 

      「私はあの景色が好きだ」

      「とても懐かしい思い出の場所」

 

      「風の音と波の音」

 

      「穏やかな気持ちになれる」

 

まだ何かももは言っているようだったが、もう大地には聞き取ることができなかった

 

大地「・・・・・」

   「ももちゃ」

 

シーン@ 自主練には参加せずももと練習するシーン

 

大地は練習が終わると急いで帰り支度をしている

 

雄治「おい!」

   「また自主練さぼんのかよ!」

   「そろそろ自主練に参加しろよ!」

浩太「雄治!」

   「いいんだ」

大地「・・・・・・・」

   「雄治・・・・・」

   「大丈夫だ」

雄治「あ?」

 

大地「ちゃんと練習はやってる」

 

雄治「・・・・・」

浩太「そのようだね」

 

雄治「・・・・そうか・・・」

   「しっかり聞いたぜ」

   「・・・・・」

 

大地「ああ」

そう返事すると大地は足早に駅へと向かって歩き始めた

 

雄治「もも・・・?」

浩太「そうだね」

   「ももから、引き継ぐんだよ」

 

雄治「ももは断ったように見えたが・・・・?」

浩太「そうだね」

 

雄治「浩太!どっちだよ!」

浩太「さぁ?」

   「プライベートには立ち入らない主義なんだ」

雄治「なんじゃそら!」

   「ボケ!」

雄治は浩太の首に腕を回して締め付けている

 

浩太「な・・・なんで〜〜〜!?」

 

 

 

 大地が海辺につくと

ももは、砂浜にある大きな石の上に座り何か本を読んでいるようだ

 

大地「ももー!」

 

ももは顔を上げずっと海の方を見たまま

まだ一人座れるスペースが空いた石を手の平でたたき

ここに座れと言っているようだ

 

大地はエナメルバックからボールを取出し

大地「日が暮れる」

   「早くやろうぜ」と言いながらインステップでリフティングを始めた

 

ももは石を手のひらでたたき

大地の方に行く様子はない

 

大地「・・・・・」

   『やっぱ・・・教えてくれねーのかな・・・?』

 

大地はちょっとがっかりした顔をしながら

もものところに行き

ももの隣に座った

 

もも「手を太ももの上に置き

   背筋を伸ばして座りなさい」

大地「え?」

 

もも「さぁ」

 

大地「お・・おう」

大地はももの支持をしぶしぶ承諾し

背筋を伸ばしきっちり足を閉じ手を太ももの上に置いた

 

もも「目を閉じて」

大地「あ?」

   「なんでだ?」

もも「目を閉じて」

大地はしぶしぶ目を閉じる

   「ん〜〜〜」

 

もも「黙れ」

大地は口をとがらせながら黙った

 

もも「勘違いしないように先に言っておく」

大地「?」

もも「人は体を脳からの信号で動かしている」

  「いくら筋力を鍛えても」

   「脳からの信号が遅ければ早く動かない」

 

大地「ああ、そうだな」

もも「黙れ」

 

大地は口をとがらせながら黙ることにした

 

もも「その逆もある」

   「リフティングを練習したころに

    それを体感できたことだろう」

   「脳からの信号と体力が一致しなければ安定しない」

   「体力がなければ集中力が落ちる」

   「体力がなければ体がふらつきボールがぶれる」

   「脳からの信号は変わらず正確だが」

   「体がそれに耐えられない」

 

大地「・・・・・・・」

 

ももは大地の掌の上に自分の掌を重ね合わせた

 

大地「わわわわわ!」

 

もも「黙れ!」

 

大地「ま・・・まずくね?」

 

もも「勘違いするな!」

  「だから先に言っておくといっただろ!」

 

   「イメージトレーニングだ」

   「とても重要だ」

 

大地「でも、まずいって!」

   「誰かに見られたらどうすんだよ!」

 

もも「私は別にかまわない」

  

大地「・・・・・・」

   「ま・・・・まぁ・・・・」

   「俺も別に・・・」

   「かまわねぇーけど・・・」

 

もも「そう・・・・」と小さな声でうつむきながら言い

ふたたび顔を上げ

 

  「なら、黙れ」と力強く言った

 

大地は再び口をとがらせながら黙ることにした

 

もも「大地あなたは、今までに十分な練習を積んできた」

 

大地「あ・・・」

大地は何か言いたそうにしている

 

もも「なんだ?」

 

大地「ちがうんだ・・・俺は・・・」

   「浩太とか・・・拓真のように、ちゃんと練習をしていないんだ」

 

もも「その意味は分かる」

   「その上で答える」

 

   「あなたは、今までに十分な練習を積んできた」

 

大地「ち・・・・違うんだ」

 

もも「違わない」

 

大地「・・・・・・」

 

もも「順番が違うだけだ」

 

大地「??」

 

もも「だから今イメージトレーニングをしようとしている」

  「それくらい分かれ!」

 

 

 

大地「!」

 

もも「大地、あなたの準備は完全に整っている」

   「自分が走っている時の足をイメージしてみて」

 

大地は一生懸命足を動かしているのをイメージしている

 

もも「限界のスピードで」

  「はやく」

  「はやく」

 

大地「・・・・・・」

 

もも「背中を伸ばして」

   「背中が伸びていないと意味がない」

 

大地「?」

 

もも「もっと、はやく・・・はやく」

 

大地は一生懸命足を動かしていることをイメージしている

 

もも「その速さであなたの足は本当に動く」

 

大地は眉をしかめながらイメージし続けている

 

もも「眉をしかめる必要はない」そう言い大地の顔を見ている

 

大地の顔はまだ苦痛にゆがんでいる

 

 

もも「眉をしかめるのをやめろ!」

  「眉をしかめたところで早くはならない」

 

  「敵に隙を見せるだけだ」

 

  「平然とした顔をしていろ」

 

  「痛いときに顔をしかめても」

  「痛さが消えないのと同じだ」

  「平然としていろ」

 

  「これは一緒に戦っているその場にいる者にしかわからないこと」

  「やがて平然とした顔に」

  「敵は恐怖心を抱きだすだろう」

   「ぶつかりに行っても意味がないと思うようになるだろう」

   「時間がたち」

   「みんな疲れてくる」

   「あたりに行っても意味がない」

   「だから行くのをやめる」

 

   「完全勝利だ」

   「戦わずして勝つことができる」

 

   「「いつでもかわしてやるからかかってこい」と言う顔をしていろ」

 

   「敵を睨みつけ」

   「味方を間接視野でみる」

 

   「大地は味方ばかり見ている」

 

   「敵を見ていろ」

 

   「全部お見通しだという顔をしていろ」

 

   「それで前半ボロが出なければ」

   「勝利する可能性が格段に上がる」

 

   「はやく・・・はやく・・・」

 

しばらくそんなやり取りをした後

ようやくももは立ち上がり

 

もも「さぁ、時間がない立て」

 

   「体を動かしていないのに、すごく疲れたでしょ?」

 

大地「あ・・・ああ」

   「ぱねぇーほど疲れた」

 

もも「時間を見つけてはこれをやるといい」

大地「おー、OK

   「これは・・・効きそうだ」

 

もも「当たり前だ」

  「これをせずに高速で動き続けることなど

   逆に不可能だ」

   「34秒で最高速を維持できなくなる」

   「それ以上動けてると思っていたら

    それは勘違いだ」

 

 

もも「背中を伸ばしてヘソの下あたりに重心を置くイメージ」

  「足を動かす」

   「さぁ、その場でやってみて」

 

大地は足を高速で動かしてみる

 

ももは大地のお尻を軽く蹴り

  「ケツを出すな」

  「ヘソの下に重心だ」

  「お尻を出したらズレるだろ?」

  「わからない?」

 

大地は眉をしかめながら重心の位置を確かめるように

高速で足を動かしている

もも「眉をしかめるな!」

   「いつでもだ!」

 

   「同じだ!」

   「眉をしかめでも何も起こりやしない!」

   「みっともないだけだ!」

ももは大地の廻りをゆっくり歩きながら見ている

 

  「スピードが落ちてきたぞ」

 

大地「無理だろ!」

大地は息を切らせながらそう答えた

 

もも「じゃあ、負ける。それだけだ」

 

  「足を上げすぎだ」

  「地面についたボールの一番膨らんだところ以上

   足を上げてはならない」

 

  「かかとをついてはならない」

 

  「もっと早く」

  「背中を伸ばして」

大地は懸命に平然とした顔を装いながら足を動かす

 

もも「一度休んで」

 

大地は、ひざに手をやり息を荒げている

 

もも「こら!」

   「背中を伸ばして立て」

   「休憩中も平然とした顔をしていろ」

 

大地は返事はせず背筋を伸ばし、

できるだけゆっくりと呼吸しようとしている

 

ももはずっとそれを見ている

 

もも「もう一度足を動かす前に説明する」

   「説明が済んだら、ただちにそれをやれ」

 

   「走るときの姿勢は、さっきの姿そのまま」

   「5cm・10cm体を前に倒す」

   「足もそのまま・背中もそのまま・お尻もそのまま」

   「絶対に折ってはならない」

   「5cm・10cm後ろに倒す」

   「5cm・10cm右に倒す」

   「左に倒す」

 

   「足は地面についたボールの一番膨らんだところ

    より絶対高くなってはならない」

   「つま先を立てインステップを前面に見せる感じ」

   「かかとをついてはならない」

 

   「もう一度言う」

 

   「足もそのまま・背中もそのまま・お尻もそのまま」

   「絶対に折ってはならない」

   「・・・・・・・・・・・・・・」

 

大地は説明が終わったことを悟り

 

高速で足を動かしだす

言われたとおりに体を倒してみる

 

大地「!!!!!」

   『なんだこれは!?』

   『勝手に動くぞ!』

 

ももは大地にゆっくり近づき

大地を手でゆっくりと押し始めた

 

大地「!!!!!」

 

大地は押された方向に、そのままの姿でずれていく

 

もも「ちょっときつめにいくぞ!」

そう言いももは大地に体当たりをする

 

大地は当たられた方向に30cmほどずれたが

体勢に影響を受けていない

 

大地「なんだこれ!!!」

   「てか!めっちゃしんどい!」

 

もも「そうか!なら負ける、それだけだ」

 

   「少し休め」

   「ヘタレ小僧」

 

 

大地は胸を張ったままの姿勢で

平然とした顔を装いながら息をできるだけゆっくりしようとしている

 

もも「次」

   「ボールを入れる」

   「ドリブルをしようなんてくだらないことは考えるな」

   「タッチする場所の多少のずれはたいした問題じゃない」

   「ボールをひざ下に入れその走り方を正確にするだけだ」

 

   「ドリブルは失敗の連続だ」

   「失敗に対するリカバリー能力が重要になる」

 

   「その走り方をやっていれば」

   「混戦になったとき、動ける状態の者が

    自分だけになっていることにきっと気づくだろう」

   「あとは拾いに、そこに行くだけだ」

   「その時も足を延ばしてはならない」

   「その走り方を正確に」

   「そうすれば先に誰かに足を出されようが」

   「何が起きようが」

   「自分しか動けない状態が続いているだけだ」

   「もう一度拾いに行く」

 

   「気づいたら全員抜いていることだろう」

 

大地「!」

 

もも「やれ!」

 

大地は足を高速で動かし始める

 

ももは大地の5Mほど前にボールを放り投げた

 

大地はボールに向かって走る

 

もも「跳ねてるときファーストタッチは好きなようにしろ」

   「ただ、できるだけ早く元の姿勢に戻れ」

 

大地は、ももの言うドリブルをいろいろ試してみる

   『なるほど、足首を立てているから

    勝手にドリブルのようになるな』

   『わりかし雑でも大丈夫だ』

   『そうだ!』

   『ももはこの位置でドリブルしている』

   『自分のお尻の下だ』

 

   『これがとれねーんだな、また』

   『無理に近づくとかわされる』

 

もも「バックをするときはアウトサイドではたく感じだ』

 

大地「はぁ?」

   

もも「ん?」

   「私がよくやってるだろ?」

 

大地「バック?」

 

もも「お前・・・・」

  「気づいてないのか

  「ボケか!」

 

  「かせ!」

 

大地は指示に従いももにボールをパスする

 

ももはそのボールをダイレクトでバック走ドリブルに持っていく

 

続けて前にドリブルしまた後ろにドリブルする

 

細かく前後する

 

大地「あああ」

   「やってるな」

   「たまに」

 

もも「もう一度バックするぞ見とけ」

 

ももはアウトサイドではたくようにボールをたたきながら

バック走していく

上半身がぶれないとても美しいフォームだ

 

大地「はやっ!」

 

もも「これも、わりかし雑なタッチで大丈夫だ」

そう言いながら大地にボールをパスした

 

大地もバック走を試してみる

わりかし簡単に成功するが

もう一度前に行こうとしたときボールが横にはじかれてしまった

 

大地「わわ、むずかし!」

 

もも「ぼけ!」

  「ボールを追え!」

 

  「平然とした顔でだ!」

  「そして誰よりも早くその場所に到達し」

  「拾えば、それが失敗だったことはお前しか知らないことだ!」

  「成功した顔をしとけ」

  「あほか!」

 

  「ドリブルは失敗の連続だ」

  「しかし最後まで走り続けた」

  「お前の足元に最後」

  「きっとボールはあるだろう」

 

大地「!」

 

もも「前後の切り替えは」

  「ボールの後ろまでしっかり走るだけだ」

  「簡単だ、余計なことするな」

 

  「こんな高速で、難しいことなんかできるか」

  「単純明快だ!」

 

もも「ちょっと休め」

 

大地は、胸を張ったまま呼吸を整えている

 

ももは大地を見ている

 

   「これで全部だ、あとは自分でやれ」

 

   「ただ・・・・」

   「今までの自分にプラスする感じでやれ」

   「マイナスになってしまったら・・・・・」

 

   「・・・・・」

 

大地「・・・・・」

 

もも「私は悲しい」

 

大地「・・・・・・」

 

ももは、石の上に置いたカバンと参考書を手に取り

大地に背を向けながら

 

もも「明日も私はここに参考書を持ってくる」

   「私は、ここが好きだからだ」

 

大地「そうだな」

 

もも「今日は私が晩御飯を作らなきゃならない」

  「あなたはまだ帰るべきではない」

 

大地「・・・・そっか・・・」

   「ありがとう、もも」

 

ももは返事せず、そのままその場を去って行った

 

 

 

 

シーン@ ももがなぜ夕日の海で振り向かないのかという問題

 

学校で休み時間いつものようにたわいもない話をしている声が聞こえてくる

 

雄治「大地大地だいちぃ〜〜〜〜!」

   「べたべたべたべた」そう言いながら大地をべたべた触る

   「大地大地大地ぃ〜〜〜〜!」

   「大地大好き」

 

   「雄治嫌い!しね」

浩太「はははははは」

 

大地「なんだよそれ」

 

雄治「大地大地だいちぃ〜〜〜〜」

   「う〜〜〜〜〜っ」雄治が大地にキスを迫る

 

大地「やめろキモすぎる」

 

そこにももがやってきて

もも「何の遊びなの?」

  「マジキモイんだけど」

 

浩太「明子ちゃんの真似なんだって」

 

雄治「あ」

雄治は少し慌てている

 

もも「ほぅ!明子だと?」

   「雄治面白い、もう一度やってみろ」

 

雄治「いや・・・、あの5歳の子の話だから」

 

もも「そんなこと関係あるかいっ!」

 

   「さぁ、やれ!」

   「さっきと同じテンションでやれ!」

   「いったん落着き」

   「呼吸を整え」

   「できるだけ正確に再現しろ」

 

雄治「は・・・はい」

雄治は深呼吸をした後、覚悟を決めて始める

雄治「大地大地大地ぃ〜〜〜〜〜〜!」

   「べたべたべたべた」大地を触りまくる

 

ももは雄治を睨みつけている

 

雄治はそれに気付きながらも、しかたなく続ける

 

雄治「大地大地大地ぃ〜〜〜」

   「大地大好きぃ〜〜〜〜〜!」

   「う〜〜〜〜〜〜〜っ」大地にキスを迫る

 

もも「さぁ!大地どうする!」

 

大地「はぁ?明子こんなことしないし」

   「俺の膝の上で寝てるだけだよ」

 

浩太「胸に抱かれてだろ?」

 

もも「この・・・・・・」

  「ロリコン野郎ども・・・・」

そう言いながら大地の方に近づき

 

もも「3べん死んどけっ!」

そう言いながら大地のすねを蹴り自分の席の方へ歩いて行った

 

大地「いって!」

 

浩太「??????」

   「ももちゃ、何怒ってんの?」

大地「大方、寝起きが悪かったんだろう」

   「とんだ、とばっちりだ」

 

雄治「お・・・おまえら・・・」

   「どんだけ鈍感」と苦笑いしている

 

そこに良子がやってきて「せんぱぁ〜い」

 

雄治「あ・・・なんか・・・今はまずい」

 

良子は元気に両手を広げながら

   「みんなのアイドル良子です!」

といい、みんなの前に立つ

 

雄治「ひくわー」

浩太「はははは」

 

良子「大地先輩、BR早く返してください」

   「もう、見てくれたんでしょ?」

   「良子セレクション」

 

ももはこちらの方を振り返りながら雄治を睨みつけている

 

雄治「なんで俺が睨まれてんの???」

 

良子「まだまだありますから」

   「新しいのと交換しましょうか?」

   「良子セレクション・パ〜〜〜〜〜ト2〜〜〜」

 

大地「あ、ブルーレイは家で見れないからもういいや」

   「雄治んち大変だから」

 

雄治「いや、別にいいぜ明子喜ぶし」

そういうとももの机の方から何かかひっくり返る大きな音がする

雄治がそちらを見るとももが机をひっくり返し雄治を

鬼のような顔で見ている

 

雄治は焦りながら「ああ、でもそうだな」

   「良子、DVDはないの?」

 

良子「ありますよ」

 

大地・雄治「なんだとぅ!」

そう言いながら良子を睨みつける

 

良子「ひぃ!」

   「ブルーレイの方が、ほら」

   「きれいかなーとか、」

   「きょうびブルーレイくらい持っとけよ」

   「しみったれてんじゃねーよ」

   「とか・・・ははは」

 

大地・雄治「すぐもってこい!」

 

良子「はい〜〜〜〜〜!」

そう言いながら駆け出し

 

   「みんなのアイドル良子でした〜〜〜〜!」

と捨て台詞をはいて行った

 

ももは雄治を手招きしている

 

雄治「はい?」

しぶしぶ雄治はももの方に歩いていく

 

ももはプリントを丸めた棒を持ち

 

もも「良子セレクションってなんじゃい!」と言いながら雄治の頭をたたく

   「良子セレクション・パート2ってなんじゃい!」と言いながらさらに雄治の頭をたたく

 

雄治「ねぇ、桃子さん。それは大地に言ってくださいな」

 

もも「明子って、誰じゃい!」そう言いながらさらに雄治の頭をたたく

  「胸に抱かれて眠るってなんじゃい!」バシバシ雄治の頭をたたく

 

雄治「はい、ほんま、さーせん」

   「ひっくり返った机、お直しいたしますね桃子さん」

 

もも「はよせんかい、ボケが!」

   「ところで、マジで明子って誰じゃい!」

 

雄治は机を起こしながら「へ?そんなに気になる?」

ももは雄治を睨み付けている

 

雄治「あの5歳児だよ」

 

ももは素早く雄治の掌をつかみ雄治の薬指を逆さの方向に折る

 

雄治「ぎゃぁあああああああ!」

 

もも「もっと痛い関節技を私は知っているぞ」

 

雄治「はいはいはいはい」

   「合気道の達人様ですもんねぇ〜」

   「むやみに使うのやめましょうねぇ〜〜」

 

ももは、さらに力を加える

 

雄治「折れる折れる折れる!」

 

もも「折れない、抜けるかもしれないが」

   「折れはしない」

 

   「抜ければ、させばいいだけだ」

 

雄治「いやいやいやいや」

   「駄目駄目ダメダメ」

 

もも「つまらないことは言わず」

  「質問にだけに答えた方が良い」

 

  「明子とは誰だ!」

 

雄治「俺の姪っ子」

    「ギブギブギブ」

   「俺の姪っ子だよ」

   「姉貴の娘」

 

もも「この答えは重要な意味を持っている」

  「本当だな」

 

雄治「いてててててて」

   「本当本当」

 

ももは手を離し「そうか」

  「ならば・・・」そう言いながら立ち上がり

 

  「引き合わせたのはお前と言うことになる!」

と言い雄治の足の親指の付け根を思いっきり踏みつけた

 

雄治は声にならないような声をだし

   「は・・ぅぅっ!!!!」

 

そのあと、のた打ち回っている

 

雄治「おまえ!5歳児に嫉妬してんじゃねーよ」

もも「はぁあああ!???」

   「よく聞こえなかったな、雄治!」

   「聞き間違いだよな雄治!」

   「すごい妄想力だな!」

   「脳が暴走してんなぁあああ、雄治ぃいいいいいい」

雄治「はぃぃいい!」

   「ほんま、さーせん!」

その迫力に雄治は完全にビビっているようだ

 

 

夕方になり部活のメニューをすべて終えると

大地は、制服に着替え帰路につくようだ

 

雄治「今日も帰えんのかー?」

大地「ああ、悪いな」

雄治「いや、その方がももの機嫌が良い」

大地「はぁ?」

雄治「あいつの機嫌はお前次第だ」  

    「めっちゃ迷惑だから!」

    「あ」

    「今言ったことももに言っちゃだめよ」

    「俺死んじゃうから」

 

大地「はぁ?」

 

浩太「ところで、どこで練習してんの?」

 

大地「ああ、いつもの海辺」

 

浩太「いつもの?」

 

雄治「ああ、浩太はあんまり来たことないな」

   「小学校の頃、よく浜でサッカーしてたんだ」

   「俺ら近いからな」

 

浩太「ああ・・・何回か行ったことあるよ」

 

雄治「そうだ・・・・」

   「思い出した」

   「浩太が来た時だ」

 

浩太・大地「ん?」

 

雄治「なぁー、浩太ー」

 

浩太「へ?」

 

雄治「へへへへ」

   「大地」

大地「ん?」

 

雄治「お前が海に行ったとき」

   「ももは先に来ている」

 

大地「ああ」

 

雄治「ももは、ずっと海を見ている」

 

大地「ああ」

 

雄治「声をかけても、振り向かない」

 

大地「・・・・・」

   「そういえばそうだな」

 

雄治「そっかー、今でもか〜」

   「あんなに図太いくせに」

   「これでももの弱みを1つ思い出したぜー」

 

大地「ん???、なんか理由あんの」

 

浩太「え???」

   「今でもなの?」

 

雄治「くくくっ、強請れる」

 

大地「ん?なんだ?」

 

浩太「ヒントは夕日だよ」

   「夕日の色」

 

雄治「ぼけ!いらんこと言うな」

   「俺らから漏れたの丸わかりじゃねーか」

 

   「正面からのぞいたの俺たちだけなんだから」

   「そのあとフルボッコに・・・」

   「あれ?」

   「何か、あの時俺だけボコボコにされてなかった?」

 

浩太「雄治がからかうからだよ」

   「僕は何も言ってないもん」

 

雄治「せこっ!」

 

   

 

シーン@すべてを教える決意をするシーン

 

大地は部活を終えるとすぐに海に行き

ももが、勉強をしている傍で

あのステップの練習を繰り返している

ももは、勉強の息抜きに時折、11のボールの取り合いをしてくれている

暗くなると、二人で肩を並べ寝転び少しだけ星を見て休憩し

一緒に家まで帰っていく

大地は家に帰り食事やお風呂を済ますと

良子に借りたDVDを観て、いろいろなシーンを想像しながら

イメージトレーニングし

床に就いてからもイメージトレーニングを続けながら

そのまま眠ると言う生活を送っていた

 

そして、昨晩行ったイメージトレーニング通り動けるかなどを

部活の実践の中で試し、できたこと、できなかったことをしっかり分け

できなかったことを宿題として浜辺へ行き

それに対する練習を行う

 

そんな日々が、1週間ほど続いたある日

大地は、DVDを見ながらのイメージトレーニングの中で

新しい局面を迎えていた

 

大地『フィールドを広く遠くから写した映像』

   『その中の自分と同じポジションの人間の場所に自分を置く』

   『ふぅ・・・・』

 

   『俺が中に立っている』

   『前にはボランチが二人』

   『ボールが後ろから来る』

   『パスをくれたサイドハーフが駆け上がる』

   『敵のフォワードが俺の背中に迫ってきている』

 

   『ふぅ・・・・・』

 

   『はずれた!』

ビデオの中の大地のポジションの男は大地と違う方向に走っていく

 

   『あいつはダメだ』

   『そっちは不正解だ』

 

   『取られる』

 

   『ふぅ・・・』

 

   『まぁいい・・・そっちに行ってみよう』

 

   『くっ!』

 

   『言わんこっちゃない、挟まれた』

   『しかも、上がってくれたサイドハーフが効果をなさない』

   『おとりとしてもだ』

 

   『!!!』

   『また外れた!』

ビデオの中の男と大地が外れる

 

   『!!』

   『よし!』

   『抜ける!』

 

   『高速でムーンステップ』

   『バック走3歩 前進』

 

   『くっ!』

   『足を引っ掛けられた、崩れる!』

 

   『まだまだ!!!』

イメージの中の大地は一旦崩されかけるが

膝をつきながらも足を動かしそのまま走る

 

   『抜いた!』

 

しかし、完全に元の姿勢に戻る前に

横から突進してきたボランチに弾き飛ばされ

 

ボールを失った

 

   『くそ!』

 

その弾き飛ばしたボランチは上から大地を見ている

 

鈴木弟『大丈夫か?』

 

大地は下から鈴木弟を見ている

   『くっそう!』

 

   『ももちゃなら・・・どうしていた?』

   『最初の間違った選択自体が問題か?』

 

   『いや・・・・・』

 

   『手か・・・・・』

   『手をうまく使っているな

   『あれは触角のようなもの?』

   『猫の髭か・・・・』

   『猫は髭がふれなければそこを通り抜けられることを知る』

 

   『ももの動き方』

   『金魚の動き』

   『丸い金魚鉢の中の金魚』

   『金魚鉢をコツンとたたく』

   『金魚はくるりとまわり元の場所に戻る』

   『コン コン』

   『クルリ クルリ』

 

   『金魚鉢の中の金魚』

   『猫の髭』

 

   

部活の中での練習中

最近の大地の動きはキレを増していた

高速でステップを踏み敵を翻弄しながら

廻りを見ている

大地「拓真!」

   「早く!」

拓真は指示を受けサイドを駆け上がるが

サイドバックとボランチにコースを限定されてしまっている

 

大地はコースを限定しに来ているボランチを自らドリブルでかわし

 

大地「拓真、内側!」

拓真「はい!」

拓真はそう言いながら内側に大地と入れ替わるように

切り込んでいく

 

大地「くっ!遅い!」

 

大地と拓真のパス交換コースは一瞬で消され

大地は仕方なく上がってきているサイドバックにボールを下げ

もう一度中に入っていく

 

サイドバックはそのままボールを持ち駆け上がり

単純にセンタリングを上げたが

GKにキャッチされてしまった

 

大地は拓真に声をかける

 

大地「拓真、もうちょっと早くな」

   「自分の思った方向で良いから」 

   「自信を持って走ってくれ」

 

拓真は少ししょんぼりした顔をしながら「はい・・・すいません」と答える

 

大地「あ・・・・」

大地はイメージトレーニングの中で最速最強の架空の敵と11人と勝負しているため

現実とのずれがかなり起きているようだ

 

大地「拓真・・・ごめん」

   「俺もできないから・・」

   「気にすんなよ」

大地は拓真の頭を優しくポンポンっとたたき

笑顔を作って見せた

 

拓真は元気を取り戻し「はい」と笑顔で答えてくれた

 

雄治「なんか・・・体の切れがスゲーな」

浩太「うん・・・・正直僕も驚いているんだ」

雄治「何を教わったら、ああなるの?」

浩太「ももちゃに聞けば?」

   「土下座して」

雄治「死んでも嫌」

   「てか、土下座した頭踏まれそう」

浩太「はははは」

   

 

 浜辺では、ももは髪をなびかせながら参考書を読み

時折ノートに何かを書き込んでいる

ももが、大地の方を見ると何やら手の使い方を

いろいろと確認しているようだ

ももは、それをずっと見ている

もも「ふぅ〜ん」

 

しばらくして、その練習が終わると、また高速でステップを踏む練習をし

10分ほどそれを続けた後、また手の練習をする

 

もも「・・・・・・・・」

 

またその手の練習を一通り終えると

次は、上半身を起こしたままどんどん足を折っていき

ちょうどパントマイムで階段を下りていき、また上るパフォーマンスのようなことをしている

 

もも「ほう・・・・」

 

その階段アクションをどんどん早くしていく

 

その苦痛に大地の顔がゆがむ

 

もも「眉をしかめるな」

  「男前が台無しだ」と笑う

 

大地は顔を元に戻し平然とした顔で

階段アクションを繰り返す

 

もも「・・・・・・・・」

 

   「ちょっと、休憩したら?」

 

大地「駄目だ!時間を計っている」

 

もも「そう」

 

大地は5分ほどそれを続けた後、ももの方に歩いてきて石の上に座った

 

大地「ふぅー」

大地は目を瞑っている

 

もも「あんまりつめない方が良いよ」

   「体を壊したら振出しに戻ってしまう」

 

大地「ああ・・・だから今からイメージの方に入る」

 

もも「ふぅーん」

   「イメージの時も目を開けた方が良い」

 

大地「ああ」

   「部活の時はそうしてる」

   「ただ、すんげー疲れるから」

   「今は休憩がてら目を瞑ってやる」

 

もも「ふぅーん」

  「部活中もイメージしてるの?」

 

大地「ははっ」

   「しらばっくれんな」

   「お前もやってるはずだ」

 

もも「そう?」

 

大地「最初は目を開けたまま、後ろの映像をイメージし

    オーバーラップさせると気が散ってしょうがなかったんだけど」

    「今では後ろの動きをイメージしてないと逆に落ち着かなくなった」

 

もも「視認している前の敵と間接視野での味方」

   「あと、音と気配から来るイメージの中の後ろ」

   「それだけ?」

 

大地「ん〜〜!それだけ」

 

もも「じゃあ、もう一つ上から見た誰か一番気になる人の足元のイメージ」

 

   「それは自分の場合もあるし」

   「後ろからきている敵の足の場合もある」

   「一番気になる人の足の動きよ」

 

大地「え〜〜〜〜!」

   「そんなにいっぱい〜??」

 

もも「なれれば、勝手に映像が出るようになるわ」

  

大地「そっか・・・・まぁ、やってみるわ」

 

   「どうしても抜けない奴らがいる」

   「そいつらの足をイメージに足して今晩やってみるわ」

 

もも「イメージの中で何試合くらいやった?」

大地「分からない・・・100?」

   「100は余裕で越えてるな」

   「もちろん時間は90分とかじゃないけどな」

 

もも「そうか、そんなにやったか」

 

大地「敵は全員俺より背が高くて

   俺より速い」

   「しかも疲れなんて知りやしない」

   「俺の中のイメージの敵だ」

   「俺が一番いかれたくないとこにポジションをとってくる」

 

もも「そっか・・・自分に厳しいのね」

 

大地「どうしても抜ききれない双子のボランチ」

 

もも「へ?」

   「そんなキャラ設定までしてんの?」

大地「ははは」

   「いや、この間、東條大付属行っただろ?」

   「そこのボランチだ」

 

   「特に弟の方がうっとしかった」

   「何べんも吹き飛ばされた」

 

   「そして、倒れてる俺のところに来て」

   「上から俺を見ている」

 

もも「・・・・・・」

 

大地「それで「大丈夫か?」っていうんだ」

 

もも「・・・・・・」

 

大地「多分本人は本気で心配してくれてるんだと思うんだけど」

   「俺はあったまにきてた!」

 

もも「・・・・・・」

 

大地「何度も俺を上から見ていた」

 

もも「そう」

 

大地はまた鈴木弟のことを思い出してしまい

手を使うイメージを膨らませながら

手をいろいろ動かして確認している

 

もも「手じゃないの」

 

大地「え?」

 

もも「肘よ」

 

大地は少し考え

肘から下を伸ばしたり曲げたりしている

脇を開いて肘を張り

脇をたたんでみたりもしている

 

大地「ああ・・・なるほどな・・・」

 

   「そうか・・・肘」

   「力じゃなくて骨でつっぱる」

   「肘より手のひら側に当たられた場合」

 

   「肘から下を折る」

   「そして、回転しながら肘で敵をいなす」

 

   「肘より肩側に当たられた場合」

   「回転して背中に入れる」

 

   「肘そのものに当たられた場合」

   「骨で突っ張りステップでかわす」

   「それも不可能なほどの勢いの場合」

   「脇を閉じ肘をしまう」

   「1歩分の敵の動きを吸収」

   「勢いがある場合」

   「敵は次のステップに移るのに時間がかかる」

  

   「あとは高速ステップでかわすだけ」

 

   「・・・・これがマグナム・ヴォルテックス」

 

   「金魚鉢の中の金魚」

   「猫の髭」

 

そう言い立ち上がりまた高速ステップをしながら

いろんな方向へのドリブルを肘を張りながら開始する

 

2ステップでの高速ターン左回り右回り(360度)

1ステップでの180度ターン 左足フック 右足フック

1ステップでの270度ターン 左右フック

クライフターン 左足 右足(180度)

 

10ステップでのなめらかなターン 左回り右回り(360度)

ムーンステップターン 左回り 右回り(360度)

 

小刻みな前後ステッブ

小刻みな左右ステップ

 

前進・後進左右アウトサイド ドリブル 完全なファーフット用

 

インサイド・アウトサイドを交互に使う高速前進フェイントドリブル左右

 

 

 

ももはその姿をずっと見ている

しばらく大地を観察しももは立ち上がりこう言った

 

もも「いいぞ!大地」

   「創造者にして体現者」

   「私も吾郎も」

   「創造者にして体現者」

 

   「大地!あなたもだ!」

 

   「わかるぞ!」

   「なぜあなたが今そんな練習をしているのか」

   「パントマイムの階段」

   「肘の前後の折り方」

   「高速なムーンステップ」

   「私にはわかる」

 

   「あなたは準備が整っている」

   「子供のころやった鬼ごっご」

   「ボールを取り合い、ころがりまわっては立ち上がっていたこと」

   「高速で動くその足」

   「毎日毎日敵に囲まれ続けたこと」

 

   「大変なことになる!」

 

   「あなたはそれができるようになるからだ!」

 

大地はももの顔を真剣な顔で見ている

 

もも「お前の目は節穴か!」

 

大地「へ?」

 

   「・・・・・・」

   「結局それは?」

   「なんなの?」

 

もも「さぁ?なんだろうねぇ〜」

 

大地「・・・・・・」

 

もも「この問いの答えを見つけたら」

  「私の持てる技術すべてを教えよう」

 

大地「そっか・・・・」

   「なんだろうねぇ〜」

 

大地・もも「なんだろうねぇ〜」

大地・もも「なんだろうねぇぇええええ」

      

      「あははははははは」

 

シーン@ お前の目は節穴か!の答え

 

 明子がどうしても大地に会いたいと駄々をこねているようなので

修斗も喜ばすために、また別の吾郎のブルーレイを借りて

大地は雄治の家に来ていた

 

明子はまた大地の膝の上に乗り大地に頭を撫でられながら

大地の胸の中ですやすや眠っている

 

雄治「浩太がな吾郎を止める方法はないってさ・・・」

   「見ても無駄じゃね?」

 

修斗「当たり前だ!」

   「雄治ごときに止められるか」

   「雄治格好わりー」

 

大地「うん・・・・」

大地は気のない返事をしながらビデオをずっと見ている

 

   『吾郎』

   『吾郎の試合を見た』

   『お前の目は節穴か!』

 

   『ふぅ〜ん』

 

   『答えはたくさんある』

   『たとえば、この吾郎のステップだ』

   『移動速度は速いんだろうが』

   『ステップの速度は俺やももの半分以下だ』

   『それが一つ目の答え』

 

   『もう一つ』

   『技術云々じゃない』

   『こいつはあり得ないほど自信を持ってプレーをしている』

   『それが迫力となり』

   『より一層効果を増す』

   『オーラみたいなものだ』

   『それが俺にはない』

 

   『もっと答えはある』

 

大地「まぁ、吾郎を止める方法はあるな」

   「可能かは別として」

 

雄治「おおおおお、まじか!」

   「教えろ」

 

大地「こっちがずっと攻撃をしていればいい」

   「それだけだ」

 

雄治「あ・・・」

   「あの・・・・・・」

 

大地『これもまた答え』

   『しかし、本当の大正解は違う』

   『大正解はそれをすべてひっくるめた

    1つしかない答え』

 

   『そうか・・・・ももはそう言うやつだ』

 

   『偏屈人間だねぇ〜〜』

   『ももちゃ〜〜〜』

 

   『・・・・・・』

 

   『そうだ・・・そういうことか』

   『さらにその大正解から一歩踏み込むと』

 

   『あらあら、そういうこと・・・』

 

   『最初っからそういうことだったのか』

 

   『ふふふふふふ』

 

雄治はニヤニヤしている大地を見て

   「おい!大地」

   「今なんか笑ってなかったか?」

 

大地「あ?」

   「笑ってたよ」

 

雄治「ど・・・どの辺が面白かった?」

   「き・・きもいぞ!」

 

   「何か取りついたのか???」

 

大地「はははは」

   「そうだな」

   「何か取りついたかもな」

   「ははははは」

 

雄治「こわいこわい」

   「大地こわい!」

 

次の日の夕方、ももは夕日を浴びながら

海の方を向き参考書を片手に勉強をしている

 

海は茜色に染まりキラキラ輝いている

風と波の音だけが聞こえる

 

そこに砂浜を踏みしめるギュギュッと言う

大地の足音が聞こえてくる

 

ももは、少しだけピクリと動き大地が来たことに気付いたようだ

 

大地「ももー」

 

ももはずっと海の方を見ている

 

大地「ももちゃー」

 

ももは振り向かない

 

大地『ん〜、そういや、いつも振り向かないな』

 

    『雄治が言ってた』

    『ももは、なぜ夕日の海で振り向かないのか?』

 

    『・・・・・・』

 

    『なんじゃ?この問題』

    『はは』

 

大地「もも〜」

   「なんだろうねぇ〜」

   「わかったぞー」

   「俺てんさーい」

 

もも「そう」

 

そう返事しながら立ち上がり上着を脱ぎながら

もも「ボールを出して」と言うが

 

ももはまだこちらを向かない

 

大地「なんだろうねぇ〜」

   「別のなんだろうねぇ〜だな」

   「ははは」

そう笑いながらカバンをその場におろし

ボールを取り出した

 

大地はボールを宙に放り投げ

 

大地「さぁ、とってみろ!」と言い放った

 

ももは初めて振り返り

  「インター」と叫びながら大地に迫ってくる

   「セプトーーーーー!」

 

大地は上手にももをかわす

 

大地「へいへい」

   「おじょうさーん」

   「どこいってるんですかー?」

 

もも「むっきーーーーー!」

 

ももの激しいチャージ続く

 

大地「おほほ!!」

   「やっぱ、はえーなお前」

そう言いながらもうまくかわし

 

大地「俺の次に」と付け加えた

 

ももは「むきーーーー!」とわめきながら

後ろからスライディングをかまし

大地からボールを奪い取った

 

大地「こらーーー!」

   「後ろからはファールだろ!」

もも「審判がいないのにファールもくそもあるか!」

   「寝ぼけんな!」

 

大地「せこっ!」

 

今度はももが大地のチャージをするするかわしていく

 

もも「へへーん」

  「だんなさん」

   「どこ走ってるんですかー?」

 

大地「くっそ!」

   「うりゃーーーー!」

 

もも「後ろからスライディングとか野蛮」

と言いながら軽くジャンプをしてそのスライディングをかわした

 

大地「お前が言うな!」

 

もも「で、答えは?」

 

大地「ん?」

   「うりゃーーーー!」

 

もも「ほい」

ももはスライディングをはた軽々とジャンプしてかわす

 

大地「答えは」

   「状態だ!」

 

もも「へ?」

 

大地「うりゃ」

大地はももの着地する足を狙ってひっかけた

 

もも「わー」

ももはその場に転んでしまった

 

もも「100%反則」

  「超悪質」

   「一発レッド退場ーーーー!」

 

大地はボールを拾いながら

 

   「あっそ!」

   「俺審判が笛吹くまでとりあえず

    続行するタイプだから」

 

もも「おまえなー!」

 

大地「今のこの状態それが答え」

 

もも「いや、ちょっと答え通り越してんじゃん」

 

大地「そう」

   「面倒だから通り越した」

 

もも「省略するな」

 

大地「答えを強いて言葉で言うなら」

   「「考えろ」だ!」

 

もも「・・・・・・」

 

   「ふーん」

 

大地「俺は吾郎のビデオを見てたくさんの答えを

    導き出した」

 

もも「うりゃうりゃ!」

ももは大地の足をコツコツ蹴っている

 

大地「考えたからだ」

 

   「「お前の目は節穴か!」には大きな意味はなく」

   「きっかけに過ぎない」

   「考えさすための」

 

もも「考えすぎじゃない?」

 

大地「そうだな」

 

    「そして、その答えに俺が気付いた時」

   「創造者として完成した状態になる」

   「つまり」

 

   「全部教えた」

 

もも「そう・・・・」

 

大地「あとは体現者になるだけだ」

 

もも「そう・・・・」

 

ももは大地へのチャージをやめ

海の方に向かってゆっくり歩き始めた

 

ももは大地に背中を向けたまま

  「体現者になることはとても大変なことだ」

  「創造者には楽しんでいるだけでもなれるかもしれない」

 

  「だが体現者は違う」

 

  「とても苦しい」

  「厳しい」

 

  「最高まで高めた自分と戦い」

  「常に勝たなければならないからだ!」

 

  「引き分けでも駄目だ!」

  「もう終わりが近づいてきているサインだ」

 

   「明日から私も少しなまってしまったイメージを

    高めてからここに来よう」

 

   「激しい戦いになる」

 

   「私は負けるのが嫌いだ」

   「あなたには強くなってほしいと本当に思うが」

   「それとこれとは全く別の話だ」

 

大地「そうだな・・・・」

 

   「もも、お前はそれほど自分に厳しく激しい」

   「最近までそのことに気付いてなかった

 

   「俺はバカだ」

 

もも「この問いを解いたものにバカなどいない」

   「今日、私はもう帰る」

   「イメージを高めるのに少々時間が必要だ」

 

   「しかし、あなたはまだ帰るべきではない」

   「パントマイムの階段」

   「肘の折り方」

 

   「昨日の自分を越えなければならない」

 

大地「そうだな」

 

ももはそう言い大地の方は一度も見ず

荷物を片付け家に向かって帰って行った

 

 

次の日から毎日毎日

激しいわめき声がこの静かなはずの海岸に響き渡る

 

毎日毎日、繰り広げられる激しい戦い

夕日を背にした美しい二人のシルエット

 

とても広い美しい砂浜

道行く車の音も聞こえやしない

 

波の音・風の音

 

そして二人のわめき声

 

毎日毎日

 

もも「うりゃあああああああ!」

大地「くっそ!いてーし」

もも「うっせーぼけー!」

  「ぐはっ!」

大地「ははは、自分で当たってやんの!」

 

もも「肘とか!てーめー!」

  「鼻へしおってやろうか!」

 

大地「俺肘あげてただけだから」

   「おめーが、勝手に当たったんだろうが!」

 

もも「くっそー!」

   「むききききーーーーーーー!!!」

 

そんな戦いが何日も何日も続いたある日

 

あたりが暗くなりはじめ

二人はくたくたになり浜辺に転がっている

 

もも「はぁはぁ」

大地「俺の勝ち越しじゃね?」

 

もも「はぁ?」

   「お前足し算できないのか?」

   「最後のあれ」

   「あんなに大きく蹴りだして走って取るとか」

   「あれ、ライン割ってるから」

 

大地「ラインなんかねーだろ!」

 

もも「ボケ!」

   「サッカーの練習だろうが!」

   「あんなに横にスペースが空いてるとかありえんだろ!」

 

大地「あり得るし」

 

もも「ないないない」

  「そんなチーム超弱い!」

  「問題外」

  「前提として不採用」

 

  「だから私の勝ちだ」

 

大地「ももちゃ、せこっ!」

 

もも「せこくないから!」

   「お前の前提が甘すぎるんだよ!」

   「たまころがしごっこの猛特訓してんのか?」

 

大地「ぶっ!」

   「なんじゃそら」

 

もも「はぁはぁ・・・」

 

大地「ふふふ」

   「ははははははっははは」

もも「笑うな!」

 

大地「たまころがしごっこってどんな競技だよ」

   「はははははははは」

 

もも「ぷっ!」

   「ははははははっはは」

 

大地・もも「ははははははははははははは」

 

大地とももはなんだか子供のころ

いつもこんなことを言い合っていたことを思い出していた

昔サッカーが本当に楽しくて仕方なかったことを思い出していた

 

大地「もも、今日は特に面白かったぜ!」

もも「そう?」

   「そっか・・・・・」

   「じゃあ、私が負けたのかもしれない」

 

大地「え?」

 

もも「今日あなたは入っていたんだわ」

 

大地「は?」

   「なにに?」

 

もも「さぁ?なんだろうねぇ〜?」

 

大地「またかよ」

 

もも「知らない方が良いこともあるサー」

  「やんくるないさー」

大地「なにそれ!」

   「滑り倒してますやん、ももちゃ」

 

大地・もも「ははははははははは」」

  

 もも『入ったかー』

   『ゾーンに・・・・』

   『なら、私の存在が役に立ったことになる』

 

 

   『よかった・・・・』

 

ももは笑い終わると

   「私は勉強で忙しい」

   「あなたもそろそろチームともっと一緒にいた方が良い」

 

大地「・・・・・」

   「そうか・・・・」

   「もも・・・勉強とか珍しいな」

 

もも「あなたはいい、サッカー推薦で東條大に行けるんだから」

 

大地「ん・・・まぁ」

 

ももは少し不安になり「変えてないだろうな?」

 

大地「なにを?」

 

もも「東條大に行くんだな?」

 

大地「ああ」

 

もも「変えることがあるようなら

   ちゃんと言えよ」

 

大地「え?」

   「ああ」

 

もも「私も東條大に行くために勉強をしている」

 

大地「え?きつくね?」

 

もも「近いからめちゃくちゃ東條大に行きたい」

   「何せか近いからな」

 

   「あと言っとくが、私はそこそこやればできる子だ」

 

大地「ああ、まぁな」

   「・・・・・」

 

   「いっしょに行けるといいな」

 

もも「・・・・そう?」

  「・・・・・・」

   「そうだね」

 

シーン@ チームの戦略

 

大地たちは最後の大会に向けて急ピッチで

チームの状態を上げていっている

 

大地はイメージの中の仲間の動きと

現実の仲間の動きのスピードのずれを

かなり修正し

味方の出だしの遅れは自分がためを作ることで

フォローできるようになってきていた

それに合わせ早めの大地の判断に

メンバーたちもかなり早いスピードで合わせられるようになってきている

 

その中でも大地は拓真と浩太の判断の速さを買い

この二人をうまく使いながら

この3人で作るトライアングルを回転させ

グイグイ前に進んでいく戦法を確立し始めていた

 

トライアングルがDF付近に近づくと

狭い範囲でこそ威力を発揮する高速ステップで

敵を引きずり

スペースを作り

フリーの選手にシュートを撃たす

 

俊足FW 坂口「いっただきー!」

まこと「させるかーーーー!」

 

坂口のシュートに何とかまことが反応し

ボールをコートの外に出す

 

まこと「雄治ーー!撃たれてんじゃねー」

雄治「ういうい!」

   「ナイスキーパー」

   「あんたが大将!」

 

まこと「ごまかすな!」

 

雄治「だってよー、浩太があっちチームなんだもん!」

   「めっちゃ不利じゃね?」

 

Bチームの2年生ボランチ「すいません・・・」

幸彦(7番:キャプテン・ボランチ)「うっせー、雄治!」

 

雄治「あ、お前らに文句言ってるんじゃないから」

   「あの3人一緒のチームにしたら不公平だろ?」

   「ってこと」

   「気にすんなー」

 

Bチームの2年生ボランチ「はい」

そう返事しているがかなりへこんでいるようだ

 

雄治「大地!」

   「手加減しろっての!」

 

大地「あり得ん!」と笑いながら答える

 

 

 

雄治「くっそー、この高速回転MFトライアングル・・・」

   「どうやったら止められるんだよ!」

幸彦「人につきコースを限定するしかないんじゃね?」

   「キックフォームに入った時が取りどころかな?」

雄治「う〜ん・・・・おぶねーんだよなー」

   「ずるずる下がっちまうから」

 

大地「下手に飛び込むよりはいいんじゃね?」

 

雄治「おまえ〜、本当だろうなぁ〜」

   「騙してないだろうな」

 

大地「まさか」と言いながら笑う

  「まぁ、そうなったら俺ならドリブルでそのままゴールに入るけどな」

 

雄治「ほらー!」

   「やっぱりだまそうとした!」

 

大地「違うし!」

 

浩太「はははは」

 

そんなことを言っているうちに、最後のメニュー

恒例、宿題ジョギングが始まった

 

大地は、最近はいつも先頭を走っている

それを浩太が追いかける

拓真はついて行こうと必死で頑張っている

その後ろにまことが食らいつく

 

雄治「おまえらぁ〜〜〜〜」

   「とばしすぎ〜〜〜〜〜」

   「走ってるだけじゃねーだろーなー」

 

   「宿題やれよ〜〜〜〜〜」

 

浩太「やってるよ〜〜〜」

拓真「もちろんやってます!」

 

大地「はぁっ!はぁっ!」

   『俺は、俺の背番号をみんなに見せなければならない』

   『だから』

 

   『だから、先頭でなきゃ・・・いけないんだ・・・』

 

   「はぁっ!はぁっ!」

 

まこと『くっそ〜〜〜』

    『こいつら本当に問題解いているのか?』

    『はやすぎんだろ!』

 

大地「ハァッ!ハァッ!」

   『後ろの映像が見える』

   『80cm左後ろに浩太がいる』

   『わりかし平全な顔をしていそうだ』

 

   「ハァッ!ハァッ!」

 

   『そのさらに2M後ろに拓真がいる』

   『拓真は歯を食いしばっている』

 

   『まことがそれを追うようにすぐ後ろにいる』

   『しかし、走ることで精いっぱいの様だ』

 

   「ハァッ!ハァッ!」

 

   『まこと』

   『お前のレギュラー争いに、俺は干渉しない』

   『俺も本物の10番になる』

 

   『お前も本物のレギュラーになれ』

 

   『みんな見ている』

 

   『だから・・・走れ!』

 

   『もっと速く』

 

   「ハァッ!ハァッ!ハァッ!っ!」

 

40分間の宿題ジョギングが終わると

大半の者はその場に崩れ落ちる

 

大地は平然とした顔を装いながらそのまま監督のところに行き

OKをもらった。

浩太も続いてOKをもらっている

 

浩太「ハァッ・・・・ハァッ・・・・」

   「ふぅ〜〜〜〜〜」

   「大地・・・最近えらくスタミナが付いたんだね」

 

大地「はぁ・・・・・はぁ・・・・」

   「いや・・・・・、ハッタリだ・・・」

 

浩太「ふふふふ・・・」

   「実は・・・・」

   「僕も・・・・」

 

大地「・・・・・そっか・・・・」

   「おまえ・・・・・ずっと・・・・」

 

浩太「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

大地「おまえ・・・・すごいな・・・・」

 

浩太「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

   「ハッタリもボロが出なければ本当になる」

 

大地「・・・そうだな・・・」

 

キャプテン幸彦「お〜〜〜い、いつまでもへたばってないで」

          「監督にOKもらいに行けー!」

 

浩太「さぁ!雄治立って」

 

   「ほら、拓真もせっかく頑張ったんだから」

   「はやくOKもらわないと」

 

拓真「は・・・はい」

 

雄治「もうちょっと、まって〜」

 

大地『浩太はこうやって、キャプテンも助けてたんだな・・・・』

   『・・・・・・・・』

 

 

大地「ほらーーー!みんな立てーーー!」

   「まことーーー!お前ちゃんとできてんのかー!」

 

まことはその場に転がりながら宿題をやっている

 

大地「おまえなー!」

 

まこと「へへへ、すまん」

   「まだできてねー」

 

大地「桂ー、早く立てー!」

 

まこと「おー!桂、お前はすぐ立て!」

    「俺はもうチョイ寝てる」

 

桂「えーーー!ひどいっすよ!」

 

そんなことを言いながら

幸彦・浩太・大地にせかされみんな監督のOKをもらい練習が終わった

 

大地「さぁ、自主練がんばっかー!」

雄治「え?ももは?

大地「あいつは勉強」

雄治「はぁ?」

 

大地「おーい、浩太・拓真―」

 

雄治「・・・・明日から、もも機嫌悪いとかないだろうな・・・」

大地「あ?」

   「しらね」

大地に呼ばれ浩太と拓真が近寄ってくる

 

浩太「今日は残るんだね」

拓真「しぇんぱい、おかえりなさい」

 

まこと「おーい、誰かーPKの練習するから付き合ってくれー」

雄治「おっしゃー、俺がぼこぼこにしてやる」

   「泣くなよー!」

GK「ははは」

まこと「泣くか、ボケ!」

    「もっとうまいやつも手伝ってー」

雄治「ゴルァ!俺が下手みたいじゃねーか」

 

浩太「PK手伝う?」

大地「ああ、後でな」

  「ちょっと試したいことがあるんだ」

拓真「?」

大地「ブラジル式膝下ライナーパス」

 

浩太「ライナーパス?」

 

大地「そう、これはタブーに近い」

   「監督とかには怒られるかもしれない」

   「だから、自主練で精度を上げたい」

 

拓真「ゴロじゃないってことです?」

 

大地「そう」

   「セオリーでは、正確かつ速いインサイドキックからくる

    ゴロの球が最もパスとしていいだろう」

   「しっかり蹴り、しっかり止める」

 

   「それを徹底的に練習するべきだろうな」

   「特に俺たちみたいな高校生は」

 

浩太「そうだね」

 

大地「だけど俺はブラジルのチームが、ライナーパスを使ってるのを見たんだ」

 

拓真「そうでしたっけ?」

 

大地「ああ、最初雑なパスを出してるなって思ってた」

   「メンバーみんなうまいからちゃんとパス通ってたけど」

   「パス自体は出来が悪いなって・・・」

 

   「でもよく見てたら、わざとやってるんだ」

 

浩太「そうなの?」

 

大地「一個上のカテゴリだ」

   「そう感じた」

 

浩太「ライナーパスの利点は、球が速い」

   「カットされてもパスに換えにくいから

即反撃に移られにくい」

 

    「だけど、マイナス要因の方が多いように思うけど」

 

大地「マイナス要因は?」

 

拓真「コントロールが難しい」

   「トラップが難しい」

   「反応も難しい」

 

大地「そうだな」

   「それは全部、こちら側の技術の問題だけだろ?」

   「うまければ問題ない」

 

   「ブラジルは全員うまいからな」

 

浩太「それを僕たちがやるのは、ちょっと無謀じゃない?」

 

大地「はは」

   「まぁ、やってみよう」

   「ポイントはひざ下の高さだ」

 

   「膝下なら割かしトラップが簡単だ」

 

拓真「簡単ですか???」

 

大地「ああ、簡単だ」

 

浩太「ははは、まぁやってみようか」

 

拓真「はーい」

 

大地は浩太に向けて鋭い膝下ライナーパスを出す

 

浩太「うわっ!」

浩太は何とかトラップするものの1Mほど前にこぼしてしまってる

 

浩太は拓真にライナーパスを出す

 

拓真は走りながら飛びつきアウトサイドで吸収しきれいにトラップする

拓真「うひゃ!」

 

大地は拓真に背中を向け前にボールを要求する

 

大地「こいこい〜〜〜」

 

拓真「あちょ〜〜〜!」

拓真は大地の前方にひざ下ライナーパスを出す

 

大地「うりゃっ!」

大地は走りながら伸ばしてない方の足でアウトサイドでこすり落とすように

ボールに当て綺麗な回転を加えボールを制御する

 

浩太「おおおお、なるほど」

 

    「足を折って膝下の中に入れるんだね?」

 

大地「可能ならその方がはじきにくいな」

 

   「キツイ玉で、はじいてしまいそうだと思ったら」

    「こすって回転をかけた方がいい」

   「わかる?」

 

浩太「OK

   「キツイの頂戴!」

大地「おお、サドだね!」

 

浩太「こうか!」

そういいながら、ボールをこすり落とす

 

大地「おお、いいねー」

拓真「ナイスっす!」

 

浩太「幸彦―!」

そう叫びながら幸彦に向かって膝下ライナーを出す

 

幸彦「ちょ!」

幸彦は大きくボールをはじいてしまう

 

幸彦「なんじゃ???」

   「俺今PK

 

浩太はボールを拾いに行きながら

  「ははは」

   「敵はああいう風になるんだね」

 

拓真「なるほど」

 

大地「おーし、トライアングルで回転しながら

   いっくぜー」

 

拓真「はーい!」

 

そんなことを言いながら、練習を続けている

 

まだまだ、うまくいかないが

3人は手ごたえを感じていた

 

一方PKの練習ではまことが好セーブを連発し

桂を一歩リードしているようだった

 

この日から大地は毎日自主練習に参加し家に帰ると

イメージトレーニングをする

 

そして朝になると、まこと・桂に混じり制服をきたままの朝練

に参加しまこと・桂に対してシュートを放つ

パントマイムの階段パフォーマンスを続けている大地の軸足は

深く沈み込み、ボールの回転がカーブからドライブに変わりつつある

 

やがて、朝練には雄治・浩太・拓真も参加するようになり

毎日毎日、朝から晩までサッカー漬けの日々を送った

 

その姿を監督・コーチは、呆れながらも温かい目で見守っている

 

コーチ「いいんすかね?」

    「うち朝練禁止なんですけど」

監督「サッカーして遊んどるんだろ」

   「青少年たちよ、ははは」

 

コーチ「し・・・・しらこい」

 

大地がフリーキックをける大きな音がする

 

コーチ「あ〜あ〜、近所のお宅から苦情がくるっすよ」

監督「ははは、わしの知るところじゃないな」

   「校長かわいそう」

 

    「ま、威張ってるから、ある意味、ざっま!」

 

コーチ「問題発言」

 

    「うわ、えっぐい」

   「なんか、大地最近変わりましたね」

 

監督「もともとボール扱いは天才肌だからな」

   「独特のボール感覚を持ってる」

   「インサイドキックもおかしな軌道を描く」

 

コーチ「そーっすね」

    「膝下のフリがコンパクトで早いんですよね」

 

監督「それに加え、ひざ下の高速なステップ」
   「へその下に常にキープされた重心からくる高速な切り返し」

 

    「つまり」

   「殿下の宝刀マグナム・ヴォルテックス」

コーチ「なんかフリーキックもやばいことなってますね」

 

監督「俺、今のうちにサインもらっとこうかな」

 

コーチ「・・・・・プライドないんっすか?」

 

監督「ない」

 

コーチ「おおおおお!まこと!止めた」

    「すんげー反射神経」

 

監督「まことにも、もらっとこうかな」

 

コーチ「・・・・・どうぞ」

シーン@ 最後の大会開始

 

 3年生にとっては最後の大会

高校生サッカー選手が夢見る国立へと続く選手権

最後にして最大の大会の県予選が始まろうとしていた

 

第一回戦 

大会ナンバーワンストライカー 泉谷吾郎(9番)を擁する

優勝候補 堂源志高校はシード校のため試合はなく

チームの状態を最高に上げるため急ピッチでコンビネーションの練習などをしている

 

各会場では滞りなく試合が行われ県内の約半数の高校が姿を消していった

 

第2回戦

 

ついに姿を現した優勝候補堂源志高校

対するは高校総体県予選ベスト8 山中高校

 

堂源志高校サッカー部員たちは用意されたテントの中に集まっている

 

FW(背番号11番)田中「な・・・なんか人多くね?」

ボランチ(背番号7番)鬼塚「い・・・異常だな」

センターバック(背番号2番)甲斐「吾郎めあて?」

FWJ田中「俺目当てだろ?」

ボランチF鬼塚「ないない」

センターバックA甲斐「第1回戦からこの人の多さは・・」

           「てか・・・うちの高校から誰も応援来てなくね?」

FWJ田中「かわいい後輩がおるやろが」

センターバックA甲斐「いや、女の子とか女の子とか女の子とか」

 

FWH吾郎「なにー!女の子ー!どこだー!」

 

FWJ田中「いや・・・いねー、ツー話」

 

吾郎はがっかりしながら「なんだとぅ!」と言い

   「俺はもてたいんだー!」と叫んでいる

   「今日も格好いいプレーしてきゃーきゃー言わせてやるぜー!」

 

監督「あ、吾郎。今日はベンチスタートな」

 

吾郎「はぅっ!」

   「ま・・・マジっすか!」

 

監督「マジだ」

コーチ「いろいろ試しながら層を厚くしていきたいからな」

    「後半、同点ならお前を出す」

    「疲れた相手DFにしたら最高に嫌だろうからな」

 

吾郎「なるほど!」

   「秘密兵器ってわけですね!」

   「わかります」

   「一番格好いい役ですよね?」

 

コーチは適当にあしらうように「そうそう、それそれ」

 

吾郎「了解しました!」

   「泉谷吾郎大人しくベンチで座っております!」と敬礼している

 

 

会場となっている高校に詰めかけた観客たち

 

観客たち「吾郎出んのかなー?」

 

      「俺さっき歩いてるの見たし」

 

      「マジかー!」

 

     「意外とチビだったぜ」

 

     「すんげー足してたけどな」

 

     「うわー、俺も見たいー!」

 

     「吾郎!」

 

     「吾郎」

 

     「目の前で見られる!」

 

     「しかも、ただで」

 

     「やっほぅ!」

 

     「吾郎のミドルはワールドクラス!」

 

     「バタフライ・ナイフ!」

 

     「空中マルセイユ・ルーレット!」

 

     「見たい〜〜〜〜〜〜!!!」

 

     「吾郎〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

会場は2回戦とは思えないような盛り上がりを見せている

 

試合開始の時間になり

選手たちが整列し挨拶をした後フィールドに散っていく

 

観客たち「吾郎は?」

 

      「吾郎は9番」

 

      「あ〜〜〜〜!ベンチだ!」

      「でもいる〜〜〜〜!」

      「あそこ〜〜〜!」

      「あそこに座ってる!」

 

      「やったー、生で見たー」

 

      「写真写真!」

 

そんな歓声が起こる異様な雰囲気の中

ホイッスルが鳴り試合が開始される

 

堂源志高校は吾郎があまりにも有名なため忘れられがちだが

全員屈強なメンバーがそろっている

 

まずは中盤のつぶし屋!ボランチ7番鬼塚

 

DMFF鬼塚「うりゃぁあああああああ!」

そうわめきながら敵(山中高校)のサイドハーフが持っているボールを

ファールなしで体当たりし奪い取る

 

そのボールをすかさず、DFの裏の空いたスペースに鋭いスルーパスを出す

 

FWJ田中が、飛び出しそのボールを追う

反転しながら山中高校センターバックも追うが

FWJ田中の方が一足早くボールに追いつきそうだ

 

山中高校のGKがそのボールを押さえようと飛び出す

 

FWJ田中「ほいっ」と言いながらボールをすくい上げジャンプし

GKは飛びこしそのままシュートを放った

 

観客たち「うぉおおおおおおおおお!」

      「はいったーーーーーー!」

 

      「クーーール!!

 

堂源志高校ベンチの方も盛り上がってる

 

      「でかしたーーーーー!」

      「その調子でいけーーーー!」

吾郎「あほーーー!」

   「俺の出番がなくなるだろうが!」

   「もういいぞー!」

   「そこに座っとけーーー!」

 

コーチ「をぃ!」

コーチと監督は苦笑いしている

 

さらに、20分後サイドハーフがセンタリングしたボールを

3列目から上がってきていた鬼塚Fが頭で合わせ追加点を得た

 

観客たち「ダイビングヘッドーーーー!」

      「おおおおおおおおお」

      「あのボールに追いつくって!すごくね???」

 

      「スーパーマンみたいに飛んでなかったか??あいつ」

 

      「飛んでた!」

      「すんげっ!」

 

      「堂源志高校超つえーーーーーーっ!」

 

DMFF鬼塚はガッツポーズをしながら「どんなもんじゃーーー!」とベンチに向かって

白い歯をこぼして見せる

 

吾郎H「鬼塚ーーー死ねー!」

   「空気よめー」

   「そんなんいらんよー!」

 

鬼塚Fは苦笑いしながら「うっせ!」

            「お前もう、そこで寝とけ!」と吾郎に言う

 

山中高校は何度かチャンスを作るもののセンターバックA甲斐に

すべて弾き返されシュートを一本も打てないまま試合は終始、

堂源志高校の攻撃が続き、後半さらに2点追加し

 

堂源志高校 4 - 0 山中高校

 

で、試合を終えた

 

観客たち「あーーー、吾郎出なかったなー」

    

      「いや、それでもすごかった!」

      「超格好良かった」

 

      「俺、堂源志高校のファンになったし」

 

      「俺もー」

 

      「てかさ、県内に堂源志に勝てるとこなんてないだろ!」

 

      「ないない」

そんな声が飛び交い、観客たちが大満足する中2回戦の幕は閉じられた

 

そして次の週、3回戦(準々決勝)会場では2回戦よりも多くの観衆が集まり

異様な雰囲気に包まれた中、堂源志高校はスタメンに吾郎を起用し

敵高校を圧倒していた

 

吾郎「うりゃ!うりゃ!うりゃ!」そうわめきながら3Mドリブルで敵をガンガンかわしていく

 

観客たち「うぅおおおおおおぉぉおぉぉぉぉおおおおおおおお」

 

      「すんげーーーーーー!」

 

吾郎「副長殿ーーーーー!」

   「切り込み隊長!泉谷吾郎!」

   「いっきまぁあああああすぅううう!」

 

田中J「誰だよ」と苦笑いしている

 

そこに鬼塚Fが3列目から飛び出してきてDFの裏のスペースにボールを

要求している

 

鬼塚F「吾郎ーーーーー!」

 

吾郎H「ことわーーーーーる!」

 

鬼塚F「こらーーーー!」

 

吾郎「もしもこの世に神がいるのなら」

   「たった一度でいい」

   「俺の左足を」

   「俺の左足を動かしてくれーーーー」

 

鬼塚F「いや!めっちゃ動いてるから!」

 

吾郎「レフティー・モンスターぁあぁぁぁぁああああああ!!!!」

そう言い左足から強烈なミドルシュートを放った

 

観客たち「でたぁああああああ!!!」

      「レフティーモンスターーー!!!!」

 

      「レフティーじゃないけどなぁああ」

 

DFたちはその迫力に頭を下げてしまっている

 

GKは懸命に体を投げ出して止めにかかるが

触ることすらできず

 

ボールはゴールに突き刺さった

 

吾郎は両手を広げながら観客たちの方に向いて走り、そのあと

 

吾郎H「副長殿!」

     「第一任務完了であります!」

 

     「引き続き任務に邁進する所存であります」と敬礼している

 

田中J「だから、誰だよ」と苦笑いしている

 

試合が再開すると、すぐにつぶし屋である鬼塚Fがボールを奪い取り

攻撃が開始される、いくつかのパスが交わされ

ボールが吾郎にわたる

 

吾郎「うりゃ!うりゃ!うりゃ」

吾郎は3Mドリブルを屈指しガンガン前へボールを進めていく

 

田中J「ワンマンプレイはんたーい」

鬼塚F「はんたーい」

 

吾郎「こいこいこいこい!」

吾郎はDFたちをあおっている

 

たまらずDFの一人がスライディングで吾郎をつぶしにかかる

 

吾郎は喜んだような悲鳴を上げる

   「キターーーーーーーーッ!!」

   「副長殿!吾郎はやるであります!」

 

吾郎は回転しながらインステップでボールをすくい上げ

左足インサイドでボールが飛び出るのを押さえながら

宙を舞う

 

観客たち「でたぁーーーーーーーーー!」

      「空中マルセイユ・ルーレット!」

 

      「あれマルセイユ・ルーレットじゃないけどな!」

      「まぁいいじゃん!」

 

      「かわしたーーーーー!」

 

      「かっけーーーーーー!」

 

田中J「やりたいだけじゃねーか!」と苦笑いしている

 

鬼塚F「普通に飛んでもよけられるし」

 

吾郎H「ぱふぉおまんすぅうううううううう!」

   「えんたぁあてなぁあああああ!」

 

田中J「パフォーマンスだって認めるのかよ!」

 

もう一人のDFが吾郎の前に立ちはだかる

 

吾郎「田中さあん」

田中J「なんだよ!」

 

吾郎「ワン・ツー」

吾郎は田中に軽くヒールでボールを渡しさらに加速する

 

田中は吾郎の前にワン・ツーパスを綺麗に渡す

 

田中J「俺つまんねー」

 

吾郎はDFをすべてかわしGKと1対1になった

 

吾郎「あまねく星の神々よ!」

 

鬼塚F「いや!もう普通に蹴れよ」

 

吾郎「わが意思に従い怒りの鉄槌となれ」

 

   「バタフライ・ナイフぅぅうううううううう!!!」

 

吾郎は右足で強烈な弾丸シュートを放つ

 

GKは反応すらできず、ボールはゴールに突き刺さった

 

観客たち「!!!!!!!!」

 

      「なっ!」

 

 

     「なんじゃ!今の!」

 

    「は・・・はえーーーーーーー!」

 

    「あんなのとれっこねー!」

 

    「バタフライ・ナイフ!」

 

    「ディープインステップであんなにコントロールできるって

     すご過ぎんだろ!」

 

    「すんげぇぇええええええ!」

 

吾郎は手を広げながら観客の方を走り声援を受けている

そのあと

 

吾郎「副長殿!」

   「第2任務完了であります」

 

田中J「もういいよ・・・マジで」

     「ご苦労さん」と呆れている

 

その後田中Jが一点追加し前半が終了

 

後半10分に鬼塚Fがいつものようにサイドからのクロスをダイビングヘッドで

ゴールに押し込み

さらに後半40分に吾郎が「レフティー・モンスター」と叫びながらシュートしない

言葉フェイントでDFを抜き去りGKと1対1になり綺麗にループシュートを決めた

 

吾郎「ハットトリックたっせーい!」

鬼塚「言葉フェイントとか!良心の呵責に耐えられんわ!」

 

吾郎「田中ーーー!やるぞー!」

田中J「あ・・・覚えてたのね・・」

 

吾郎H「あたりめーだ!」

そう言った後、吾郎と田中はフィールドの真ん中に向かい合って立ち

 

吾郎と田中はネイティブっぽい発音で首をかしげながら

吾郎「ミッション・コンプリート」

   「AHAN」(

田中「AHAHAN

と言うなんだかよくわからない小芝居をして見せた

 

鬼塚「・・・・・な・・・・なんなんだ・・それは」

田中「俺・・・・めっちゃ恥ずかしいんだけど

   「忘れてくれ」

 

吾郎は大満足の様子でニコニコしている

 

観衆たち「吾郎!」

 

      「吾郎!」

 

      「天才だろ!」

 

     「ごろ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

3回戦は5-0で堂源志高校の圧勝で幕を閉じ

ベスト4が決定した

 

 

 

シーン@準決勝

 

準決勝

残った4つのチームが一堂に会している

 

Aコート 堂源志高校 対 平川東学園

 

Bコート 遠山高校  対  玉之浦高校

 

Aコート付近は県大会とは思えないほどの人が押しかけてきている

 

堂源志高校テント

 

ボランチF鬼塚「こりゃまたすんげー人だな」

   FWJ田中「緊張するねー」

   CBA甲斐「嘘つけ」と笑っている

  DMFF鬼塚「Bコートになんか悪いね」

   FWJ田中「別に」と笑いながら答える

   CBA甲斐「あっちはどこがやるんだっけ?」

 

   DMFF鬼塚「遠山と玉高だろ」

    FWJ田中「あー、おれ遠山嫌い」

           「守備ガッチガチだから」

           「玉高応援しよー」

    CBA甲斐「同時だから、みれねーし」

 

    FWH吾郎「玉高?」

           「浩太のとこだな」

    DMFF鬼塚「そうそう」

            「あそこは準決突破したことないだろ」

    FWJ田中「総体では準決にも来てないな」

 

    FWH吾郎「そういえば浩太とは闘ったことないな」

 

    DMFF鬼塚「あそこはさー、小学生の時、全国行った奴が

            3人いるんだけど」

            「他の奴がいまいちなんだよな」

            「かわいそうだけど」

 

     FWH吾郎「3人?」

            「浩太だけじゃないの?」

 

     DMFF鬼塚「浩太がそう言ってたぜ」

 

     FWH吾郎は珍しくまじめな顔をしている

 

     FWJ田中「吾郎どうかした?」

 

     DMFF鬼塚「ああ、吾郎は小学校の時浩太のチームに負けて

             全国行けなかったんだ」

 

     FWH吾郎「あのチームにはスゲー奴がいた」

            「10番の奴」

            「あんなにすごいやつはあれ以来2度と会ったことがない」

     FWJ田中「へぇ〜」

 

     DMFF鬼塚「だけどさー笑っちゃうぜ」

             「浩太の話だとその10番の奴全国大会の時、

              かき氷の食べ過ぎで

              おなか壊して、2回戦欠場」

             「んで、その時に負けたんだって」

 

     CBA甲斐「かき氷」

            「緊張感0だな」と笑う

 

     FWH吾郎「3人の中にそいつがいるとしたら・・・・」

 

     DMFF鬼塚「いないんじゃね?」

             「そんなにすごいやつだったんなら

              それなりに知られてるだろ」

 

      FWH吾郎「・・・・・・・」

 

      DMFF鬼塚「どっかJリーグのユースとかにいるんじゃね?」

              「それか、伸びなかったか」

 

      CBA甲斐「小学生の時より周りが戦術的になるからな」

            

      FWH吾郎「へへへ・・・そうか」

             「その中で輝き続けられるのは、やっぱ俺様くらいか」

             

      FWJ田中「はいはい」

 

そう言って笑う吾郎の顔はどことなくひきつっているようだった

 

試合開始の時間が迫り

吾郎はセンターサークルの中でボールを足の下に置き

いつもより緊張した面持ちで深呼吸をしている

 

観衆たち「吾郎ーーーー!」

      「吾郎ーーーーーーー!」

 

観衆たちの期待はいやがおうにも高まる

 

試合開始の笛が鳴る

 

吾郎はFWJ田中に小さくパスをだし相手ゴールに向かって走り出す

 

吾郎「副長殿ーーーー!」

   「今日も切り込み隊長、泉谷吾郎!」

   「任務に邁進する所存でございます!」

 

FWJ田中はボールをいったんDMFF鬼塚に下げ

吾郎とは別のサイドに駆け上がる

 

FWJ田中「だから・・・副長って誰だよ」

 

DMFF鬼塚はパスをいくつか交わしながら

ポジションをどんどんあげていく

 

いくつかのパス交換の後、吾郎にボールが渡る

 

吾郎は3Mドリブルを屈指して駆け上がる

吾郎「副長殿!」

   「今大会も得点王とってもいいですかーーーーー!?」

 

   「いいですよーーーーーーー!」

 

   「あっざーーーーす!」

 

FWJ田中「ワンマンプレイはんたーい」

DMFF鬼塚「同じくはんたーい」

 

        「吾郎!」と言いながらDFの裏に空いたスペースを指さす

 

吾郎「ことわーーーーる!」

 

DMFF鬼塚「てっめーーーーー!いっぺん死んで来いっ!!」

 

吾郎は3Mドリブルでガンガン敵をかわしていく

   「こいこいこいこい!」

 

敵のディフェンスは、ずるずる下がるしかない

 

吾郎「あら?」

   「こないの?」

   「んじゃあ」

 

   「あまねく星の神々よ!」

 

FWJ田中「いやもう、いいから」

       「早く蹴れよ」

 

吾郎はズンズンドリブルで進んでいく

 

吾郎「わが意思に従い怒りの鉄槌となれ!」

 

DFの一人がたまらず吾郎に向かって飛び込んでくる

 

FWH吾郎「バタフライ・ナイフぅぅぅううううううう!」

 

飛びこんだDFの体スレスレのコースでシュートが放たれる

 

次の瞬間ボールはゴールネットに突き刺さっていた

 

観衆「!!!!!!」

   「な!!なんだ!」

 

   「バタフライ・ナイフ!」

 

    「あの距離から決められたらどうにもならんだろ!」

 

    「す・・・・」

 

    「すんげぇぇぇええええええええええ!」

 

    「わーーーーーーーーーー!!!!!」

 

観衆から大歓声が起こっている

 

吾郎は両手で拳銃の形を作り胸の前で空に向かって拳銃を撃っている

パフォーマンスをコミカルな動きでやっている

 

吾郎「ゴルゴルゴルゴルゴル」

   「ゴォォォォォォオオオオオオオオオル!!!!」

 

   「副長殿ーーーーーー!」

 

FWJ田中「だから誰だよ」と呆れている

 

吾郎「切り込み隊長・泉谷吾郎」

   「第一任務完了であります!」

 

FWJ田中「あ・・・あの、ハットトリックはやめてね・・・・」

       「あのパフォーマンス恥ずかしいから・・・・」

 

吾郎「断る!」

 

試合はその後も終始、堂源志高校ペースで進み

DMFF鬼塚が1点追加しさらに前半終了間近、吾郎が追加点を取り

 

堂源志高校 3 − 0 平川東学園

 

で前半を終えた

 

後半もゲームの流れは変わらず

後半25分ついにその時は来た

 

吾郎「ゴルゴルゴルゴルゴル!」

   「ゴォォォォオオオオオオオオルゥゥゥゥウウウウウ!」

 

   「田中ーーーーーー!」

 

FWJ田中「えっ・・・・」

       「やっぱやるの・・・?」

 

吾郎は田中の方に駆け寄り

   「切り込み隊長、泉谷吾郎」

   「ハットトリック達成!」そう言い田中の目の前に立ち

 

ネイティブっぽい発音で首をかしげながら

 

吾郎「ミッション・コンプリート」

   「AHAN

田中「AHAHAN

 

   「・・・・・・死にたい」

 

観衆たち「うぉぉおおおおおおおおお!」

    

      「ハンパネェ〜〜〜〜〜〜〜!」

 

      「強過ぎんだろ!」

 

      「あのボランチの7番の奴もすげーぜ!」

      「敵のボール全部取っちゃうじゃねーか!」

 

      「頑丈なやつだ!」

 

      「吾郎もすごいけど

       吾郎以外もすんげぇぇえええええええ!」

 

FWJ田中「うわー、俺も褒められた?」

       「ねぇ?ねぇ?」

 

FWH吾郎「・・・・・」

 

FWJ田中「どうした?」

DMFF鬼塚「Aコートの観客がえらく減ってるな?」

 

FWJ田中「んまぁ、一方的で試合決まったようなもんだからな」

 

FWH吾郎「ちがう・・・・」

 

Bコートの方から歓声やどよめきが聞こえてくる

 

FWJ田中「あっちも盛り上がってるな

FWH吾郎「・・・・・・」

 

DMFF鬼塚「ういうい、集中集中!」

 

FWJ田中「あいよー」

FWH吾郎「おういえ!」

 

試合が再開されキックオスした平川東学園がボールを進めていく

しかし毎度のことながらDMFF鬼塚の魔の手が伸びる

 

DMFF鬼塚「うりゃぁああああああああ」

 

鬼塚は強引にボールを持った敵の前に体を入れてボールを奪い取る

もちろんNOファールだ

 

鬼塚はパスをかわしながら前に進んでいく

 

いくつかのパスが交わされると吾郎にボールが渡る

 

吾郎「田中ー!ついてこいーーー!」

FWJ田中「おういえ!」

 

吾郎「うらららららららららら」

吾郎はドリブルでガンガン進んでいく

 

   「うらうらうらうらうら」

 

   「こいこいこいこいこい!」

 

ディフェンダーたちは飛びこむこともできず

ずるずる下がるしかない

 

田中は吾郎の斜め後ろ2Mを走っている

 

吾郎はボールを軽く横に転がし

   「はいどうぞ!」と言う

 

そこに田中が飛び込んできて

FWJ田中「ごっつあんです!」と言いながら

弾丸シュートを放つ

 

FWH吾郎「かまわんよ」

       「よかよか」

 

田中の放ったシュートにGKが飛びこむものの

一歩及ばずゴールネットに突き刺さった

 

FWJ田中「また、ごっつあんもらってしまった・・・」

FWH吾郎「これでまた新たな契約が交わされた」

       「またハットトリックの時はよろしく」

 

FWJ田中「はい・・・とほほ」

 

その後も終始、堂源志高校ペースで試合は進み

平川東高校は攻撃らしい攻撃を一度もできないまま

試合は終了した

 

準決勝

 

Aコート 堂源志高校 5 −0 平川東学園

 

Bコート 遠山高校  0 − 3 玉之浦高校

 

 

シーン@ 決勝

 

週を改めて決勝の日がやってきた

試合会場は県内屈指の天然芝の県立競技場

 

会場には県内はおろか隣県から、いや全国から

吾郎の雄姿を一目見ようと大勢の観客が集まっている

 

観客席最前列

 

修斗「やだぁ〜〜、俺恥ずかしい」

明子「うるさい!ここを早くもて!」

明代「はいはい、ママも持つから修斗、持ってあげて」

修斗「俺は吾郎の応援する〜〜〜」

そう言いながらも渋々明子に布の片方を持たされている

 

その大きな布には『だいちLOVE』と大きな文字で書かれている

 

明子「だいちぃいいいいいいいいい!」

修斗「まだ、いないじゃん」

明子「うっさい!」

 

堂源志高校のメンバーたちはグラウンドに出る通路のところから

観客席の方を見ている

 

FWJ田中「おお、今日もスゲーな」

CBA甲斐「なんだありゃ」

       「だいちLOVE

       「って、」

       「もはや、応援ですらないじゃん」

       「告ってるだけじゃねーか」と笑う

 

FWJ田中「吾郎、なにしてんの?」

FWH吾郎「ふふふ、浩太に電話」

       「宣戦布告」

 

DMFF鬼塚「でねーだろ!」と笑う

 

FWH吾郎「でたーーーーー!」

 

浩太『な・・・・なに?吾郎』

吾郎『もう来てるよな』

浩太『ああ、もちろん』

吾郎『手を振ってみてくれ』

浩太『え〜〜〜〜』

   『はずかしいなぁ〜』

 

吾郎『おおおおおお、見えた見えた』

   『おれもわかるかーーーー!』と言いながら手を振っている

 

浩太『はいはい、わかったわかった』

 

吾郎『高校になってからお前と戦うのは初めてだ』

浩太『うん』

吾郎『そして、高校で戦うのは最後だろう』

 

浩太『そうだね』

 

   『ここまできたんだ・・・・僕も負けるわけにはいかない』

 

吾郎『そうか・・・・』

   『ん?お前の横にいる奴、やたらでかいな』

 

浩太『ん?』

   『ああ』

   『吾郎がイノシシ野郎って言ってたやつだよ』

 

吾郎『え?あいつ、玉高なのか?』

 

浩太『そう』

 

吾郎『全国大会に出たもう一人・・・』

   『センターバックのイノシシ野郎』

 

浩太『ははは、そうそう』

 

吾郎『あの・・・10番の奴は・・・』

 

浩太『ん?』

 

吾郎『あ・・いや・・・なんでもない』

 

浩太『あ、ごめん吾郎ミーティングが始まる』

 

吾郎『ああ、じゃあ本気で行くぜ!』

 

浩太『ああ、僕も』

 

そんな会話を交わし電話を切った

 

吾郎「あっちのセンターバックは強烈なやつだ」

   「俺は戦ったことがある」

   「イノシシ野郎」

FWJ田中「ああ、らしいな」

       「玉高は守備が固いらしい」

       「今まで無失点だって」

 

吾郎『10番・・・・・』

    『いや・・・・』

    『関係ねぇー』

    『いつも通り』

    『勝てばいいだけだ・・・』

 

    『試合に勝てば・・・・俺の勝ちだ』

 

観客席には玉高のOB・同級生

地元のスポ少の子供たちが詰めかけてきていて

試合が始まるのを今か今かと待っている

 

武蔵「ははははは」

   「でかしたぞ後輩ども」

   「俺が教えたとおりやりやがって」

玉高サッカー部OB「決勝まで残ったの初めてじゃねーか?」

            「やりおったなー」

武蔵は誇らしげに胸を張り周りを見ている

武蔵「うおっ!グレマゴ!」

 

ももはその声を聴きつけ「誰がグレマゴじゃい!」と言いながら

武蔵の方に走ってきてとび蹴りを食らわす

 

武蔵「はぅ!」

サッカー部OB「おー、ももちゃ」

武蔵「え?しってるの?」

 

もも「みんなのアイドルじゃい!」

 

サッカー部OB「あー、武蔵は自主練来てなかったから知らんのか」

         「自主練に毎日乱入してきてたんだ」

 

武蔵「乱入・・・・恐ろしや・・・・」

 

そんな話をしている中、ももの目に『だいちLOVE』の大弾幕が飛び込んでくる

 

もも「なんじゃ、あれは!?」

そう言いその大弾幕の方に向かってかけて行った

 

武蔵「ふぅ・・・助かった」

サッカー部OB「相変わらず、忙しい子だな」

 

 

明子「だいちだいちだいちぃいいいいいい!」

そう声援を送る明子のもとにももがやってくる

 

もも「こんにちは、明代さん」

明代「ああ、ももちゃん久しぶり」

もも「この子が明子ちゃんですね」

 

明代「ん?そうそう、雄治から聞いてた?」

 

ももは明子の目線になるように少し屈み

もも「明子ちゃん、だいちLOVEは頂けないわ」

   「応援しなくっちゃ」

   「LOVEは関係ないのよ」

明子「ままー、何このおばちゃん」

もも「おばっ!」

   「おばって!」

明代「おねーさん」

   「雄治のお友達よ」

もも「さぁ、そのLOVEってところを折りたたんで隠しましょうね」

 

明子「なんでー?」

 

もも「応援だからね!LOVEとか関係ないから」

 

明子「明子ががんばって書いたから大地に見てもらうー」

   「だいちだいちだいちぃいいいいい!」

 

もも「明子ちゃーん、年上の人の言うことは聞くものよー」

 

明子「ママー、このおばちゃん気持ち悪いー」

 

もも「ゴルァ!誰がおばちゃんじゃい!」

 

明子「ババァ!」

 

もも「きっさまーーーー!」

ももは殴りかかろうとするがさすがに小さな子供なのでそれはできず

歯を食いしばりながら我慢している

 

もも「明代さん・・・この子ちょっとお転婆のようで・・・」

   「私のところに3か月ほど預けていただきましたら」

 

    「シャキィーーーーーーーンとさせてみせますけど」

    「どうでしょう?」

明代「あ・・・・・」

   「遠慮しときます」

もも「そ・・・・そうですか」

   「残念ですね

 

明子「だいちだいちだいちぃいいいい」

 

もも「あ・・・明子ちゃん・・・」

   「そんなに呼んでも無駄よ・・・」

   「私が『大地』って呼んだら私の方しか向かないから」

 

明子「うそつけー、だいちは明子のことが好きなんだもんねー!」

 

もも「いやいやいやいや、絶対違うから!」

  「おねーちゃんのことが好きだから」

 

明子「おねーちゃんってだれ?」

 

もも「私に決まってるでしょ」

 

明子「ぶっ!」

   「ババァ」

 

もも「ゴルァ!大地は俺の嫁じゃ!」

  「分かったらすっこんどけ」

  「このしょんべんたれが!」

 

明代『ははは・・・・・』

   『そりゃー雄治も、ももちゃんにはビビるわな』 

 

そんなことを言っているうちに、グラウンドの方では

選手たちが続々とフィールドの方に出てくる

 

ももはそれを見ると真剣な顔をして、一緒に来たクラスメイトのもとに戻っていった

 

クラスメイトたち「ももどこ行ってたの?」

         「席とられちゃうよ」

         「満席なんだから」

もも「ああ、ごめんごめん」

  「ちょっと知り合いがいたもんだから」

  「一人にはとび蹴りと」

  「もう一人にはぐうの音も出ないほどカマシを入れてきたわ」

 

クラスメイトたち「カマシって・・・・・」

          「なに?」

          「と・・・とび蹴り」

 

選手たちが整列し会場に向かって挨拶をしている

 

クラスメイト達「大地ー!」

         「雄治ー!」

         「浩太ーーーーー!」

         「がんばれーーーーーー!」

 

明子「だいちだいちだいちぃいいいいいい!」

 

もも『あのガキ!』

 

もも「だいちぃいいいいいいい」

明子「だいちだいちだいちいいいいいいいい」

もも「だぁいぃいいちぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 

クラスメイト達「あの・・・もも」

 

もも「ん?」

 

クラスメイト達「うるさい」

 

もも「すんません」

 

シーン@ 前半開始

 

玉之浦高校 スターティングメンバー

 

背番号23 桂(GK

背番号2 森(左センターバック)

背番号3 雄治(右センターバック)

背番号4 左サイドバック

背番号5 右サイドバック

背番号6 浩太(右ボランチ)

背番号7 幸彦(左ボランチ)キャプテン

背番号8 右サイドハーフ

背番号20 拓真(左サイドハーフ)2年生

背番号10 大地(トップ下・シャドー)

背番号11 坂口(FW

 

主なサブ 

 

背番号9 長身FW

背番号1 まこと(GK

 

堂源志高校 スターティングメンバー

 

背番号1  GK

背番号2  甲斐(左側センターバック)

背番号3  右側センターバック

背番号4  左サイドバック

背番号5  右サイドバック

背番号6  左側ボランチ

背番号7  鬼塚(右側ボランチ)キャプテン

背番号8  左側サイドハーフ

背番号18 右側サイドハーフ

背番号11 田中(右側フォワード)

背番号9  泉谷吾郎(左側フォワード)

 

コイントスにより

 

ボール 堂源志高校で試合が開始されようとしている

 

センターサークルの中で吾郎がボールを足の下に置き

目を瞑り大きく深呼吸している

 

吾郎はちらりと10番をつけている大地の方を見る

吾郎『・・・・・』

   『見覚えがある

   『やっぱり・・・こいつ・・・なのか?』

 

試合開始のホイッスルが鳴る

 

吾郎はFWJ田中に軽くボールをだし

玉高陣地の方に駆けていく

 

吾郎「副長殿ーーーーーー!」

 

FWJ田中もDMFF鬼塚にボールを預け玉高陣地内に駆け込んでくる

 

FWJ田中「今日もテンションMAXだな」と呆れている

 

観客席は、試合開始のホイッスルに大歓声が起こっている

 

明子「だいちだいちだいち〜〜〜〜〜〜〜!!」

修斗「吾郎吾郎吾郎〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

前を向いてボールを持っているDMFF鬼塚に大地がチェックを入れに行く

 

DMFF鬼塚はなれた身のかわしで大地を肘と肩でブロックし

       「うりゃうりゃうりゃ〜〜〜!」と大きな声で気合を入れながら

大地をいなす

 

 

DMFF鬼塚『軽いなこいつ』

        『余裕』

 

        「うりゃうりゃうりゃ〜〜〜〜!」

 

DMFF鬼塚はいつものように大地をブロックしながらも前へドリブルで進み

サイドハーフにパスを出そうとサイドを見る

 

DMFF鬼塚『!?』

        『なんだこいつ!』

        『振り切れない!』

        『キックフォームに入れない!』

 

        『移動のコースも変えられてしまっている!』

 

そこに浩太も鬼塚を挟むために駆けてくる

 

DMFF鬼塚「ちっ!」

 

鬼塚はやむなく回転し大地を背中に入れにCBA甲斐にバックパスをし

ポジションをさらに上げていく

 

CBA甲斐から左サイドバックにボールが行きさらにダイレクトパスで

左サイドハーフまでボールが渡る

 

玉高右サイドハーフがすぐにコースを切りに行くが

これまたダイレクトパスで吾郎へとボールが渡った

 

吾郎H「切り込み隊長・泉谷吾郎!」

     「第一任務に邁進する所存でございます!」

 

     「副長殿!」

 

     「なにとぞ!なにとぞ!」

 

FWJ田中「どういう設定なんだよ」と苦笑いしている

 

吾郎は3Mドリブルでガンガン玉高陣内へと入ってくる

 

吾郎H「うららららららら〜〜〜〜〜〜!」

 

そこにDMFF幸彦がコースを限定するために寄せにやってくる

玉高右サイドバックも挟むためにやってくる

吾郎「こいこいこいこい!」

 

玉高右サイドバックと幸彦が吾郎の前に立ちはだかる

サイドバックと幸彦はじりじり後ろに下がりながら

どちらに行かれても反応できるように

人二人分ほど間をあけて小股でバックステップを踏んでいる

 

吾郎「いい対応でございます!」

   「しかし、切り込み隊長・泉谷吾郎」

 

   「ここは、勝負してもいいですかーーーーーー?」

 

   「いいですよーーーーーーーー!」

 

   「ありがとうございます!副長殿!」

そう言い終わると幸彦とサイドバックの人二人分の間をボールを通し

吾郎が加速する

 

観客たち「!!!!!!!!!」

      「えええええええええええ!!!」

 

玉高サイドバック・幸彦「!!!!!!!!」

 

観客たち「は!」

 

      「はやいっ!」

 

FWJ田中「ワンマンプレーはんたーい」

DMFF鬼塚「同じくはんたーい」

 

観客たち「抜いたーーーーーー!!!!!!!!」

 

      「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

      「すんげーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

      「見たか?今の加速」

      「超はえーーーーーーー!」

 

雄治が吾郎のコースを限定するため吾郎の前に立ちはだかる

CBA森はFWJ田中をフリーにしないように見ている

 

浩太が雄治のフォローをするためこちらに向かっている

吾郎H「神よ!」

 

雄治CBB「あん?」

 

吾郎H「もしもこの世に本当に神がいるのなら」

     「たった一度でいい」

 

     「俺の左足を!」

     「俺の左足を動かしてくれーーーーーー!」

 

雄治CBB「はい?」

 

浩太「桂!くるぞーーーーーーー!」

 

GK桂「はいーーーーー!」

 

吾郎「レフティー・モンスタァぁぁぁぁあああああああああ!」

 

雄治「はっ!」

 

桂「うっ!」

 

はじけるようなものすごい轟音が鳴り響いた瞬間

ボールはゴールネットに突き刺さっていた

 

観客たち「・・・・・・・・・・・・」

      「え?」

 

修斗「ごろぉおおおおおおおおおおおお!」

 

観客たち「うわぁぁああああああああああああ」

 

      「すんげぇぇええええええええええ!」

 

     「はいったぁぁあああああああああああ!」

 

修斗「ごろぉおおおおおお、かっけーーーーーーーー!」

   「雄治格好悪い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 

吾郎は両手拳銃を胸の前で空に向かって連射する

コミカルなパフォーマンスをやっている

 

吾郎「ゴルゴルゴルゴル」

   「ゴォォォォオオオオオオオオオオオル」

 

雄治「・・・・・なんだ・・・・今の」

   「速すぎて・・・・この距離からでは何も見えない」

   「もう少し離れなきゃだめなのか?」

浩太「いや・・・・、飛び込めるくらいの距離じゃないとどんどん前に来るだろうから・・・」

 

雄治「・・・・・」

 

浩太「もう・・・飛び込んで」

   「体をあまり倒さず」

   「空中マルセイユをワザとやらさせるんだ」

   「着地を僕が狙う」

 

雄治「・・・・なるほど・・・」

 

浩太「できるだけ高く飛ばないと駄目なように

    体をあまり倒さずに」

 

雄治「OK

 

センターサークルにボールがセットされる

 

大地がそのボールを足の下に置きホイッスルを待っている

 

先制されたのにもかかわらず大地は平然とした顔をしていて

笑っているかのようにも見える

 

FWJ田中『なんだこいつ・・・・笑ってやがる・・・』

吾郎も大地をずっと見ている

吾郎『こ・・・こいつ・・やっぱなんか違う・・」

   『こいつなのか・・・?』

 

大地の髪が風になびく

 

試合再開のホイッスルが鳴り

大地は坂口にボールをだし相手コートに駆けてゆく

 

大地が走り出すと風も手伝い大地のおでこがはっきりと見える

 

吾郎『!』

   『違う!』

 

   『こいつじゃない!』

 

   『あのおでこを見間違えるはずがない!』

 

坂口Jはボールを浩太Eに下げ自分も相手コートの方に走っていく

 

浩太と幸彦が敵をいなしながら、少しずつポジションを上げていく

 

ボールが浩太に戻ってきハーフウェーラインあたりまで来ると

浩太は拓真Sに膝下のライナー性の鋭いパスを出した

 

しかし、試合開始後初めてボールを触った拓真はうまくコントロールできず

ラインを割ってしまった

 

DMFF鬼塚「あの20番、なんかガチガチだな」

CBA甲斐「緊張してるみたいねー」

       「さっきから全然、ポジションあげてないし」

 

堂源志高校のスローインから再び堂源志にボールを支配される時間が続く

DMFF鬼塚にボールが渡るとそこに大地がプレスにやってくる

 

DMFF鬼塚「無駄無駄ーーーー!」

        「うりゃうりゃ〜〜〜〜」

 

鬼塚は持ち前の体の強さで大地に体をガンガンぶつけながら

ドリブルを続ける

 

スパイク同士が当たる音

大地と鬼塚の骨と骨がぶつかる乾いた音が何度も鳴り響く

 

明子「うわぁああ」

明子は目を伏せながら大地を心配している

 

修斗「すごい・・音がしてる・・・痛そう・・・」

   

明代「大丈夫よ」

 

修斗「痛くないの?」

 

明代「・・・・・・・」

 

明子「バカ!」

   「痛くないわけないでしょ!」

 

   「だいちぃいいいいいい!」

   「負けないでぇ〜〜〜〜!」

 

DMFF鬼塚『こ・・・こいつ、しつこいな!』

        『また方向を変えられてしまっている!』

 

        『ちっ!』

 

DMFF鬼塚はやむなくサイドバックにボールを下げ

コートを駆け上がる

 

サイドバックからサイドハーフそしてそのサイドハーフを追い越した

ボールを出したサイドバックへ綺麗にパスが通る

 

拓真の守備は後手後手に回ってしまっている

 

雄治「拓真〜〜〜〜〜〜〜!ちゃんとやれーーーー!」

 

拓真「す・・・すいません」

拓真は真っ青な顔をしていて、足が地に着かないような状態の様だ

 

堂源志高校サイドバックは拓真と玉高サイドバックをひきつけるように

ライン際を走る

そこに駆け寄る吾郎には浩太がついている

 

吾郎「5050で上等だ!」

   「かせ!」とサイドバックにボールを要求する

 

サイドバックから吾郎へボールが出される

 

吾郎は急加速しボールを迎えに行く

 

浩太「くっ!」

   「はやい!」

 

浩太は一瞬の加速で負け半歩ほど前をとられ

ボールは吾郎に収まった

 

吾郎はゴールラインギリギリのところから

内側に切れ込んで聞く

 

ゴール前には、FW J田中 両サイドハーフ DMFF鬼塚の

4人が入ってきている

 

浩太は懸命に吾郎を追う

 

浩太「雄治!」

雄治「駄目だ!出られない!」

 

拓真が吾郎のコースを切りに走ってきている

 

吾郎は拓真めがけて走っていく

 

拓真はわざと自分の方に走ってくる吾郎に対して足が止まってしまった

 

浩太「拓真、足を止めちゃだめだ!」

 

吾郎「あまねく星の神々よ!」

   「わが意思に従い怒りの鉄槌となれ!」

 

吾郎は50cmほどインサイドフックをかけ

拓真を半身ほどずらし

 

吾郎「バタフライ・ナイフゥゥウウウウウウウ!」

そう叫びながら強烈なシュートを放った

 

雄治「!なに!」

 

ゴール前ではそのボールを触ろうと敵味方が交錯している

 

そのボールは誰も触れることができないままボールネットに突き刺さっていた

 

GK桂・CBA森・CBB雄治・DMFF幸彦 FWJ田中DMFF鬼塚が複雑に重なり合うように

ゴール前で身を投げ出し倒れている

 

観客たち「!」

 

     「うわぁああああああああああ!」

 

     「あの少ない角度から、蹴るかふつう!」

     「つーか、入るか?普通!」

 

     「すんげぇえええええええええええ!

 

観客席の方でももやクラスメイトは黙り込んでいる

 

クラスメイト「うう・・・・」

       「あの人・・・やっぱ・・・すごいね」

ももは立ち上がり「大地下がり過ぎだ!」そう叫びながら席を離れて

観客席の一番前まで駆けていく

 

クラスメイト「あー、ももーどこいくのー」

 

もも『20番の動きが悪い』

   『大地がそのフォローに手を取られ過ぎている』

 

   「だいちぃーーーーーーー!!!」

   「だいちぃーーーーーーーー!!!!」

 

観客席は吾郎のシュートに湧き上がっている

 

ももの声は届かない

 

玉高ベンチサイド

 

監督「吾郎・・・・・・」

   「あいつ・・・・」

コーチ「どうかしましたか?」

 

監督「まこと!」

 

GK@まこと「はい?」

 

監督「アップしろ」

 

GK@まこと「え?」

コーチ「え?」

 

監督「アップをはじめろ!」

 

GK@まこと「3年生だから出すっていうのはやめていただきたいと言ったはずです」

 

監督「そうか!」

   「一つ目」

 

GK@まこと「?」

 

監督「圧倒的なエースがいる相手にあっという間に2点取られ

    勝利をあきらめ、3年生をできるだけ多く出してやろう」

    「そういう理由」

 

GK@まことは監督を睨みつけている

 

監督「二つ目」

   「お前の方が止められる可能性が高いと

    見込み少ないカードを切る」

   「そういう理由」

 

GK@まこと「!」

 

監督「どちらの理由だったのか」

   「お前がプレーで、証明しろ!」

 

GK@まことは唖然とした顔をしている

 

コーチ「そういうことらしい」

    「まこと急げ!」

 

コートの中では試合が再開されている

 

大地は拓真の緊張をほぐすため拓真に簡単なパスを出しては

もう一度もらいに行きまたバックラインにボールを戻して

敵を拓真から放してからまたボールを受け拓真にパスをする

 

拓真『先輩・・・・』

   『大地先輩・・・・』

   『先輩は笑っている』

 

拓真は少しずつポジションを上げ大地にボールを預ける

 

 

DMFF鬼塚「10番にボールを持たすな!」そうもう一人のボランチに支持し

        「おまえはちょっと10番についていてくれ」

        「俺もすぐにはさみに行くから」といい大地にプレスをかけに行く

 

        「おりゃーーーーーー!」

鬼塚は体を強引に大地の前に入れてくる

体と体がぶつかる大きな音がする

 

明子「うっ!」明子はまた目を伏せている

修斗はその迫力に唖然としている

 

鬼塚「いってー!」

   『くっそこいつ!、肘でガードしてやがる』

   『押しても押してもステップで逃げていく』

   『体勢を崩せない!』

 

   「はやくはさめ!」

 

ももはスタンドの最前列を駆け回りなんとか

大地に声を届けようとしている

 

もも「だいちぃいいいいいい!」

  「だいちぃいいいいいいいい!」

 

ももは、大地が行く方行く方に駆けていき

できるだけ近くに行こうと走り回っている

 

観客席から大地を呼ぶ声が聞こえてくる

 

吾郎「ん?」

吾郎が声のする方を何気なく見てみると

髪を頭のてっぺんで結んだ真っ黒で印象的なおでこが目に飛び込んでくる

 

吾郎「!!!!!!」

 

   「あ!」

       「あいつ!」

       「あいつだ!」

 

中盤の攻防の中ボールがラインを割り試合がいったん途切れると

吾郎は大地に話しかけてきた

 

    吾郎「おい!お前!」

    大地「あ?」

    吾郎「なぜあいつは出ていない!?」

       「なめてんのか!?」

 

    大地「はぁ?」

 

    吾郎「すっとぼけんじゃねー!」

       「俺は完全に思い出したぞ!」

       「そうだ、お前のこともだ!」

 

    大地「をい!俺のこと忘れてたんかい!」

 

   吾郎「え?」

      「あ・・・」

      「すまん」

 

玉高校がスローインを準備していると

玉高のメンバーチェンジが告げられる

 

OUT GK㉓ 桂  IN GK@ まこと

 

吾郎「あ?」

   「GK交代!!!???」

   「血迷ったか????」

 

GK㉓桂とまことがタッチをかわす

GK㉓桂「す・・すいません」

GK@まこと「ん?謝ることなんかなんもねー」

       「ま、あとは俺に任せとけ」

GK㉓桂「はい!」

 

まことは雄治と二言三言かわしGKのポジションに入った

 

途切れていた試合が再開され大地と吾郎は再び自分のポジションに戻っていった

 

観客席「GK交代って・・・・」

     「あり得なくね?」

 

     「大丈夫か玉高」

 

     「いや・・・もう無理だろ」

 

明子の耳にそんな声が聞こえてくる

 

明子「・・・・だいち・・・」

 

中盤の攻防は5050だが、両サイドは完全に堂源志が支配している

 

一旦ボールが堂源志にわたるとサイドを駆け上がられ

クロスが入れられる

 

三列目からDMFF鬼塚が駆け上がりダイビングヘッドのために飛び込んでくる

雄治「させるかぁーーーーーーーーー!」

 

雄治もボールに対して横からダイビングヘッドに飛ぶ

 

二人は強くぶつかりながら地面にたたきつけられる

 

ボールは雄治の頭に当たりなんとかラインの外にクリアした

 

明子「ううッ!」はまた目を伏せている

明代「大丈夫」

   「見て明子」

   「ほら、雄治はケロっとした顔してるでしょ」

 

明子は恐る恐る目をあけ雄治を見ると

雄治は明代が言うようにケロッとした顔をしている

 

明子「すごい・・・・」

明代「そうね」

修斗はずっと唖然とした顔をしている

 

まだ玉高ゴール前に攻め込んでいる堂源志高校は

FWJ田中やDMFF鬼塚がガンガンシュートを撃ってくる

 

それを雄治とまことが体を投げ出し何度も何度も止めている

 

DMFF鬼塚とCBB雄治の体のぶつかり合いで

大きな音が鳴り響く

 

明子「うう・・・・」明子はその激しく生々しいぶつかり合いに目を伏せる

 

   「雄治・・・」

 

DMFF鬼塚「こんの!イノシシ野郎!!」

CBB雄治「誰がイノシシじゃい!」

二人は宙に浮いたボールをヘディングで競り合い

雄治がボールを跳ね返すが二人の頭と頭がぶつかり合う鈍い音がする

 

明子「いやぁあ!」

明代「大丈夫」

   「明子。雄治は大丈夫」

   「ほら、笑ってる」

 

DMFF鬼塚 「いってーなーーー!」

 

CBB雄治「ははは、ざっま!」

 

FWH吾郎「おまえらやっぱ、ダメダメだなぁ〜」

 

DMFF鬼塚・FWJ田中「うっせ!」

 

 

ボールがコートに入れられ中盤での激しい攻防が続く

玉高は中盤でのボール保持時間がかなり長く取れるようになったが

ボールを前に進めることはできない

 

 ももは観戦場から大地に伝えたいことがあり叫ひ続けている

 しかしその声は届かない

 

もも「だいちぃいいいいいいい!」そう叫びながら走り

 

ももはGKの真後ろの観客席まで行き

 

もも「まこと〜〜〜〜〜〜!」

 

   「脳内の創造の世界に入り」

   「体現者となれ!」

   「まことー!大地にそう伝えろ!」

   「間に合わなくなる!」と支持する

 

まこと「え?」

    「なんだて?」

 

もも「まこと!お前あほか!」

   「伝言ゲームもできんのか!」

   「初めてのお使いかーーーー!」

   「ぼけーーー!」

 

まこと「ももちゃ、もう一回言って」

 

もも「脳内の創造の世界に入り」

  「体現者となれーーー!だ!」

  「このすっとこどっこいーーー!」

 

まこと「はいっ!さーせん!」

 

まこと「雄治聞こえたか?」

 

雄治「おういえ!」

   「てか、丸投げかい!」

 

雄治は浩太に声が届くであろう距離まで行き

 

雄治「脳内の想像の世界に入るのも大概にせー」

   「そう大地に伝えろー」

 

浩太「へ?」

 

雄治「ももからの伝言だ!」

   「『脳内の想像の世界に入るのも大概にせー』だ!」

   「急いで伝えろ!」

   「ももが激ギレしてるし」

浩太「の脳内???」

 

雄治「はやく!」

 

浩太「う・・・うん」

 

浩太は大地の方に駆けていき大きな声で

 

   「ももちゃから」

 

    「伝言」

 

   『「脳内の想像の世界に入るのも大概にせー」だって』

 

大地「はぁ?」

 

   「あ!」

そんな会話をしているうちに、パスを通されてしまい

 

DMFF鬼塚にボールが渡る

 

大地「くっ!」

浩太「しまった!」

 

大地にが鬼塚にプレスをかけに行く

 

鬼塚F「ええい、うっとおしいやつだ!」

大地と鬼塚のスパイクとスパイク・骨と骨がぶつかり合う乾いた音が鳴り響く

 

大地『な・・・なんだって?』

   『想像の世界に入るのも大概にせーだって???』

   『マジで????』

 

このあと終始中盤の攻防が繰り返され

大地や浩太が吾郎へのパスコースを上手く消し

吾郎にボールを渡さなかった

それでも堂源志高校が3度ほどシュートまで持って行ったが

すべて雄治とまことにはじかれ得点には至らない

玉高のシュートは遠目から拓真が放ったミドルのみで大きく

枠を外したものだけだった

 

前半終了

 

堂源志高校 2 - 0 玉之浦高校

     

         

シーン@ ハーフタイム

 

 

ハーフタイムになり再び吾郎が大地に話しかけてくる

      吾郎「あいつだ!あいつ!」

吾郎が指をさす方を見る大地

 

    吾郎「お前らのチームで10番つけてたやつだ!」

 

    大地「ああ・・・」

 

    吾郎は頭をかきむしりながら

       「あー思い出しただけではらたつわー!」

       「あいつとはそのうち絶対決着をつけてやろうと思ってたんだ!」

       「なんで、あんなところにいるんだあいつは!!!」

       「お前んとこのジャージきてんじゃねーか!」

 

       「おっととだせ!」

 

    大地「あ・・・あの・・・」

       「あいつな・・・」

      

       「ももっていうんだ」

 

     吾郎「ああ!そうだ!確かそう呼ばれてた!」

 

     大地「あ・・・あの・・・桃子って名前なんだ」

 

     吾郎「あ?」

 

     大地「女なんだよ」

     吾郎「あああああぁぁぁあああ!」

        「なんだとぅ!」

 

        「そ・・・そうか・・・女だったのか

        「だよな・・・」

        「かわいい顔してんなって思ってたんだ」

そう言いながら顔を赤らめ、鼻を膨らませている

 

     大地「おめぇ〜、キモイぜ!」

 

      吾郎「うっせー!ボケ!」

そう言いながらチームメイトの方に消えて行った

 

大地もロッカールームに向かうスロープの方に歩いてゆき

みんなと合流しようとしている

 

もも「だいちぃいいいいいいい!!!!!」

 

ロッカールームに向かうスロープと観客席をへだたてる手すりに手をかけ

2Mはあろうかという高さからももがスロープへと飛び込んできた

 

大地「わぉ!!!」

 

ももは大地の胸ぐらを捕まえ廊下の方まで引きずっていき

壁に大地を押し付け

白い歯を食いしばりながら大地のおでこにヘディングを一発かまし

そのままおでこを引っ付け

かみ殺すような声で、大地に語りかける

 

大地「いてててててて!」

もも「黙れ!」

   「お前の背中に描かれている番号の意味を知らないのか」

   「なんだこの様は!」

   「お前が何とかしろ」

   「お前ひとりで何とかしろ」

   「勘違いするな!」

   「これは命令だ!」

 

大地が合流してこないので探している雄治が廊下の隅にいる

2人を見つける

 

雄治「わわわわわ」

   「こ・・・・浩太〜!」

 

浩太「ん?大地いた?」

 

雄治「チューしてる」

 

浩太「へ?」

 

遠目に見た二人は雄治にはそのように見えたようだ

 

ももは、歯を食いしばり噛みしめるような声で続けている

 

 もも「体を後ろに向けるな」

   「ずっと前を見ていろ」

 

   「そして不敵な笑顔を見せていろ!」

 

   「観客どもからはヘラヘラ笑っているお前がバカに見えるだろう!」

 

   「だが!お前はそれをやるんだ!」

 

大地も歯を食いしばりにやけた顔をしながら噛みしめるように答える

 

  大地「こんな下で見てる場合か!」

     「もっと上へ登れ」

     「見逃して一生後悔することになる!」

 

雄治は浩太を呼び寄せている

浩太「ちゅ・・・チュウ????」

雄治「早く来い!」

   「携帯で写真撮れ」

   「一生強請れるぞ!」と言いながら笑っている

 

ももはもう一度大地にヘディングして

 

  もも「そうかい!」

さらにもう一度ヘディングをかます

 

  もも「そうかい!」

 

  大地「そうだ!」

 

浩太「ん???ヘディングしてるんじゃない?」

雄治「あら????」

 

 

 

もも「マグナム・オーシャン」

  「私はそれを外から見たことがない」

  「私にそれを見せてみろ!」

 

  「・・・・・・・・」

 

  「見せてほしい」

 

大地は返事はせず歯を食いしばったまま笑っている

不敵な笑顔

 

ももは、力強くつかんでいた大地の胸ぐらを離し

手のひらを広げ

大地の大きな胸の上に優しくのせながら

 

もも「大地の中にいる私をコートの中に連れて行ってほしい」

 

そう言い頭の髪を止めているゴムを外し大地に優しく渡し

再び大地の胸ぐらをつかみ

しっかりと立ち上がらせ

背中をたたき

 

もも「行け!」と言い放った

 

ももはほどかれた髪をなびかせながら

大地の背中をずっと見ている

 

シーン@ 後半

 

センターサークルの中、大地はボールを足の下に置き

おでこに手を当てながら、ずっとゴールの方を見ている

その手首にはももから渡された髪止め用のゴムがまかれている

 

大地『いってー』

   『ももちゃ、めちゃくちゃしやがるよな』

 

   『マジでいてーんだけど・・・』

 

坂口J「どうした?大丈夫か?」

 

大地「ああ・・・まぁ、大丈夫」

 

大地はDMFF鬼塚がずっと自分の方を睨みつけていることに気付き

鬼塚に向かって笑顔を作って見せた

 

鬼塚F『あんのやろう!』

 

後半開始のホイッスルが鳴ると

 

大地はボールを坂口に預け相手陣地に走りこむ

 

大地は拓真の方を向き笑顔を見せながら

相手陣地を指さし「拓真」と声をかけた

 

拓真「はい!」

拓真は力強く返事をしながらポジションを高い位置に上げていく

 

坂口は一旦浩太にボールを下げ自分も前の方に走っていく

 

一方観客席では

 

もも「上の方に席がいくつかあいている」

クラスメイト「え?」

もも「上からじゃないと見えない」

クラスメイト「え?上からだと余計見えなくない?」

       「ここ、なかなかいい席だよ」

もも「いや、上からじゃないと見えない」

  「行こう」そう言いながら席を離れ明子の方に歩いていく

クラスメイト「もも〜」

 

ももは明子のもとに行き明子の目線まで屈んで話しかける

 

もも「明子」

明子「?」

もも「がんばれ、がんばれ大地」とゆっくりとした口調で明子に聞かせる

明子「?」

もも「がんばれ、がんばれ大地」

   「がんばれ、がんばれ大地」

 

明子・もも「がんばれ、がんばれ大地」

 

明子「がんばれ、がんばれ大地」

もも「そう」

 

明子「・・・・・・」

 

もも「その声が届けば、きっと大地はがんばる」

 

明子「ほんと?」

 

もも「ええ」

  「だから明子」

  「その声援を届けてほしい」

 

明子「うん、わかった」

 

ももは立ち上がり明子の頭を優しくなで

観客席の一番上へと向かう階段を登って行った

 

大地には相手のDMFEがマークに付き

DMFF鬼塚はボールをとるために浩太の方に駆けていく

 

浩太は右側を見るが俊足な吾郎がいるためボールを出しにくい

ゆっくりとドリブルで前進しながら左サイドバックの上りを目で促す

そうしているうにに鬼塚が強引に浩太からボールをとろうと

ぶつかってくる浩太は膝をつくほどきつく当たられたがボールを何とか

左サイドバックに預け、すぐに立ち上がり

左サイドバックからボールをもう一度もらう

 

DMFF鬼塚が再び浩太にガツンガツン当たってくる

浩太は転びながらCBB雄治にボールを戻す

 

そうすると先ほどまで少し上がっていた左サイドが

バックラインでボールを回すためまた自陣に戻らさせられてしまう

 

浩太E「くっそう!」

     『下がらせられてしまうと大地と間が空いてしまう!』

そう思いながら大地を見ると

大地は体を相手ゴールの方を向けたままこちらを振り向き

笑顔にも似た顔でこちらを見ている

 

浩太E『?』

 

バックラインはボールの出しどころを探しながらボールを回している

そこに浩太がボールをもらいに行く

 

すると再びDMFF鬼塚との激しいぶつかり合いが始まる

 

浩太「くっ!」

浩太は幸彦の方を見るが幸彦のすぐ近くに吾郎の姿が見えパスを出す選択をやめる

その一瞬の躊躇を狙われFWJ田中とDMFF鬼塚に挟まれ

足をつく場所を失い浩太はその場に転がり落ちる

 

浩太「!」

   『しまった!』

 

   「くっそう!!!」

浩太はすぐに立ち上がりボールを持ってドリブルを開始したFWJ田中を追いかける

FWJ田中の前にはCBB雄治が立ちはだかる

 

FWJ田中が少し減速したうちに浩太は田中に追いつき

横からショルダーチャージを力いっぱい当てて田中を吹き飛ばしボールを奪い取った

 

FWJ田中「うはっ!」

 

CBB雄治「おほほ」

雄治は浩太がこんなに熱くなっているのを初めて見て驚いている

 

浩太は左サイドバックにボールを預け

ポジションを上げボールを要求する

 

しかし、そのパスコースを鬼塚に読まれ

カットされてしまう

 

浩太「くっそう!」

浩太は鬼塚をすぐに追いかけショルダーチャージを仕掛ける

しかし体の強い鬼塚にはあまり効果がなく、それどころか

逆にショルダーで弾き飛ばされた

 

浩太「うわぁ!」

 

浩太は地面に転がりすぐに立ち上がり追いかけるが

すぐにボールを吾郎にパスされてしまう

 

浩太「ちっ!」

 

大地は、敵のゴールの方に体を向けたまま

その様子をずっと見ている

 

大地『そうか・・・・』

   『そうなのか・・・・・』

 

   『浩太』

 

   『もも・・・』

 

   『脳内の想像の世界の中へ入るのも大概にせー』

 

   『・・・・・ちがう・・・・よな?

 

吾郎が3Mドリブルで幸彦をかわす

どんどんバックラインに迫っていく

 

浩太「雄治ーーーーーーーー!」

 

雄治「おういえ!」

 

吾郎「あまねく星の神々よ!」

  「わが意思に従い怒りの鉄槌となれ」

 

雄治は体をあまり倒さずすぐに立ち上がれるタイプの

スライディングを吾郎に向けて仕掛ける

 

吾郎「バタフライ・ナイフゥゥウウウウウウウウ!」

 

雄治「撃つんかいっ!」

浩太「!!!!」

 

まことは反応するもののボールを触ることができず

そのまま地面に倒れこむ

ボールはゴールネットに突き刺さった

 

まこと「・・・・・・・・・」

 

雄治はボールの行方を追うためまことの方を見る

 

浩太「くっそう!!」

 

雄治「・・・・・・・・」

 

吾郎はフィールドの真ん中の方に向かって走りながら

両手拳銃を胸の前で空に向かって連射するコミカルな

パフォーマンスをしている

 

吾郎「ゴルゴルゴルゴルゴル!」

   「ゴォォォォオオオオオオオオオルゥゥゥウウウ」

 

   「田中ーーーーー!」

 

FWJ田中「はい・・・はい・・・」

 

吾郎「副長殿ーーーー!」

   「ハットトリック達成でありますぅぅううう!」

 

吾郎と田中はセンターサークルで向かい合い

ネイティブっぽい発音で首をかしげながら

 

吾郎「ミッションコンプリート」

   「AHAN

田中「AHAHAN

というなんだかよくわからない小芝居をしている

 

雄治「・・・・まこと・・・」

まこと「・・・・す・・すまん・・・」

雄治「いや・・・違う」

   「お前・・・反応したのか?」

 

まこと「え?・・・ああ・・・・・」

 

雄治「そうか・・・・監督」

    「そういうことか・・・・」

 

まこと「え?」

 

雄治「吾郎はあまりゴールの隅を狙わない」

   「インステップキックはコントロールが難しい」

   「だから低めでゴールキーパーに当たらないようにだけ蹴るようだ」

   

   「たくさんのビデオを見た」

   「特に今の距離からならコースなんてほとんど狙わない」

   「誰も反応できないからだ」

 

まこと「・・・・・」

 

雄治「身長は関係ないと言う意味だ」

   「反射神経だけが吾郎を止める唯一の武器になる」

 

まこと「・・・・・」

 

雄治「桂よりお前の方が反射神経が良い」

   「これは間違いねぇ~

 

まこと「!」

 

FWJ田中「あーーー、めっちゃ恥ずかしい」

 

大地「はははははは」

 

FWH吾郎「あ?何笑ってんだお前」

 

大地「え?」

   「今の面白いじゃん」

 

FWH吾郎「ま・・・まぁな」

DMFF鬼塚『こいつ!』

        『何笑ってやがんだ!3-0だぞ』

 

観客たち「おい、玉高の10番の奴笑ってやがるぞ」

      「3-0なのに」

 

      「もうあきらめたんじゃね?」

 

クラスメイト「・・・大地・・・笑ってる」

もも「ええ」

   「それでいいわ」

 

クラスメイト「・・・・え?もうあきらめちゃったのかな・・・・」

 

もも「はははははは」

 

クラスメイト「?」

 

もも「まさか」

そう答えももは笑っている

 

もも「あれは演技じゃないな」

   「大地はあんなに演技が上手じゃない」

 

クラスメイト「?」

 

もも「そろそろ入るか・・・・・」

 

   「ゾーンに」

 

クラスメイト「もも?」

 

大地『そうか・・・・』

   『吾郎・・・面白いな』

   『こいつと一緒にサッカーしたら

    本当に面白いじゃないか』

 

   『そうか・・・そういうことか・・・・』

 

大地はセンターサークルに立ちボールを足の下に置いている

大地は敵のゴールをずっと見ている

 

大地「浩太」

 

浩太「ん?」

 

大地「俺から坂口、そして浩太」

 

浩太「うん」

 

大地「その次俺にくれ」

   「5050でも俺に」

そう言いながら顔だけ振り返り笑顔を見せている

 

浩太「・・・・・・・」

   「わかった」

 

ホイッスルが鳴り試合が再開される

 

大地は坂口に、坂口は浩太にボールを出す

 

浩太は膝下ライナーの速いパスを大地に出す

 

大地はそのボールをアウトサイドでこすり落とし

綺麗にトラップしトラップ一撃で張り付いているボランチEをかわす

 

DMFF鬼塚『うめぇ!』

        『だから!きにくわねぇーーー!』

鬼塚はファール気味に大地に体当たりをしてくる

 

鬼塚『あ!』

 

大地『肘より手のひら側に当たられた場合!』

   『肘から下を折りたたみ回転する』

   『俺の肘から下が敵の背中に入る』

  『ついでに、ぐいっっと押す』

  『周りからは俺は回転したようにしか見えない』

 

鬼塚の目の前に地面が迫る

鬼塚はそのまま地面にたたきつけられた

 

鬼塚「ファールだろ!!!」

そう言いながら大地の方を見ると

笑顔を浮かべながら高速ステップで回転している大地が見える

 

鬼塚「あのやろーーーー!」

鬼塚は立ち上がりながら「ファールだろ!」と叫んでいる

 

しかし、ホイッスルはなることはなく

試合は続いている

 

大地はドリブルでそのまま駆け上がる

 

大地『そうか浩太』

   『わかる』

   『吾郎とサッカーするのは楽しい』

 

  『人は成長する』

  『人は変わる』

  『子供のころ見せてくれた笑顔はもう見せてくれない』

  『しかし、今までに一度も見せてくれたことのなかった』

  『この激しい闘志』

 

  『人は成長する』

  『人は変わる』

 

  『浩太は成長した』

  『激しい心を持った闘将』

 

 

  『浩太の心はこのチームと共にある!』

 

大地は両サイドを見るが間接視野の中に味方の姿はない

 

  『みんな恐れている』

  『すぐに守備に戻らなければならなくなるからだ』

 

  『俺は体現者』

  『口で言っても何も伝わりやしない』

 

  『ももの言う通り』

  『お前が何とかしろ』

 

  『お前ひとりでなんとかしろ』

 

危険を察知したCBA甲斐が大地の足元にスライディングを仕掛けてくる

 

大地はステップを踏んだままボールの端を足の裏で軽くはたき

ボールを50cmほどバウンドさせ高速なステップを踏んだまま

甲斐の放り出された足をかわしさらに体もかわした

 

観客たち「ええええええ」

      「スライディングされたのになんか、そのまま駆け抜けた???」

      「どうなったの???」

 

甲斐A「えっ!?」

 

大地『もう一人のセンターバックその奥にGK

    そして横からサイドバックが絞りに走ってきている』

 

大地はサイドバックが寄せてきている方に斜めに走っていく

そのスピードにセンターバックが思わずクロスステップになる

 

大地『クロスステップ踏んだ時点で俺の勝ちだ』

 

大地はセンターバックの方に方向を急展開する

 

センターバック「しまった!」

しかしセンターバックが体勢を戻そうとしたときにはもう大地は

センターバックの背中に入っていた

 

観客たち「うぅぉぉぉぉおおおおおおおお!」

      「すんげぇ速さ!」

 

      「GK11だぁぁああああああ!」

 

大地はGKをにやけた顔をしながら見ている

大地『後ろからサイドバックとセンターバックが迫る』

   『キックフォームに入ったらGKが飛び込んでくる』

 

   『キックフォームに入らなければ動けない』

GK『!!!うごけないっ!』

 

大地は軽々とGKをドリブルで抜き去り

軽くインサイドでボールをゴールに蹴りこんだ

 

観客たち「うおおおおおおおおお!」

      「クール!」

 

明子「だいちぃいいいいいいいいいいい!」

   「かっこういいいーーーーー!」

 

クラスメイトはしぶしぶももについていき

一番高い場所から試合を見ている

 

クラスメイト「きゃぁぁあああああ!」

       「だいちぃいいいいいいいいい!」

 

       「やったぁあああああああ!」

 

      「もも!やったよ!大地がー」

もも「見えてるよ」

 

 

雄治「でかしたーーーーー!」

 

拓真「せんぱぁああああい」

そう叫びながら大地に抱きつく

 

大地は先ほどからと同じように笑顔だが

さほど嬉しそうじゃないことに拓真は気が付いた

 

拓真『・・・・・先輩・・・』

 

堂源志高校のキックオフで試合が再開され

FW2人からボールがDMFF鬼塚に戻される

大地はそれを狙ってたかのように

鬼塚に迫る

 

DMFF鬼塚「この野郎!」

 

大地と鬼塚のスパイクがぶつかり合う乾いた音が鳴り響く

 

体をぶつけられ鬼塚から少しボールが離れると二人は同時にボールを追う

鬼塚が大地に体を入れながらボールを守りボールを先に触るが

ぶつかり合っているためボールがうまく足に落ち着かない

 

大地はさらにステップを急加速し鬼塚の前に入る

鬼塚「くっそう!」

 

しかし鬼塚のフォローに来ていたサイドバックと鬼塚に挟まれ

ボールはまた5050の場所に50cmほど転がる

 

そのボールを3人が追う

 

大地が一番にボールに到達するが二人に追われながら

前にはもう一人の敵ボランチが迫っている

 

大地『バック走ドリブル2歩』

   『ムーンステップドリブルで360度ターン10歩』

 

大地はバック走ドリブルで鬼塚を背中に受けムーンステップドリブルで

回転しながら再び肘を鬼塚の背中に入れ回転を続けた

 

鬼塚「うっ!」

鬼塚の目の前に地面が迫る

鬼塚は地面にたたきつけられた

 

ムーンステップドリブルが360度に到達したとき

サイドバックともう一人のボランチは大地の背中を追う格好になっていた

 

観客たち「おおおおおおおおおおおお」

      「なんだ今の回転」

       「一人なんかすっころんだぞ!」

クラスメイト「きゃあああああああ!」

        「何々今の!」

        「かっこういいーーーー!」

 

もも「マグナム・ヴォルテックスだ」

 

   「まだまだ」

 

   「もっと渦ができはじめる」

 

クラスメイト「だいちぃいいいいい!」

 

もも「自分が回転しながら円を描く」

   「地球の周りを月は同じ方向を向いたまま回っている」

   「その地球と月が太陽の周りをまわっている」

    「ボールが地球 月が大地だ、太陽は敵」

    「それは上からじゃないと見えない」

クラスメイト「だいちぃいいい」

       「かっこういい〜〜〜〜〜!」

 

もも「こらー!聞いとんのか!」

 

クラスメイト「へ?」

 

もも「大地大地、気安く呼ぶな!」

 

クラスメイト「さーせん」

 

まこと「雄治、今のうちにもっとラインをあげろ!」

 

雄治「いや・・・それはまずい」

 

まこと「これは大地からのメッセージだ!」

 

雄治「え?」

 

まこと「わかれ!」

 

雄治は少し考え

   「そうか・・・」そうつぶやき

大きな声で「ラインを上げろー!」と言いながら自らも高い位置へと上がっていく

 

雄治「拓真ー!」

   「なんでお前そんなとこにいるんだー!」

 

   「もっと前だーーー!」

 

拓真「は・・・はいっ!」

 

雄治「浩太もおっととあがれ!」

 

浩太「そうだ・・・・」

 

雄治「あ?」

 

浩太「そうだったね」そう言いながら高い位置に上がっていく

大地は3人の敵を背中に抱きだがら最終ラインへと向かってドリブルをしている

 

雄治「坂口!フォローにさっさといけ!」

 

坂口「!」

   「すまん、みとれてた」

 

後ろに三人すぐ前に一人その後ろにコースを限定するために

もう一人、さらにその後ろにGK

 

大地『最高速ステップを踏めるのは精々6秒が限界』

   『しかし、6秒あればゴールに到達するには十分』

 

大地は急加速し一気に後ろの3人を振り切り前にいた一人を抜きにかかる

前の敵は大地に体をぶつけてくる

ぶつかられたことによりコースが20pほどずれボールはさらに20cmずれる

 

そのボールをコースを限定していた相手が拾いに来る

 

大地『もも』

   『お前の言うとおり』

 

   『ドリブルは失敗の連続』

 

コースを限定していた選手が足を延ばし先にボールに触る

しかし大地はそれを読んでいたのか

転がりだすボールの方に高速ステップで走っていく

 

大地『足を延ばしたお前はもう動けない』

   『このボールを拾い、お前の背中に入る』

 

   『すると、俺を追って走っている者の障害物に代わる』

 

相手ディフェンダーたち3人がぶつかり合いその場にひっくりかえっている

 

観客たち「あいつがドリブルすると、ころころ敵が倒れていくなー!」

      「あんな細かい動きされたらついていけんわな!」

 

      「すんごいぞあいつ!」

 

      「GKとまた1対1になった!」

 

大地はまたにやけた顔をしながらGKをしっかり見ながらドリブルしている

 

GK『くっ!動けない

 

大地『後ろから鬼塚が血相を変えて走ってきている』

   『バック走ドリブル3歩 そして前進』

 

鬼塚「うりゃーーーーーーーーー!」

と大声を上げながらスライディングを仕掛けてくる

 

大地はバック走ドリブルを3歩する

 

GKと鬼塚が交錯し二人は折り重なるように倒れこんでいく

 

大地は二人をよけドリブルでゴール50cm前まで行き

軽くインサイドでシュートを決めた

 

観客「うおおおおおおおおおおおお!」

   「あっという間に2点返したぞーーーーーー!」

 

   「こりゃーーー、まだまだ分からんぞーーー」

 

   「あの10番の奴の体のキレは異常だろ!」

   「キレキレだぜーーーーー!」

 

鬼塚「ちっくしょう!」と悔しそうに地面をたたいている

大地は上から鬼塚を見ている

   「後ろからスライディングはファールだぜ」

   「知ってた?」

 

鬼塚「このやろーーーーー!」と歯を食いしばりながら

大地を睨みつけている

 

CBA甲斐「おい、鬼塚。熱くなるな!」

       「今のスライディングはダメだ」

鬼塚Fは黙って歯を食いしばっている

 

CBA甲斐「ボランチ二人でマークしとけ」

       「他の奴はたいしたことない」

 

この得点をきっかけに大地は

きついマークを受け両ボランチに挟まれ

鬼塚のファール気味のタックルで何度も何度も倒されている

鬼塚と大地のスパイクがぶつかり合う音

骨と骨がぶつかり合う音が鳴り響く

 

明子「うう」明子はその激しさに顔を伏せてしまっている

   「だいち・・・」

 

二人のボランチをかわし大地が抜けだそうとしたとき

鬼塚は倒れながら大地の膝を引っ掛け

大地を転ばせて進行を阻止した

 

審判のファールを告げる笛が鳴る

 

大地はすぐに立ち上がりドリブルを再開していたが

笛が鳴ったためその場に止まる

 

浩太は大地を心配して駆け寄ってくる

 

浩太「大丈夫?」

 

大地「はは、平気平気、それより」

「練習したことをやらないとな」

そう言い大地は笑っている

 

審判は鬼塚の方に駆けより

審判「次やったらイエロー出すよ」と言い渡した

 

鬼塚「こいつも肘で押してんだろうが!」

   「よく見ろ!」

その罵声を聞き審判は胸のポケットに手をやり

イエローカードを天にかざした

 

吾郎H「鬼塚!落ち着け」

鬼塚F「くっそう!」

 

もも「ちっ!」

   「流せよ!くそ審判が!」

   「大地は階段パフォーマンスであのまま走れるんだよ!」

 

   「決勝後半でイエローなんて糞の役にも立たんわ!」

 

クラスメイト「ももちゃ・・・こわい」

 

浩太『練習したこと・・・・』

   『MF・・・トライアングル』

 

   『膝下ライナーパス・・・・・・』

 

   「拓真ーーーーーー!」

 

拓真「はい?」

 

まだ低い位置でのフリーキックを浩太がほぼフリーと言ってもいい状態の

拓真に膝下ライナーでパスをする

 

拓真「わわっ!」

拓真は驚きながらもなんとかボールを収める

 

観客たち「なんちゅう雑なパス!」

      「20番の奴よくとったな」

 

      「下手したらライン割ってるぞ」

 

浩太は駆け上がりながら拓真にボールを要求する

拓真は速いゴロの玉を綺麗に出してくる

 

浩太はそれをダイレクトで拓真に膝下ライナーパスし

浩太「拓真ーーーー!」と叫びながら拓真の方へ走っていく

 

拓真はまた驚きながらボールを何とかトラップする

拓真「わわわわっ!」

 

観客「なんじゃ!」

   「あの6番!」

   「雑なパス」

   「パスつーか、クリアかと思ったぜ」と笑う

 

   「20番よくとったな」

   「20番うめーな」

 

拓真はポジションを入れ替わるため

内側に切り込んでいく

 

拓真『そうか・・・・』

   『練習していたことをやれ』

 

   『そういう意味ですね』

 

大地はずっと二人のボランチにマークされている

 

拓真と浩太が膝下ライナーパスをかわし

ポジションを入れ替えながらながら

ジリジリ前へと進んでいく

 

吾郎H『ちっ!』

     『前半守備的だったんだが』

     『勢いづきやがったか・・・・』

 

     『浩太はもちろんだが』

     『あの20番もうめーな』

 

     『あの二人はきっと10番にボールを出す』

 

     『そこを俺がとる!』

 

そう考えながらそっとサイドの方からポジションを下げていく

 

浩太『5050でもきっと大地が』

浩太はそう思いながら大地に膝下ライナーパスを出した

 

吾郎H「うりゃぁああああ!」

     「どんぴしゃーーーーー!」

     「いっただきぃーーーーーーー!」

 

浩太「!!!!吾郎!」

   「いつの間に!」

 

吾郎はそのダッシュの速さを生かし

大地にボールが到達する前にインターセプトに成功した

 

観客たち「おおおおおおおおお!」

      「吾郎!はやっ!」

 

      「いつの間にあんなに下がってたんだ?」

 

      「勘のいいやつだ!」

 

      「吾郎の反撃だぁああああ!!!」

 

吾郎は3mドリブルで敵陣向かってガンガン進んでいく

 

吾郎「副長殿ーーーーー!」

   「今日は田中に『ごっつあん』あげなくていいですかーーーー?」

 

   「いいですよーーーーーーーー!」

 

   「あっざーーーーーす!」

 

FWJ田中「えーーーー、くれよーーーー!」

 

浩太は懸命に最短コースを選び雄治に向かって走る

 

浩太「雄治ーーーーーー!!!!」

 

雄治「おういえ!」

 

浩太は最短距離を走り吾郎の走るコースに回り込んだ

 

浩太「僕がタックルをする!」

そう言いながら体を倒しきらないスライディングをすかさず

吾郎に向かって仕掛ける

 

吾郎は回転しながら右足インステップでボールをすくい

左足インサイドでボールがこぼれないように

押さえながらジャンプする

 

吾郎「無駄無駄無駄ーーーーー!」

 

観客たち「でたーーーーーーーーー!」

 

      「空中マルセイユ・ルーレット!!!!」

      「マルセイユ・ルーレトじゃねーけどなぁぁあああ!」

 

吾郎は体を倒していない浩太を避けるため

いつも以上に高く宙を舞う

 

雄治「おっしゃぁぁああああ!」

 

吾郎「!」

 

雄治の胸に吾郎の膝が入る

骨と骨がぶつかる大きな音が鳴り響く

 

明子「きゃぁああああ!」

修斗「ああああああ!」

 

雄治と吾郎はその場に崩れ落ちる

 

浩太はすぐに立ち上がりこぼれたボールを拾いに行く

 

FWJ田中「こういう時のために、俺がいるんだよね~

そう言いながら横から突進してき

 

FWJ田中「ごっつあんです!」と言いながら

シュートを放った

 

鋭いボールがゴール隅に放たれる

 

まこと「これ以上やれるかーーー!」

まことは体を投げ出しボールを何とか触り

 

ゴールラインの外へと弾き飛ばした

 

観客たち「おおおおおおおお」

      「よく触ったなーあのキーパー」

 

      「入ったかと思ったぜーーー!」

 

クラスメイト達「まこと〜〜〜〜〜〜〜!」

         「でかした〜〜〜〜〜〜!」

 

雄治は胸を押さえながら立ち上がり

   「ナイスキーパー!」

   「てか、超いてーんだけど」

 

浩太「もうチョイ後ろだよ!」

   「直地地点分からない?」

 

雄治「いいんだよ!」

 

吾郎「あぶねーだろ!」

   「超バカだな、このイノシシ野郎!」

 

雄治「あん?イノシシ????」

 

   「あたたたたた・・・」

雄治は胸を押さえながら、かなりダメージを受けたようだ

 

明子「雄治・・・・痛そう・・・」

修斗「雄治・・・・」

   「雄治が止めた」

明代「そうね」

 

修斗「超格好悪かった」

 

明代「そう?」

 

修斗「でも止めた」

 

明代「そうね」

 

堂源志高校のコーナーキックになり

 

左からニアに低い鋭いボールが入れられる

 

いつものようにそのボールにDMFF鬼塚がスーパーマンのように

空を舞いダイビングヘッドしてくる

 

DMFF鬼塚「おらぁぁぁぁあああああああああ!」

雄治B「させるかぁぁぁああああああ!」

     「おりゃぁぁぁぁあああああああああ!」

雄治は鬼塚に対して横からダイビングヘッドを食らわせに行く

 

二人の頭がボールに当たった後ぶつかり合う

頭と頭がぶつかる大きな音がする

 

観客「うわっぁああ!いたたたた」

   「ありゃぁ〜〜、痛いぞ!」

 

   「すんげー音したなー」

 

明子は「うっ!」と声を上げ目を瞑ってしまう

修斗「わぁ!」

修斗も顔をそむける

 

明代「修斗・・・あなたは見なさい」

   「しっかりと」

   「男の子なんだから」

 

修斗「う・・・うん」

 

   「今のは雄治がいなかったら入ってた」

 

明代「そうね」

 

クラスメイト達「雄治君大丈夫??」

もも「大丈夫だ」

  「あいつは、体が強いこと以外取り柄がない」

 

   「役に立てて本望だろう」

 

   「はははははは」

 

クラスメイト「もも・・・ひどい」

 

       「き・・・鬼畜」

 

もも「ははははははは」

  「なんとでもいえ」

   「本当のことだ」

そう言った後まじめな顔に代わり、こう言った

 

    「雄治は負けない」

 

ボールは雄治にもあたったためゴールには向かわずゴールラインを割り

再びコーナーキックとなる

 

次のコーナーキックもニアへ速い球が蹴られる

再び鬼塚と雄治が激突し大きな音を立てながら

ボールはゴールラインを割る

 

雄治「いてててて・・・」

   「頑丈な野郎だぜ」

 

鬼塚「こんの!イノシシ野郎!」

 

雄治「このままラインに逃げてもらちがあかん」

 

再びコーナーキック

堂源志高校はニアから鬼塚のダイビングヘッドのスタイルを変えない

 

ニアへ低く速い球が再び入れられる

 

鬼塚「今度こそーーーー!」

 

雄治「キックが正確すぎるんだよ!」

 

   「来ると思ってたぜー!!!」

 

キックの弾道を読んでいた雄治が前に打ち返すためにダイビングしている

鬼塚がゴールにたたきこむためにダイビングしている

 

修斗「雄治ぃぃいいいいいいいいいいいい!」

 

雄治の頭に先にボールが当たりボールを前へクリアすることに成功した

 

しかし、鬼塚の頭と雄治の頭が正面衝突する

大きな鈍い音が響く

 

修斗「雄治ぃいいいいいいいい!!!!!!」

クリアボールを浩太が拾うが

 

二人がその場に倒れたままなのでボールを外に出した

 

審判が二人のもとに向かう

 

鬼塚はゆっくり頭を押さえながら立ち上がる

雄治は何とかあぐらをかく姿勢まで戻すが

まだ立ち上がれない

 

まこと「大丈夫か」

雄治「つつつ・・・・」

 

審判が雄治を見ると額から血が出ているようだ

 

審判はベンチ側に合図を送り治療を促す

 

雄治はフィールドの外に出され治療を受け始める

 

雄治はフィールドに戻れないまま

試合が再開される

 

修斗「雄治ぃぃいいいいいいいいいいい!」

   「雄治ぃいいいいいいいいいい!」

雄治はフィールドの外で座り込みながら治療を受けている

 

浩太が出した球を堂源志高校がスローインでまことに向かって

ボールを返してくれる

 

まこと「雄治が戻るまで無茶せず」

    「ゆっくりバックラインで回せ!」

 

そう言いながらCBA森にやさしくボールを転がし渡す

 

玉高はしばらくバックライン・ボランチあたりでボールを安全に回す

 

堂源志高校は勝っているためこのラインでは無理に取りに来ない

 

時間がいたずらに過ぎていく

 

堂源志高校のゴールに対してずっと背中を見せて

パスを受けていた浩太がCBA森からのパスを受け

急ターンをし大地に膝下ライナーパスを出す

幸彦F「おいっ!」

 

浩太が左サイドに開きながら駆け上がる

拓真が真中に絞りながら駆け上がる

 

大地は敵ゴールの方を向いたままアウトサイドを使ってボールをこすり落とし

綺麗に足もとに収める

 

敵の6番がすぐに大地に当たってくるが360度ターン10歩を使って

6番をいなす

すぐに鬼塚が大地にチェックを入れに来る

大地はバック走ドリブル3歩で鬼塚のタックルをかわし拓真に

膝下ライナーパスを出だす

 

大地はもう一度タックルをしに来ていた鬼塚に

キック直後吹き飛ばされる

 

明子「だいちぃいいいいいいい!」

 

大地は後ろ向きに転がるが上手に体を使ってそのまま立ち上がり走り出す

鬼塚がその走行コースを妨害するため体をガンガン当ててくる

 

鬼塚F「いかすかーーーー!」

 

明子「がんばれ!がんばれ!大地!」

   「がんばれ!がんばれ!大地!」

修斗「はやく!雄治!立ってぇ~~~~!!!」

   「雄治ぃぃぃいいいいいいいいいい!」

 

拓真『先輩なら5050でも取ってくれる!』

 

   「せんぱーーーーーーーい!」

そう叫びながら大地に膝下ライナーパスを出す

 

鬼塚は大きく足をだし先にボールに触る

 

大地「あ〜あ、それじゃあ、ダメなんだよね」

 

鬼塚「!?」

 

鬼塚は大きく足を放り出したためすぐには動けない

 

1Mほど前にはじかれたボールを大地が高速ステップで拾いに行く

それを鬼塚が追いかける

大地はそのボールに追いつくと左サイドを駆け上がっていた浩太を

内側に誘導する膝下ライナーパスを出す

 

大地がボールを蹴り終わるか終らないかでまた鬼塚がタックルで大地を吹き飛ばす

 

明子「だいちぃいいいいいいいい!」

 

大地は転がりながらもその勢いを利用してすぐ立ち上がる

 

観客たち「あの7番アフターばっかりじゃねーか」

      「あれファールだろ!」

 

      「玉高の10番、倒れてたらファールもらえるのに

       立つから」

 

もも「そんなつまらんファールいるか!」

   「渦が消えるだけだ」

 

クラスメイト「渦?」

 

もも「よく見といて、一番高いところに来た意味がきっと分かるから」

 

明子「がんばれ!がんばれ!大地!」

   「がんばれ!!がんばれ!!大地!!!」

 

明子の声援はどんどん大きくなってゆく

 

修斗「雄治が!雄治がたった!」

 

明代「ええ」

 

修斗「雄治ぃぃいいいいいいいい!」

 

浩太はボールを受け真中に切り込んでくる

拓真が左サイドに開きながらポジションを上げていく

大地はトライアングルの一番底になりながら

ポジションを上げていく

 

浩太が拓真に膝下ライナーパスをだし

 

敵の最終ラインまで迫る

 

拓真はその球を綺麗にトラップし

サイド深い位置まで切り込み

低く速いクロスを上げる

 

そのクロスに対し坂口と浩太がダイビングしている

 

しかし、CBA甲斐にクリアされてしまった

 

ボールはラインを割り玉高のスローインになった

雄治はやっと治療を終え、ポジションに戻っていく

 

修斗「雄治ぃいいいいい!がんばれーーーー!」

 

スローインから再びMFトライアングルのパス回しが始まる

 

鬼塚は躍起になって大地に当たりに行くがスルスルかわされ

マグナム・ヴォルテックスでダブルボランチ二人共を転ばせ

 

拓真に膝下ライナーパスを出す

 

鬼塚「くっそう!」

 

観客たち「おおおおおおおお!」

      「又だ!」

      「回転して敵をなぎ倒していくぞ」

      「あの10番」

 

      「しかし、なんで転んじゃうんだろ」

      「こっから見てたら笑えてくるな」

 

CBA甲斐「10番にあたりにいったらだめだ!」

       「ゾーンディフェンスに切り替えろ!」

       「ゾーンで進行を防げ」

 

       「MFがクルクル回ってつかみどころがない!」

 

鬼塚は「畜生!」と叫びながらポジションを下げていく

 

ももは立ち上がり「来るぞ!」と叫ぶ

 

クラスメイト「もも?」

 

もも「見ろ」

  「大地のポジションに影響され

   敵と味方が動いている」

 

クラスメイト「う・・・うん」

 

もも「もうすぐ大きな渦と波が起きる」

 

クラスメイト「?」

 

大地『ゾーンディフェンスねー』

   『それ不正解』

 

   『ももちゃ』

   『でこがジンジンするぜ』

 

   『めちゃくちゃするよな』

   『いてーし』

 

   『それにしても、今日の俺は冴えている』

 

   『脳内の想像の世界に入るのも大概にせーって・・・浩太・・・間違いだろ』

 

   『いや、雄治が間違ったんだろうな』

 

   『ももはそんなこと言うはずがない』

 

   『そう』

   

   『正しくは』

 

   『「脳内の創造の世界に入り」

    「体現者となれ!」だ!』

 

   『見ろよ、あんな大きなゴール』

 

   『コースが見える』

 

   『ボール4つ分空いてる・・・余裕だ』

 

   『階段パフォーマンスの副産物』

 

   『いくぜ!』

 

大地はじりじりとドリブルをしながら鬼塚に近づき

たまらず飛びこんできた鬼塚をクライフターンで一撃でかわし

 

いつもより深く踏み込みキックフォームに入る

軸足が深く深く沈み込む

蹴り足が鋭く振りぬかれる

 

観客たち「撃つんかい!」

      「駄目だ高すぎる」

 

ゴールキーパーは外れたと思い軽くジャンプしボールをやり過ごす

 

ボールがネットに突き刺さる音がする

 

ゴールキーパー「え?」

 

CBA甲斐「!!!」

       「落ち・・・た」

 

観客たち「ええええええええええ?」

 

      「めちゃくちゃ落ちたぞ」

      「ドライブ気味だ!」

 

      「はいったーーーーーーーーーー!!!!」

 

      「同点にしやがったーーーーーーー!」

 

拓真「しぇんぱーーーーーーいいいいいいい!!!!」

浩太「だいちぃいいいいいいい!」

雄治「でかしたぁあああああ!」

 

 

クラスメイト「ど・・・・ドライブ???」

 

もも「異常なほど軸足が沈みこんだだろ?」

   「底からこすりあげているからドライブ気味になる」

 

   「階段パフォーマンスで沈みながら走る練習が」

   「とんだ副産物を生んだものだ」

   「はははははは」

 

   「ゾーンディフェンスなんて何の効果もなさない」

 

   「ははははははは」

   「堂源志はどうしたらいいのかわからなくなったことだろう!」

 

   「勝ちが確定した」

  「マグナム・オーシャンの条件を満たした」

 

  「もう、大地を追いかけることしかできない!」

 

明子「だいちぃいいいいいいいい!!!!!」

   「だいちぃいいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

もも「大地はもう二度と後ろを向かない」

  「ポジションを下げない」

 

  「勝ったからだ!

 

クラスメイト「?」

 

吾郎たちはセンターサークルにボールをセットしながら

確認をしている

 

吾郎「慌てるな振出しに戻っただけだ」

FWJ田中「そうそう」

       「これで、向こうもこっちも全部手の内が見えたってことだろ」

       「これからだ」

 

DMFF鬼塚は青ざめた顔をしながら返事もできない様子だ

 

大地『あー、でこがいてー』

   『スゲーたんこぶができてるんじゃねーか?』

そう思いながら、ももがくれた髪止め用のゴムを腕から外している

 

堂源志高校のキックオフで試合が再開される

 

大地は髪の毛を頭のてっぺんで結びながら

ゆっくりと堂源志高校のゴールに向かって歩いていく

 

吾郎は大地が守備を全くせず、歩いていく姿を見ている

 

吾郎『あん?』

   『なんだ・・あいつ』

 

大地は髪を結い終わりCBA甲斐の真ん前に立ち

結った髪を風になびかせながら、ずっとゴールを見ている

 

CBA甲斐『な・・・なんだこいつ』

甲斐は異様な圧迫感を感じジリジリ下がるがそれに合わせて

大地は前に行く

 

堂源志高校GK「甲斐!さがるな!」

          「ラインが崩れてるぞ!」

 

CBA甲斐「だ・・・・駄目だ!」

      「こいつは・・・・・やばい」

 

そのやり取りを聞き吾郎が大地を見る

 

頭のてっぺんで結われた髪と10番の背番号が目に飛び込んでくる

 

吾郎『!!!!!』

 

   「あ・・・・・あいつ」

   「あいつだ!」

 

雄治大地が髪を結っていることに気付く

 

雄治『・・・・・・・・・』

 

   『もも』

   『ももだ・・・・』

 

   『ももと同じ』

 

   『10番のオーラ!』

 

   『10番のオーラが早くボールをよこせと言っているのがわかる!』

 

  「勝ったーーーーー!」

 

幸彦F「あん?」

まこと@「へ?」

 

雄治B「勝ったぞーーーー!」

   「浩太ーーーー!さっさとボールとれー」

 

浩太Eは笑いながら「はいはい」といい敵にチャージを繰り返す

 

雄治「大地はもう振り向かない」

   「ももと一緒だ」

 

   「大地はディフェンスなんかしない」

 

幸彦「え?それ・・・あかんやろ?」

 

雄治「いいんだよ!」

 

浩太はボールを持った鬼塚に対しプレスをかけに行く

 

浩太『大地の中に宿ったもも』

   『ももがフィールドに帰ってきた』

 

浩太が激しく鬼塚にタックルをする

 

鬼塚F「くっ!」

 

そこにすかさず雄治が飛び込んでくる

 

雄治「うりゃぁあああああ!!」

 

浩太と雄治が鬼塚を挟み込みボールを奪い取る

 

吾郎H「だめだ!絶対ボールを失うな!」

吾郎・鬼塚・雄治・浩太の4人が激しくぶつかり合いっボールを奪い合う

 

観客たち「ああああ、玉高センターバック飛び出しすぎだ!」

      「ボールを取られたらまずいぞ!!」

 

      「真中がごっぽり空いている!」

 

修斗「雄治ぃいいいいいい!勝てーーーー!」

 

雄治は吾郎と鬼塚をなぎ倒しボールを奪い取る

 

クラスメイトたち「でかしたーーーーー!雄治ーーーーー!」

修斗「やったーーーーーーー!」

 

雄治「ももの!」

   「もものドリブルが、どこででも通用することを」

  「証明してやれーーーーーー!」

 

  「だいちぃいいいいいいい!」

そういいながら大地の方向に向かってボールをけりこむ

 

吾郎は懸命に戻る

 

吾郎H10番にボールを渡すなーーー!」

 

     「さがれーーーーー!」

 

FWJ田中「おいっ!吾郎お前は下がるな!」

 

吾郎H「前にいてもボールなんて二度と帰って来やしない」

     「俺はあいつと決着をつける!」

 

FWJ田中「あん?」

 

大地は上手に前を向いたままアウトサイドでボールをこすり落とし

足元20cmボールを収める

 

大地のもとに鬼塚と吾郎が迫る、前には甲斐がいる

 

大地『バック走ドリブル3歩』

   『鬼塚と接触』

   『肘より肩よ

   『ムーンステップドリブルで背中に入れる』

   『そのまま回転』

   『鬼塚は倒れる』

   『さらに右斜め後ろにバック走ドリブル5歩』

   『吾郎は大股走行なため、方向転換に間に合わず』

   『倒れた鬼塚の場所に到達、ジャンプしてよける』

 

観客たち「なんじゃ今の動き〜〜〜!?」

      「前向いたまま下がって」

      「また元の場所に戻っている!」

 

もも『金魚の動き・・・』

 

クラスメイト達「まるで後ろが見えているみたい!」

もも「見えてるんだよ」

   「脳内の創造の世界に完全に入った」

 

クラスメイト達「へ?」

 

もも「ゾーンだ」

 

クラスメイト達「ゾ・・・ゾーン?」

 

もも「野球でよくボールが止まって見えるとか言うでしょ?」

 

クラスメイト達「え・・・ええ」

 

もも「それがゾーン状態だ」

   「今大地はゾーン状態に完全に入っている」

 

   「芝生の葉っぱの11本まで見えている」

    「ゴールが大きく見えている」

    「敵の動きがなんて遅いんだろうと感じている」

 

クラスメイト達「ほ・・・本当なの?」

 

大地は甲斐A・吾郎H・鬼塚Fをひきつれながらドリブルで駆け上がり

追いつかれ挟まれそうになると

バック走ドリブル・ムーンステップドリブル・肘を巧みに使い

 

3人の敵を簡単にいなしていく

 

堂源志高校GK「ずるずる引きずられるな!」  

       「いったん離れてポジションを下げろ!」

 

観客たち「おおおおおおおお、堂源志高校大慌てで全員下がっていく」

     「なんじゃこれ???」

     「あんなに下がっちゃダメだろ!?」

 

大地は3人をかわした後サイドを駆け上がる拓真に内側に来させるための

膝下ライナーパスをだし

自分は、サイドに開いていく

 

大地・拓真・浩太のMFトライアングルが回転しながら

敵を翻弄する

 

大地を軸として大きな渦が巻き起こる

 

観客たち「な・・・なんだこれは・・・・」

     「玉高の10番の動きに影響されて」

     「フィールドの20人・・・いや堂源志のキーパーも…」

 

      「21人がポジションを変えていく」

 

      「異常だろ!」

      「こんなの見たことない!」

 

その渦に巻き込まれた相手選手はバタバタ転がっていく

 

MFトライアングルはシュートを打つこともなくそのまま

ゴールに突き刺ささった

 

観客たち「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

    「逆転しやがったーーーーー!」

 

     「パス回ししたままゴールに入ったぁぁぁああ!」

 

観客席すべてがスタンディングオベーション

 

スタジアムすべてが波のようになっている

 

クラスメイト達「うおおおおおおおおおおおおおお!」

        「ウェーブウェーブ!」

        「わーーーーーーーーーー!」

        「観客席全体でウェーブが起きてるよーーー!」

 

         「もも!はやく!ももも〜〜〜〜」

 

もも「大地ーーーーー!!!!」

 

   「これがマグナム・オーシャンだぁぁああああ!!!」

 

   「感じるだろう!!!」

   「サイコーだろぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

   「あはははははははははははははは!」

 

ももは応援団の団旗を持っている男のところに走っていく

 

クラスメイトたち「ももーーー!もももウェーーブしよーよー」

 

もも「こらーーーー!お前、ぼけっと眺めてないで旗を振れ!」

応援団員「あ、グレマゴ」

 

もも「誰がグレマゴじゃい!」

そう言いながら脇腹に蹴りを入れ団旗を奪い取る

 

もも「貸せ!このヘタレ似非応援団が!」

 

 

ももは団旗を天に突き立て笑っている

 

    もも「あはははははははははは!!!」

       「だいちぃぃいいいいいいいい!!!!」

 

      「今あなたが私たちの10番になった」

      

      「あはははははははは」

 

      「サイコーだろぉおおおおおおおおおお!!!」

 

堂源志高校のキックオフで試合が再開され

堂源志ボールにもかかわらず

まだ大地のポジションに21人が影響され続けている

 

吾郎は前に上がらない

 

観客たち「おいおいおい!マイボールなのに」

     「何かビビッてねーか???」

 

吾郎『そうだ・・・・・』

   『あの時と同じ』

 

    『そうだったんんだ』

 

    『俺はこいつにずっと会いたかったんだ』

 

    『俺はずっと・・・・焦がれていた・・・・』

 

    『くやしいけど・・・・うれしい』

 

そうこうしているうちに浩太がボールのインターセプトに成功し

MFトライアングルのパス回しが再開される

 

大地を軸にして渦が起きている

トライアングルに影響されさらに別の渦が起きている

 

たくさんの渦が堂源志高校ゴールに向かって

波のように押し寄せていく

 

大地はインサイド・アウトサイドをランダムに使うフェイントドリブルで

一人かわす

 

もも「おういえ!!」

 

前後左右四人に挟まれ、足を引っ掛けられるが

膝をつきながらも足を動かし続け

そのまま走り抜けていく

 

観客たち「うおおおおおおおお!」

     「あの体制のまま走り続けやがた!!!」

 

もも「階段パフォーマンスじゃ!」

   「いっけーーーーーーーー!」

 

FWJ田中以外を残して全員がディフェンスに戻っている

大地にどんどん敵が迫ってくる

 

大地は左インサイドにボールを引っ掛けながら

右側に1M50CM横っ飛びする

 

雄治「おおおおおお!横スライドーーーー!」

観客たち「なんじゃ今のーーーーー!」

     「瞬間移動したぞーーーー!」

 

大地は一人かわしシームレスにドリブルを続ける

 

敵がさらに大地を挟みに来る

 

雄治「おっしゃー!許可する」

   「やれーーーーーーーー!」

 

大地は二人の間を縦に瞬間移動する

 

雄治「縦スライドーーーーー!!!!」

もも「おほほ!」

   「公式試合でやるとか、バカだろ!」

   「使用料100円〜〜〜〜!」

 

一度抜かれた選手たちも大地を追いかける

大地の足元にどんどん足が入ってくる

 

大地『くっ!』

   『カッツンカッツン来るなー!』

 

ボールは何度も大地の足から離れるが

大地は追いかけ続ける

 

   『ドリブルは失敗の連続!』

    『最後まで走り続けたお前の足に』

 

    『きっとボールはあるだろう』

 

大地は敵を56人ひきつれたままGKをかわし

ゴールにボールをたたきこんだ

 

ゴール前ではGKと追ってきた選手たちが交錯し

重なり合うように倒れている

 

観客たちは、ウェーブをずっと続けている

 

観客たち「うぉぉおおおおおおおおおおおおお!」

 

もも『なんて大きな海・・・・』

   『観客席まで巻き込んでいる・・・・』

 

   『最大級のマグナム・オーシャン』

 

   「だいちぃいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

ももは力の限り団旗を振っている

その瞳には涙がうかんでいるようだった

 

 

選手権県予選 決勝

  

  ○玉之浦高校 6 − 3 堂源志高校●

     

シーン@ラストシーン

    3月にしては暖かい日差しが春を予感させるような日 

 

太陽が海に近づき色を変えていく   

 

    いつもの海辺で珍しくスカートをはいているもも

    今日は髪の毛を頭のてっぺんで結んでいない

    きれいな髪がさらさらと風になびいている

 

    大地はももの夢が何だったのか思い出していた

 

    ももは、水平線の彼方をずっと見ている

    風の音と波の音だけが聞こえる

 

    そこはとても静かなところ

 

    ももは頬を撫でるさわやかな風を受けながら

    ずっとここにいたいと感じていた

 

    ぎゅっぎゅっという足音が聞こえてくる

 

    ももにはそれが大地の足音だということがすぐに分かった

    しかしももは振り向かなかった

 

    大地は、もものがなぜ「振り向かないのか」という雄治から

    出された問題をすでに解いていた

    だから、ももがとてもかわいらしいと感じていた

 

    大地「もも」

 

    ももは振り向かない

    髪とスカートををなびかせずっと海を見ている

 

    大地「ももちゃ」

 

    ももは小さな声で何か返事をしたようだったが

    波の音にかき消され大地は聞き取ることができなかった

 

    二人とも、もともと知っていた

    なぜなら、それは当たり前のことだから

    その時が来てほしくないと心から願っていた

 

    しかし、それは当然叶わない

 

    終わりの時

    大地とももの高校生活

 

    それは今

 

    まさに今終わろうとしていた

 

    大地も心地よい風を受け

    いつも見ている見慣れた景色

    それでいてさまざまな姿を見せてくれる景色

    毎日見ている景色

    それでいて懐かしい景色

    それを目に焼き付けようと

 

    ずっと海を見ている

 

    初めてももが振り向く

    髪をかきあげながら何も言わず大地を見ている

 

    その手や顔は以前と違いとても白く美しかった

 

    大地はももの姿を見て

      『今捕まえなければ、二度と捕まえられない』

    そう強く思った

 

    大地「ももちゃ」

 

    もも「・・・・・・」

 

    大地「ももちゃの夢を・・・」

 

       「思い出した」

 

    ももはまた海の方に向き直り

      「そう・・・」と小さな声で答えた

 

    大地「小学生の時、言ってたやつ・・」

       「だよな?」

 

     もも「・・・・・・」

 

    大地「あ・・・」

       「あら・・ちがった・・か?」

 

     もも「それ以外に私が夢を語ったことがあったか

      思い出してみればわかることだ」

 

    大地「・・・・・・」

 

風と波の音が優しく鳴り響いている

 

    大地「ない」

 

    もも「そうだ」

 

    大地「い・・・今でも・・・か?」

 

    もも「・・・・・・・」

       「私の今までの言動を総合すれば

        簡単にわかることだ」

 

    大地「・・・・・」

       「そうか・・・」

 

       「なら・・・」

 

       「お前の夢は、きっと叶うだろう」

 

    もも「だろうだと!?」

      「腑抜けたことを言うな」

      

 

   大地「はははははは」と少し笑い

      「絶対叶う!」

 

    もも「・・・・・」

       「それは・・・本当か?」と自信なさそうに小さな声で尋ねた

 

    大地「ああ、本当だ」

ももはずっと海を見ている

 

さわやかな風を全身で受け

大きく息を吸ってみる

 

それをゆっくりと吐き出し

     もも「ありがとう」

       「うれしいよ」と答えた

 

ももはスカートの裾をつまみ

少しだけ持ち上げ

 

もも「問題を出そう」

 

大地「あ?」

 

もも「今日、なぜ私はスカートをはいているのでしょう?」

 

大地「ん?」

   「女の子らしく・・・見せるため?」

 

もも「ぶー」

  「まったく違う」

  

  「行くぞ!」

そう言いももは走り出す格好をした

 

大地「はぁ?どこに?」

 

ももは走り出しながら

  「それくらい、わかれ!」と言い放った

 

大地は「なんだ?」と言いながらももを追いかける

 

スカートがまとわりつきももはうまく走れないようだ

 

大地とももの距離がどんどん詰まっていく

 

大地「待てよ!」

もも「待たないな!」

 

しかし、すぐに大地はももに追いつき

ももの腕を捕まえた

 

そのはずみでももはバランスを崩し

 

もも「わわわわわ」

 

いつもなら上手に足を使い転ぶことなどないのだが

スカートがまとわりつき転びそうになっている

ももは、大地も道連れにするために大地のことを思いっきり引っ張った

 

二人はまだまだ冷たい海の波打ち際で尻餅をついた

 

もも「あーーーーー!つめたーい!」

大地「わわわ、最悪!」

 

大地はゆっくり立ち上がる

ももは立ち上がらない

 

大地はももに手を差し伸べる

ももは大地の手を取りゆっくり起き上がりながらこう言った

 

もも「私は負けず嫌いなんだ」

 

大地「はぁ?」

 

もも「ヒントだ」

 

大地「なんの?」

 

もも「さぁ?」

  「なんだろうねぇ〜」

 

大地「なんだろうねぇ〜」

 

ももは大地の足を蹴り上げその場に転ばせる

 

大地「わーーーーーー!」

 

もも「一度濡れたらもう同じだ!」

  「ははははははは」

大地「おまえなーーー!」

大地もももの足を蹴りももを転ばせた

 

もも「わーーーーーー!!」

 

大地「なんだこれは?」

 

もも「さぁ?」

 

大地「・・・・・・」

 

もも「なんだろうねぇ〜」

 

大地「なんだろうねぇ〜」

 

大地・もも「なんだろうねぇ〜」

      「なんだろうねぇ〜」

 

二人はおかしくなってその場に大の字に寝転がり

大きな声で笑った

 

もも・大地「はははははははははは」

 

 

風の音

波の音

二人が笑う声

 

ただそれだけが茜色にキラキラ輝く海に響いていた

 

まだまだ明るい夜空に

強い光を放つ星だけが輝いている

 

ももは、一つの星を指さし、そしてまた別の星へと線を描き

笑顔の形をした星座を探している

 

         Ж マグナム・オーシャン Ж  おわり

 

20120811